幼馴染みで、恋人で、


*天元虎晴と可不可の知り合った時期を都合よく捏造しているため、メインストーリーSeason2の展開次第では矛盾が生じるかもしれません

「KOBE0区長であるあなたに、いろいろ聞きたいんだ」――そう言ってmahorovaで接触してきた相手は、入院中のHAMAの名家の御曹司。なんでも、二十歳になったら手術を受けて、0区長を引き継ぐらしい。
 最初のうちは適当にあしらうつもりやった。こっちもKOBEの観光業にテコ入れすんのにかなり苦労したんや。それをパクってうまいことやろうとか虫がよ過ぎるやろって思ったしな。でも、mahorovaからビデオチャットに場が移って、おれの考えは変わった。こいつはとにかくおもろい。体は弱いけど頭はめちゃくちゃええし、かなりええ度胸しとる。こいつ以上に肝が据わったやつ、なかなかおらん。適当にあしらってハイサヨナラなんてもったいない。
 おもろい話にはとりあえず乗ったろと思って、おれなりにKOBEのあかんかったとこと今のええとこを話したり、おれなりの〝数年後のKOBEのビジョン〟ってのを可不可に望まれるまましゃべったりしたった。もちろん、タダやない。HAMAを再起させて、おれに見せろやって条件。ちょろっと盛り上がる程度じゃ許さん、おれがビビるくらいのモンにしろ。可不可は面食らうでもなく、しれっとした顔で「いいよ」とか言いおった。なんなら挑戦的な顔。これがこいつのおもろいとこ。こいつがKOBEにおったら、間違いなく、観光区長に指名してたと思う。
 そっからまぁ、あいつらがKOBEに研修旅行に来たり、おれらがHAMAに招待されたりって感じで付き合いが続いた。
 おれの目の前には、一通のメールが表示されとる。HAMA0区長・大黒可不可からの招待状や。
 なんやかんや細〜い仲が続いとるHAMA0区長からのお誘いときたら、行かんわけにはいかんやろ。しかも、長年大事に大事にしてた幼馴染みが相手やって? そんなん、絶対おもろいに決まっとる。はよ当日にならんかな。
 幼馴染みって、あれやろ。あの主任さん。なんやきれいなお顔で、見るからに真面目ないい子ちゃんで、えらい爽やかな兄ちゃんな。可不可がずっと横に張り付いとった記憶あるわ。
 にしても、あの可不可がか〜。思ったより早かったな。仕事じゃてきぱき動くくせにそっち方面は亀よりゆっくりやからあと十年はかかると思っとった。こら、水面の「長く見積もっても二年くらいかな」って予想が大当たりや。水面のやつ、おれには隠してるつもりらしいけど、漫画描いとるしな。しかもかなり人気の。せやから恋とか愛のアレソレにはおれより詳しいんやろ。
 ってわけで、おれは――前もって打診はされとったけど――ごていねいに送られてきたメールの『ご出席』を迷いなく選んだ。ついでに、ぱぱぱっとメッセージも打っとく。おれは忙しいけどどんなことも手は抜かんって決めとるからな。それがおもろいことならなおさらや。

 ◇

 夕べ招待メールを一斉に送ったのもあって、今日は朝から返信メールのチェックに追われてた。俺の友だち、恩師……前もって言ってたとはいえ、出席を選んでもらえてるのを見ると、胸の奥がじんと熱くなる。
「うわ」
 俺と一緒になってパソコンの画面と睨めっこしてた可不可が顔を顰める。
「どうしたの?」
 可不可のパソコンをそっと覗き込むと返信元の欄に『天元虎晴』の名前があった。そういえば、KOBEのひとたちにも招待状を送ることにしたんだっけ。
「あいつ、本当にうるさいんだから」
「なになに?」
 どうやら、出席の返事にメッセージも添えてくれてるみたい。可不可の知り合いとはいえ、俺も面識はあるし、今後もお世話になるだろうから知りたいな。ダメかな。
「……楓ちゃんは見ちゃダメ」
「えぇ……」
 もしかして、声に出すのがちょっと憚られる内容だったのかな。……俺、別にそういうの聞いても平気なんだけどね。本当、可不可って俺に対して相変わらず過保護なんだから。
 可不可はスマホでPeChatを開くとなにやら爆速でメッセージを打ち込んだ。きっと、さっきの「うわ」に対しての返事なんだろう。なんだかんだいって仲いいんだよね。俺のほうが可不可と付き合い長いはずだけど、俺たちが友だちなだけだった頃とはまた違った、関係の深さを感じる。……別に、妬いてないよ。こっちが妬く余裕なんてないくらい、可不可は俺のことばっかり見てくれてるの、わかるから。
 でも。
「あんまりケンカしちゃダメだよ」
「しないよ。虎晴がくだらないこと言ってるだけ。ケンカにすらならない」
 そういえば、雪にぃとか……あと、生行くんにも、こういう口調になるときあるよね。俺には絶対ならない。俺には、ちょっとかわいい話し方だよね。そのくせ、デートのときはすごく紳士的。昔はなんとも思わなかったそのギャップにときめくようになって……一年半くらい?
「……たまには、俺にもそういう態度取ってみてもいいよ」
「は? いきなりなに?」
「だから、ちょっとくらい雑に接してもいいよってこと」
「するわけないでしょ。僕を誰だと思ってるの?」
 誰って、可不可は可不可だよ。でも、俺たちの関係を答えるなら、昔に比べて、名前が増えたからなぁ。どれがいい? ……なんてね。ここで答えるのは一択だよね。わかってるよ。
「ごめんごめん。俺こそちょっといじわる言っちゃった」
 本当は、一ミリくらい妬きました。子どもの頃から俺のことを大事にしてくれてるからこそ、俺にだけは絶対にそういう態度取らないよね。だから、ちょっとだけ羨ましくなったんだ。本当の本当に、ちょっとだけだよ。だって、俺にしか見せない顔がもっとたくさんあること、ちゃんとわかってるし。俺はそっちをこれからもずっとひとりじめしていい権利、もらってるからね。ただ、ときどき「いいなぁ」って思うくらいは許してほしいな。
「……ちょっと妬いてるのかわいいけど、別にやきもち妬く必要なくない?」
 スマホをそばに伏せた可不可が、俺の手指に指を絡めてくる。薬指に行儀よくおさまってるプラチナが、部屋の灯りを反射してきらめいた。