新しい音
*kfkeワンドロワンライ第8回から『カウントダウン』を選択
年越しの瞬間にはジャンプするとか、カウントダウンライブの配信を見るとか、みんないろんなことを言ってた。僕だって年の数だけその瞬間を経験してるわけだけど、今回は今までとは違う。絶対にひとりで過ごしたくなくて、お風呂を済ませてからずっとリビングにいる。ダイニングのバーカウンターでは早くもダニエルがお酒を飲んでて、一杯くらいどうかって声をかけられたけど、遠慮させてもらった。
「本当によかったの?」
隣に腰掛けられるとともに、楓ちゃん愛用のシャンプーの香りが鼻を掠める。
「なにが?」
「……前に、カウントダウンは大さん橋に行きたいって言ってたから」
みんなには聞こえないくらいの声のトーンで、少し懐かしい話が出てきた。懐かしいっていっても、たった一年前の、まだ入院してた頃のことだ。次の夏に手術が受けられるからと、次の大晦日は楓ちゃんと一緒にカウントダウンイベントに行きたいって話してた。
「いいんだよ。僕が思ってた以上に、HAMAツアーズのみんなはここを好きになってくれたみたいだから」
HAMAツアーズ初めての年越しの瞬間は、みんなと過ごしたい。一年前の僕はカウントダウンイベントにかこつけて好きな子とデートしようなんて目論んでたけど、現実には、理由なんてなくてもデートできるようになったしね。
僕の答えに表情を輝かせて、やっぱり小声で楓ちゃんが続ける。
「汽笛の音、やっと一緒に聞けるね」
「うん」
今までは、病室のベッドのなかで汽笛の音に耳を傾けながら、なんとか一年間生きられた、新しい一年も生きられるかなって考えてた。ここ数年はHAMA復興のための勉強や人脈づくりをしてたから、感傷的になることは減ってたけど……それでも、あの音をひとりで聞いては、いつか楓ちゃんと聞けるようになりたいって、真っ白な部屋に飾った楓ちゃんからのお土産に、祈ってたよ。
「あ、三分前だ」
楓ちゃんの視線につられて、壁に掛けられた時計を見遣る。ずっと賑やかなリビングが、ひときわ騒がしくなった。あく太たちは未だにジャンプするしないの話をしてるみたい。
「可不可」
「……なに」
反対側の隣に雪風が腰掛けた。せっかく楓ちゃんとおしゃべりしてたのに。
「年越しの瞬間をこうして過ごせること、兄として嬉しく思う」
「弟になった覚えはないって何万回言えばわかるの。例外は一昨日限りっていうのも、しつこいくらいに言っておいたでしょ」
でも、なんだかんだいって、雪風とも長い付き合いだからね。彼も、僕が真っ白な部屋で不確かなものを何年も願ってたこと、知ってると思う。
來人に呼ばれて、雪風がキッチンに戻っていった。御節料理はもうつくってあるし、年越し蕎麦もさっきみんなで食べたのに、今は夜更かし組のためのラーメンやらシュウマイやらをつくってるらしい。おいしそうだけど、さすがにもうお腹いっぱいだから僕は遠慮させてもらう。
並んで腰掛けてた楓ちゃんが、周りからはわからないくらいに、ほんの少しだけ体を寄せてきた。
「可不可、今年もありがとうね」
「僕こそ。来年もよろしくね」
年越しの瞬間にはジャンプするとか、カウントダウンライブの配信を見るとか、みんないろんなことを言ってた。僕だって年の数だけその瞬間を経験してるわけだけど、今回は今までとは違う。絶対にひとりで過ごしたくなくて、お風呂を済ませてからずっとリビングにいる。ダイニングのバーカウンターでは早くもダニエルがお酒を飲んでて、一杯くらいどうかって声をかけられたけど、遠慮させてもらった。
「本当によかったの?」
隣に腰掛けられるとともに、楓ちゃん愛用のシャンプーの香りが鼻を掠める。
「なにが?」
「……前に、カウントダウンは大さん橋に行きたいって言ってたから」
みんなには聞こえないくらいの声のトーンで、少し懐かしい話が出てきた。懐かしいっていっても、たった一年前の、まだ入院してた頃のことだ。次の夏に手術が受けられるからと、次の大晦日は楓ちゃんと一緒にカウントダウンイベントに行きたいって話してた。
「いいんだよ。僕が思ってた以上に、HAMAツアーズのみんなはここを好きになってくれたみたいだから」
HAMAツアーズ初めての年越しの瞬間は、みんなと過ごしたい。一年前の僕はカウントダウンイベントにかこつけて好きな子とデートしようなんて目論んでたけど、現実には、理由なんてなくてもデートできるようになったしね。
僕の答えに表情を輝かせて、やっぱり小声で楓ちゃんが続ける。
「汽笛の音、やっと一緒に聞けるね」
「うん」
今までは、病室のベッドのなかで汽笛の音に耳を傾けながら、なんとか一年間生きられた、新しい一年も生きられるかなって考えてた。ここ数年はHAMA復興のための勉強や人脈づくりをしてたから、感傷的になることは減ってたけど……それでも、あの音をひとりで聞いては、いつか楓ちゃんと聞けるようになりたいって、真っ白な部屋に飾った楓ちゃんからのお土産に、祈ってたよ。
「あ、三分前だ」
楓ちゃんの視線につられて、壁に掛けられた時計を見遣る。ずっと賑やかなリビングが、ひときわ騒がしくなった。あく太たちは未だにジャンプするしないの話をしてるみたい。
「可不可」
「……なに」
反対側の隣に雪風が腰掛けた。せっかく楓ちゃんとおしゃべりしてたのに。
「年越しの瞬間をこうして過ごせること、兄として嬉しく思う」
「弟になった覚えはないって何万回言えばわかるの。例外は一昨日限りっていうのも、しつこいくらいに言っておいたでしょ」
でも、なんだかんだいって、雪風とも長い付き合いだからね。彼も、僕が真っ白な部屋で不確かなものを何年も願ってたこと、知ってると思う。
來人に呼ばれて、雪風がキッチンに戻っていった。御節料理はもうつくってあるし、年越し蕎麦もさっきみんなで食べたのに、今は夜更かし組のためのラーメンやらシュウマイやらをつくってるらしい。おいしそうだけど、さすがにもうお腹いっぱいだから僕は遠慮させてもらう。
並んで腰掛けてた楓ちゃんが、周りからはわからないくらいに、ほんの少しだけ体を寄せてきた。
「可不可、今年もありがとうね」
「僕こそ。来年もよろしくね」