蛇を見てる
よだゆんに敗北するゆん狙いのモブ女
夢十夜のマスターがものすごくきれいな男って噂で聞いて、お酒とかあんまりわかんないけど行ってみることにした。
確かに、すごくいい男。ミケランジェロもびっくり、みたいな。や、ミケランジェロわかんないのに適当に言った。うーん……顔面ルーブル美術館ですかぁ? ってくらい、きれいな顔。ルーブル美術館も行ったことない。地元の美術館すら行ったことない。あたし、絵より音楽派だし。音楽も、サブスク上位のやつを適当に聴いてるだけだけど。
あ、音楽って意味では、この店はほんとに当たりだった。マスターのペットロボの選曲、めっちゃいい。そのときのお客の雰囲気に合わせてくれるし、マスターに言えばリクエストも聞いてくれる。音楽にそこまでこだわりのないあたしでもメロっちゃう。
でも、マスターよりも、あたしは断然、従業員の男の子のほうが好み。夢十夜に行くたびメロっちゃうのは、音楽にもだけど、この男の子のせい。
初めてお店に行ったときに「ゆんゆんでーす」って話しかけてくれた。マスター寝てるけどそろそろ起こすからこれでもつまんで待っててくれます? って燻製のポップコーン出してくれてさぁ、そのときのへらっとした顔に一発でやられた。まじ好みなんですけど。服の上からでもわかるくらい筋肉がしっかりしてる男より、ウエストの細さが際立ってるきれいでかわいい男がストライクゾーンだから、ゆんゆんをひと目見た瞬間、平成の少女漫画みたいなエフェクトが周りに出てきた。
ゆんゆん、脚が長くてモデルみたい。顔もすごくいい。黙ってても意味わかんないくらい色っぽい。おまけに、誰が見てもわかるくらいチャラい。元彼が最悪だったからしばらく恋愛はいらないんだけど、定期的に気持ちいいことはしたいんだよね。ゆんゆん、うまそうじゃない?
最近はなんとしてもゆんゆんをお持ち帰りしたくて、夢十夜に行くたび営業時間終了まで粘ってる。いつの間にか、たいして興味なかったお酒が好きになってた。マスターのつくるカクテル、見た目が映えるし味もおいしいんだよね。dazzleにアップしたいけど、これ以上夢十夜の客が増えてゆんゆん狙いのライバル爆誕しても困るな〜って、FFゼロの鍵垢でフォトアルバム状態にしてる。
「ねぇ〜、ゆんゆん〜、dazzleのIDくらい教えてよぉ〜」
ガチの連絡先はいらない。飽きたらしれっとブロできて別垢監視も簡単なdazzleがちょうどいい。お酒に酔ったふりして、今夜もゆんゆんに絡む。当然、演技。今まであたしにこうされて喜ばない男はいなかった。
「え〜dazzleってキラキラ系のひとがやるやつっしょ? オレやってないんで〜」
そんなこと言って、どこからどう見たってdazzleやってる系の顔じゃん。本垢じゃなくてもいいから教えてよ。
「じゃあ、アカウントつくればいいじゃん。ゆんゆん向いてると思うんだけどな〜」
もしかして、チャラい見た目のくせにガードかたいタイプ? それはそれで燃える。身持ちのかたい男があたしのために情けなく腰を振る姿、絶対に見たい。
「――さん、飲み過ぎじゃないっスか〜?」
うーん、今夜はそろそろ引く? もう少し粘る? ……今日は他のお客ももう帰ったから、粘ろう。――そう決めて、グラスに口をつける。
ふと、マスターの夜鷹さんと目が合った。あたしの好みじゃなかったけど、このひとも本当にいい男。そんなふうに考えてたのが見透かされたのか、ふっと微笑まれた。え、なに、もしかしてこっちが脈あり? それならそれで、期待に応えてあげなくもない。
夜鷹さんがゆんゆんにバックヤードにあるなにかを取ってくるように指示して、ほんのわずかなあいだだけ、ゆんゆんがいなくなった。え、ふたりきりじゃん。夜鷹さん狙いに変えるべき?
「……うちの従業員には、お客様とあまり親しくなり過ぎないよう教育していてね。話好きな彼が罪悪感に苛まれないようにしてもらえると、助かるのだけれど」
……はい? え、なにこれ。もしかしてあたし、牽制されてる?
いい感じに入ってたお酒がどっかに飛んでった。なにもかもばれてた恥ずかしさで、顔が熱い。相手がすごく顔のいい男って点が恥ずかしさをかさ増ししてくる。顔のいい男の前では美人でかわいくありたいあたしのプライド、ずたずた。
「夜鷹さーん、言われてるやつ、ないんすけど〜」
「気のせいだったかな。わざわざ手間をかけさせてしまったね」
「いいですけど……あれ?」
ゆんゆんの顔を見てられなくて、慌ただしく帰り支度を始める。
「あ〜、あたし、明日の仕事で早く行かなきゃなの忘れてて! お会計お願いします!」
いつもみたいな絡みなんてこれ以上できるわけもなく、コード決済でぱぱっと済ませて、取り繕った笑顔でひらひらと手を振って夢十夜をあとにした。店を出た瞬間、全力ダッシュ。
なにあれ! 絶対勝てないんですけど!畳む
夢十夜のマスターがものすごくきれいな男って噂で聞いて、お酒とかあんまりわかんないけど行ってみることにした。
確かに、すごくいい男。ミケランジェロもびっくり、みたいな。や、ミケランジェロわかんないのに適当に言った。うーん……顔面ルーブル美術館ですかぁ? ってくらい、きれいな顔。ルーブル美術館も行ったことない。地元の美術館すら行ったことない。あたし、絵より音楽派だし。音楽も、サブスク上位のやつを適当に聴いてるだけだけど。
あ、音楽って意味では、この店はほんとに当たりだった。マスターのペットロボの選曲、めっちゃいい。そのときのお客の雰囲気に合わせてくれるし、マスターに言えばリクエストも聞いてくれる。音楽にそこまでこだわりのないあたしでもメロっちゃう。
でも、マスターよりも、あたしは断然、従業員の男の子のほうが好み。夢十夜に行くたびメロっちゃうのは、音楽にもだけど、この男の子のせい。
初めてお店に行ったときに「ゆんゆんでーす」って話しかけてくれた。マスター寝てるけどそろそろ起こすからこれでもつまんで待っててくれます? って燻製のポップコーン出してくれてさぁ、そのときのへらっとした顔に一発でやられた。まじ好みなんですけど。服の上からでもわかるくらい筋肉がしっかりしてる男より、ウエストの細さが際立ってるきれいでかわいい男がストライクゾーンだから、ゆんゆんをひと目見た瞬間、平成の少女漫画みたいなエフェクトが周りに出てきた。
ゆんゆん、脚が長くてモデルみたい。顔もすごくいい。黙ってても意味わかんないくらい色っぽい。おまけに、誰が見てもわかるくらいチャラい。元彼が最悪だったからしばらく恋愛はいらないんだけど、定期的に気持ちいいことはしたいんだよね。ゆんゆん、うまそうじゃない?
最近はなんとしてもゆんゆんをお持ち帰りしたくて、夢十夜に行くたび営業時間終了まで粘ってる。いつの間にか、たいして興味なかったお酒が好きになってた。マスターのつくるカクテル、見た目が映えるし味もおいしいんだよね。dazzleにアップしたいけど、これ以上夢十夜の客が増えてゆんゆん狙いのライバル爆誕しても困るな〜って、FFゼロの鍵垢でフォトアルバム状態にしてる。
「ねぇ〜、ゆんゆん〜、dazzleのIDくらい教えてよぉ〜」
ガチの連絡先はいらない。飽きたらしれっとブロできて別垢監視も簡単なdazzleがちょうどいい。お酒に酔ったふりして、今夜もゆんゆんに絡む。当然、演技。今まであたしにこうされて喜ばない男はいなかった。
「え〜dazzleってキラキラ系のひとがやるやつっしょ? オレやってないんで〜」
そんなこと言って、どこからどう見たってdazzleやってる系の顔じゃん。本垢じゃなくてもいいから教えてよ。
「じゃあ、アカウントつくればいいじゃん。ゆんゆん向いてると思うんだけどな〜」
もしかして、チャラい見た目のくせにガードかたいタイプ? それはそれで燃える。身持ちのかたい男があたしのために情けなく腰を振る姿、絶対に見たい。
「――さん、飲み過ぎじゃないっスか〜?」
うーん、今夜はそろそろ引く? もう少し粘る? ……今日は他のお客ももう帰ったから、粘ろう。――そう決めて、グラスに口をつける。
ふと、マスターの夜鷹さんと目が合った。あたしの好みじゃなかったけど、このひとも本当にいい男。そんなふうに考えてたのが見透かされたのか、ふっと微笑まれた。え、なに、もしかしてこっちが脈あり? それならそれで、期待に応えてあげなくもない。
夜鷹さんがゆんゆんにバックヤードにあるなにかを取ってくるように指示して、ほんのわずかなあいだだけ、ゆんゆんがいなくなった。え、ふたりきりじゃん。夜鷹さん狙いに変えるべき?
「……うちの従業員には、お客様とあまり親しくなり過ぎないよう教育していてね。話好きな彼が罪悪感に苛まれないようにしてもらえると、助かるのだけれど」
……はい? え、なにこれ。もしかしてあたし、牽制されてる?
いい感じに入ってたお酒がどっかに飛んでった。なにもかもばれてた恥ずかしさで、顔が熱い。相手がすごく顔のいい男って点が恥ずかしさをかさ増ししてくる。顔のいい男の前では美人でかわいくありたいあたしのプライド、ずたずた。
「夜鷹さーん、言われてるやつ、ないんすけど〜」
「気のせいだったかな。わざわざ手間をかけさせてしまったね」
「いいですけど……あれ?」
ゆんゆんの顔を見てられなくて、慌ただしく帰り支度を始める。
「あ〜、あたし、明日の仕事で早く行かなきゃなの忘れてて! お会計お願いします!」
いつもみたいな絡みなんてこれ以上できるわけもなく、コード決済でぱぱっと済ませて、取り繕った笑顔でひらひらと手を振って夢十夜をあとにした。店を出た瞬間、全力ダッシュ。
なにあれ! 絶対勝てないんですけど!畳む