※付き合ってません
「あぁ、イチとリクか? ……そうだな、言われてみれば、最近、二人でいること多いかもな」
でも、前からあんな感じだったぞ? と続ける大和の言葉は耳に入らない。局内の廊下をつかつかと歩き、一刻も早く目的地に向かわなければと先を急ぐ。角を曲がったところで、誰かとぶつかりそうになってしまった。
「Oh! 車は急に止まれません……え? イオリとリクがですか? ワタシたちは時にぶつかり合い、時に涙し、ここまできました。ですから、仲がよいのはイオリとリクだけでは」
最後まで聞いていられなくて、彼を押し退けて先へと進む。背後でナギがなにか言っているが、それどころではない。ポケットからスマートフォンを取り出し、ラビットチャットを開く。するすると指を滑らせ、目的地にいるメンバーのうち、比較的返信の早そうな相手を選んだ。期待通り、すぐに返事が送られてくる。
テレビ局の通用口から出ようとしたところで、後ろから肩を掴まれ、驚いて振り返る。
「おい、さっきから呼んでるってのにどうしたんだよ。……は? 和泉弟と七瀬? 普通に仲いいと思うけど、あいつらのとこは前からあぁだったじゃねぇか。あー……前にあいつらの寮でひと騒動あったけど、あん時だって和泉弟は七瀬に……は? 俺が知るわけねぇだろ」
「え? うーん……俺もよくわからないな。俺や楽よりも……って、ちょっと!」
いつまでもここで立ち話をしても得られるものはなさそうだと判断し、タクシーに乗り込んだ。
目的地の近隣にあるコンビニエンスストアの前で降車し、帽子を深く被り直し、店内で手土産を買い求めると、やや早足で道を急ぐ。念のため、さきほどの相手に間もなく到着する旨、メッセージを送信しておいた。手からぶら下げているビニール袋の中では瓶がかつんかつんとぶつかる音がして、自分はいかに落ち着きがないのかと思い知らされる。
五分程度で目的地に到着し、インターフォンを鳴らした。
出迎えた相手に、さきほどコンビニエンスストアで買っておいた手土産を渡す。中身を見た途端、彼はぱぁっと顔を輝かせた。
「王様プリン! しかも……十二個もあんじゃん! …………は? いおりんとりっくんが? んー……」
珍しく言葉を濁す環を睨みつけると、壮五が慌てて間に入った。
「すみません、環くんはその手の話には……え? 僕はなにも聞いてないです。今、言われるまでその可能性に気付きもしませんでしたが……確かに、気になるところではありますね。ところで今日は……あぁ、三月さんに連絡されてたんですね。それなら」
玄関で立ち話もなんですから……とそのまま招き入れた。三月と約束してあるなら断る理由はないし、なにより、彼は尊敬する先輩の一人だ。失礼があってはならない。壮五は来客用のスリッパを並べると、案内を環に任せていそいそと共有のリビングへ案内した。
「うぇ……まじで来たのかよ。いや、まぁ、拒否する理由はねーからいいっつったけどさぁ……でも、一織と陸に限って、おまえが言ってるようなことはないと思うぞ? オレたちは結成すぐからここで暮らしてるからさ、どうしても距離感が近いんだよ」
そう微笑みながら、三月は手際よく紅茶を淹れる。昨日焼いたココアクッキーがまだ残っていたので、それも一緒にテーブルにのせた。
出された紅茶に口をつけ、ゆっくりと息を吐き出す。テレビ局で耳にした話が頭から離れない。Re:valeの楽屋に挨拶に行き、ドアをノックしようとした時のことだ。
――陸が言ってたんだけど、毎晩一織と寝る前に……で、昨日はそのまま眠くなっちゃって…………だって。かわいいよね~!
――ふふ、モモのほうがかわいいよ。
――んも~! ダーリンってば!
Re:vale名物、いつもの夫婦漫才の中に飛び出した名前に瞠目し、震える手でそのまま楽屋のドアをノックした。その場で会話の内容を聞きたかったのだが、立ち聞きしたという後ろめたさと、自分は彼らにとって後輩であるという点から、なにも聞いていないふりをすることにしたのだ。
三月に勧められたココアクッキーを齧ると、口の中に甘くて優しい味が広がった。少しだけ、落ち着きを取り戻すことができたかもしれない。
……と、その時、玄関で人の話し声がした。取り戻したはずの落ち着きは一瞬で吹き飛ぶ。ばぁん! と両手でリビングのテーブルを叩くような勢いで立ち上がると、我がもの顔で玄関に向かった。
「あ、おい!」
呼び止める三月の声は聞こえないふりをする。
「おかえり。ねぇ、報告すべきことがあるんじゃない?」
玄関で仁王立ちをする彼に面食らいつつ、一織は恐る恐る、彼の真意を窺う。
「えぇと……というか、どうしてここに?」
腕組みをし、指先でとんとんと自分の腕を叩く。あぁ、こんなにじれったい思いをするのは久しぶりだ。
「和泉一織。いつの間に陸とそういう仲になったの」
「そういう仲、とは……」
「誤魔化さないで。ネタは上がってるんだよ、毎晩眠る前に陸といかがわしいことをして過ごしてるそうじゃない。しかも、昨日は寝落ちしそうな陸を起こしてまで夜遅くまで付き合わせたって。恋愛にうつつを抜かして夜更かしなんて、アイドルとしての自覚はあるの?」
言われた言葉がすぐに理解できず、頭の中で反芻する。だめだ、やっぱりわからない。
「…………つまり……どういうことですか?」
「どういうって……聞いてるのはこっちだよ。速やかに答えて。いつから、陸と付き合ってるの」
ずいっと顔を寄せられ、反射的に仰け反ってしまう。しかし、これだけは言い返さなければならない。
「……お言葉ですが。九条さん、私は七瀬さんとはそういった仲ではありません」
「は? 毎晩毎晩陸と二人っきりでこそこそとしてるって」
食ってかかる天に怯む一織。そこに、三月が口を挟む。
「まぁまぁ、そうかっかすんなって。一織のやつ、毎晩陸にホットミルクつくってやってるんだよ。昨日は陸がそこのテーブルで寝ちまったから一織が部屋まで運んでやったってだけでさ」
Re:valeの楽屋前でところどころ聞こえた言葉から推測した言葉とはかなり違ったが、それでも、二人きりで毎晩過ごしていることには変わりない。だいいち、この話をIDOLiSH7のメンバーにしたところ、確かに二人は仲睦まじいという複数の証言も得ているのだ。
「キミに聞いてない。ねぇ、どうなの、和泉一織」
「九条がそこまで言うとオレまで気になってきたな。なぁ、一織、実際のところはどうなんだよ。お兄ちゃんに言えないようなことになってんのか?
「~~~~っ、ですから! 付き合ってませんってば!」
でも、前からあんな感じだったぞ? と続ける大和の言葉は耳に入らない。局内の廊下をつかつかと歩き、一刻も早く目的地に向かわなければと先を急ぐ。角を曲がったところで、誰かとぶつかりそうになってしまった。
「Oh! 車は急に止まれません……え? イオリとリクがですか? ワタシたちは時にぶつかり合い、時に涙し、ここまできました。ですから、仲がよいのはイオリとリクだけでは」
最後まで聞いていられなくて、彼を押し退けて先へと進む。背後でナギがなにか言っているが、それどころではない。ポケットからスマートフォンを取り出し、ラビットチャットを開く。するすると指を滑らせ、目的地にいるメンバーのうち、比較的返信の早そうな相手を選んだ。期待通り、すぐに返事が送られてくる。
テレビ局の通用口から出ようとしたところで、後ろから肩を掴まれ、驚いて振り返る。
「おい、さっきから呼んでるってのにどうしたんだよ。……は? 和泉弟と七瀬? 普通に仲いいと思うけど、あいつらのとこは前からあぁだったじゃねぇか。あー……前にあいつらの寮でひと騒動あったけど、あん時だって和泉弟は七瀬に……は? 俺が知るわけねぇだろ」
「え? うーん……俺もよくわからないな。俺や楽よりも……って、ちょっと!」
いつまでもここで立ち話をしても得られるものはなさそうだと判断し、タクシーに乗り込んだ。
目的地の近隣にあるコンビニエンスストアの前で降車し、帽子を深く被り直し、店内で手土産を買い求めると、やや早足で道を急ぐ。念のため、さきほどの相手に間もなく到着する旨、メッセージを送信しておいた。手からぶら下げているビニール袋の中では瓶がかつんかつんとぶつかる音がして、自分はいかに落ち着きがないのかと思い知らされる。
五分程度で目的地に到着し、インターフォンを鳴らした。
出迎えた相手に、さきほどコンビニエンスストアで買っておいた手土産を渡す。中身を見た途端、彼はぱぁっと顔を輝かせた。
「王様プリン! しかも……十二個もあんじゃん! …………は? いおりんとりっくんが? んー……」
珍しく言葉を濁す環を睨みつけると、壮五が慌てて間に入った。
「すみません、環くんはその手の話には……え? 僕はなにも聞いてないです。今、言われるまでその可能性に気付きもしませんでしたが……確かに、気になるところではありますね。ところで今日は……あぁ、三月さんに連絡されてたんですね。それなら」
玄関で立ち話もなんですから……とそのまま招き入れた。三月と約束してあるなら断る理由はないし、なにより、彼は尊敬する先輩の一人だ。失礼があってはならない。壮五は来客用のスリッパを並べると、案内を環に任せていそいそと共有のリビングへ案内した。
「うぇ……まじで来たのかよ。いや、まぁ、拒否する理由はねーからいいっつったけどさぁ……でも、一織と陸に限って、おまえが言ってるようなことはないと思うぞ? オレたちは結成すぐからここで暮らしてるからさ、どうしても距離感が近いんだよ」
そう微笑みながら、三月は手際よく紅茶を淹れる。昨日焼いたココアクッキーがまだ残っていたので、それも一緒にテーブルにのせた。
出された紅茶に口をつけ、ゆっくりと息を吐き出す。テレビ局で耳にした話が頭から離れない。Re:valeの楽屋に挨拶に行き、ドアをノックしようとした時のことだ。
――陸が言ってたんだけど、毎晩一織と寝る前に……で、昨日はそのまま眠くなっちゃって…………だって。かわいいよね~!
――ふふ、モモのほうがかわいいよ。
――んも~! ダーリンってば!
Re:vale名物、いつもの夫婦漫才の中に飛び出した名前に瞠目し、震える手でそのまま楽屋のドアをノックした。その場で会話の内容を聞きたかったのだが、立ち聞きしたという後ろめたさと、自分は彼らにとって後輩であるという点から、なにも聞いていないふりをすることにしたのだ。
三月に勧められたココアクッキーを齧ると、口の中に甘くて優しい味が広がった。少しだけ、落ち着きを取り戻すことができたかもしれない。
……と、その時、玄関で人の話し声がした。取り戻したはずの落ち着きは一瞬で吹き飛ぶ。ばぁん! と両手でリビングのテーブルを叩くような勢いで立ち上がると、我がもの顔で玄関に向かった。
「あ、おい!」
呼び止める三月の声は聞こえないふりをする。
「おかえり。ねぇ、報告すべきことがあるんじゃない?」
玄関で仁王立ちをする彼に面食らいつつ、一織は恐る恐る、彼の真意を窺う。
「えぇと……というか、どうしてここに?」
腕組みをし、指先でとんとんと自分の腕を叩く。あぁ、こんなにじれったい思いをするのは久しぶりだ。
「和泉一織。いつの間に陸とそういう仲になったの」
「そういう仲、とは……」
「誤魔化さないで。ネタは上がってるんだよ、毎晩眠る前に陸といかがわしいことをして過ごしてるそうじゃない。しかも、昨日は寝落ちしそうな陸を起こしてまで夜遅くまで付き合わせたって。恋愛にうつつを抜かして夜更かしなんて、アイドルとしての自覚はあるの?」
言われた言葉がすぐに理解できず、頭の中で反芻する。だめだ、やっぱりわからない。
「…………つまり……どういうことですか?」
「どういうって……聞いてるのはこっちだよ。速やかに答えて。いつから、陸と付き合ってるの」
ずいっと顔を寄せられ、反射的に仰け反ってしまう。しかし、これだけは言い返さなければならない。
「……お言葉ですが。九条さん、私は七瀬さんとはそういった仲ではありません」
「は? 毎晩毎晩陸と二人っきりでこそこそとしてるって」
食ってかかる天に怯む一織。そこに、三月が口を挟む。
「まぁまぁ、そうかっかすんなって。一織のやつ、毎晩陸にホットミルクつくってやってるんだよ。昨日は陸がそこのテーブルで寝ちまったから一織が部屋まで運んでやったってだけでさ」
Re:valeの楽屋前でところどころ聞こえた言葉から推測した言葉とはかなり違ったが、それでも、二人きりで毎晩過ごしていることには変わりない。だいいち、この話をIDOLiSH7のメンバーにしたところ、確かに二人は仲睦まじいという複数の証言も得ているのだ。
「キミに聞いてない。ねぇ、どうなの、和泉一織」
「九条がそこまで言うとオレまで気になってきたな。なぁ、一織、実際のところはどうなんだよ。お兄ちゃんに言えないようなことになってんのか?
「~~~~っ、ですから! 付き合ってませんってば!」