純粋培養
あ、と三月が声を上げた。
「そういやぁさ、前に大和さん、陸にコンビニでエロい雑誌買ってやるって言ってたけど、あれってどうなったんだ?」
台場野外音楽堂で三千人のライブをおこなったあの日、本番直前に大和がからかうように言ったのだった。
「あー……あれな……なし」
「え? なんで?」
「だって考えてもみろよ、あのリクだぞ? 王様ゲームでちょっとエロいことって言ったら顔真っ赤にしてキスとか? なんて聞いちゃう、ピュアッピュアのピュアさ加減。さすが純粋培養。……そんなリクにエロ本はなぁ……なんか、犯罪って気がして無理だった」
三月は「あぁ」と納得したようで。
「まぁなぁ……エロ本に出てくる言葉の意味とか、あのきらきらした笑顔で聞いてきそうだもんなぁ……」
陸の声真似のつもりなのか、大和が声を高くして「三月! これってどういう意味?」とおどけてみせる。全然似ていなかったものだから、大和も三月も笑ってしまった。
「ははっ、おっさん全然似てねー! 陸が聞いたら怒るぞそれ」
「なんの話?」
「うわっ、リク」
共有スペースのリビングでげらげらと楽しそうに笑う二人が気になったのか、それまでキッチンで壮五の皿洗いを手伝っていたはずの陸が、いつの間にか背後に立っていた。
「うわってなんですか……オレの話してましたよね? オレ、なんかしましたか?」
今日は皿を割ってないし料理を運ぶ時も転倒しなかった。特に失敗したつもりはないけれど、自分の知らないところで、思わず笑われてしまうようななにかをやらかしていたのかもしれない。陸は眉を八の字に下げると、大和と三月、どちらかから答えをもらえないかと、じっと見つめた。
(うっ……)
IDOLiSH7の中で、大和は特に、陸に甘い傾向にある。こんな表情をされて、ごまかせるはずがない。
「あー……いや、前にさ、エロい雑誌買ってやるって話あっただろ? ミツが、あのあと買ったのかってしつこく聞いてきて」
「はぁ? しつこくしてねーよ!」
心外だ。これでは、三月が成年向け雑誌に興味津々だと受け取られかねない。……まぁ、健全な二十一歳の男なので、一切興味がないかといえば…………否定は、できないのだけれど。
「そういえばそんな話もありましたね! ……って、やだな……オレ別にそういうのいらないのに…………」
あぁ、やはり陸は純粋だ……と大和は感動した。まなじりを赤く染め、頬を掻くさまは、一織じゃなくても「かわいい」と思ってしまう。
「そうだよな、リクにはまだ早い」
うんうんと頷く大和に、さきほどの仕返しか、三月が横槍を入れてきた。
「ばかだな大和さん、陸はこう見えて十八だぞ。十八禁が読め」
「十八禁を楽しむリクなんて解釈違いだ!」
両耳を手でふさいでいやいやと首を振る。大和は陸に対して、相当、夢を見ているらしい。
「や、大和さん……三月も……オレ、ほんとにそんなの読まないってば……」
まなじりどころか、耳まで真っ赤な陸。心なしか、涙目になっているように見える。
「過激派のヤマトには、残念ですが……」
夕食後のティータイムにしよう、とナギがクッキーを、壮五が紅茶をトレイにのせて持ってきた。
「……なんだよ、残念って」
「タマキから聞きました。リクはイオリに」
「わ~~! ナギ、待って!」
陸の手に阻まれ、ナギの口からは呻き声しか聞こえなくなってしまった。しかし、それでも大和は察してしまったらしい。
「イチが……? おい、嘘だろ? 俺の解釈ではイチは好きな子の手を握るまでに一年はかかる計算なのに」
「あっ、一織くんが陸くんのことを好きなのは知ってるんですね」
「当たり前だろ! 普段のイチを見てなにも気付かないやつがいたら会ってみたいくらいだ!」
一織が陸を好きだということくらい、デビュー前からわかっていた。態度に出ているし、時々「かわいい人だな」とこぼしているのを耳にしていたからだ。その他にも『Friends Day』の途中、TRIGGERの曲を歌うことを決めた直後に数分間だけ二人でいなくなったことがあった。本番直前に戻ってきた二人はそれまでとは雰囲気が違っていた。それだけではなくMOPの時だって、陸が「あれはしないのか」などと一織に聞いていたのを、大和は聞き逃さなかった。あれってなんだ……キスか? なんて想像をして一人でダメージを受けてしまったことは記憶に新しい。どうしてグループ内の恋愛事情を把握させられなければならないのか。リーダーだから?
「……お兄さん、今日はなんだかもう疲れたわ……」
「そういやぁさ、前に大和さん、陸にコンビニでエロい雑誌買ってやるって言ってたけど、あれってどうなったんだ?」
台場野外音楽堂で三千人のライブをおこなったあの日、本番直前に大和がからかうように言ったのだった。
「あー……あれな……なし」
「え? なんで?」
「だって考えてもみろよ、あのリクだぞ? 王様ゲームでちょっとエロいことって言ったら顔真っ赤にしてキスとか? なんて聞いちゃう、ピュアッピュアのピュアさ加減。さすが純粋培養。……そんなリクにエロ本はなぁ……なんか、犯罪って気がして無理だった」
三月は「あぁ」と納得したようで。
「まぁなぁ……エロ本に出てくる言葉の意味とか、あのきらきらした笑顔で聞いてきそうだもんなぁ……」
陸の声真似のつもりなのか、大和が声を高くして「三月! これってどういう意味?」とおどけてみせる。全然似ていなかったものだから、大和も三月も笑ってしまった。
「ははっ、おっさん全然似てねー! 陸が聞いたら怒るぞそれ」
「なんの話?」
「うわっ、リク」
共有スペースのリビングでげらげらと楽しそうに笑う二人が気になったのか、それまでキッチンで壮五の皿洗いを手伝っていたはずの陸が、いつの間にか背後に立っていた。
「うわってなんですか……オレの話してましたよね? オレ、なんかしましたか?」
今日は皿を割ってないし料理を運ぶ時も転倒しなかった。特に失敗したつもりはないけれど、自分の知らないところで、思わず笑われてしまうようななにかをやらかしていたのかもしれない。陸は眉を八の字に下げると、大和と三月、どちらかから答えをもらえないかと、じっと見つめた。
(うっ……)
IDOLiSH7の中で、大和は特に、陸に甘い傾向にある。こんな表情をされて、ごまかせるはずがない。
「あー……いや、前にさ、エロい雑誌買ってやるって話あっただろ? ミツが、あのあと買ったのかってしつこく聞いてきて」
「はぁ? しつこくしてねーよ!」
心外だ。これでは、三月が成年向け雑誌に興味津々だと受け取られかねない。……まぁ、健全な二十一歳の男なので、一切興味がないかといえば…………否定は、できないのだけれど。
「そういえばそんな話もありましたね! ……って、やだな……オレ別にそういうのいらないのに…………」
あぁ、やはり陸は純粋だ……と大和は感動した。まなじりを赤く染め、頬を掻くさまは、一織じゃなくても「かわいい」と思ってしまう。
「そうだよな、リクにはまだ早い」
うんうんと頷く大和に、さきほどの仕返しか、三月が横槍を入れてきた。
「ばかだな大和さん、陸はこう見えて十八だぞ。十八禁が読め」
「十八禁を楽しむリクなんて解釈違いだ!」
両耳を手でふさいでいやいやと首を振る。大和は陸に対して、相当、夢を見ているらしい。
「や、大和さん……三月も……オレ、ほんとにそんなの読まないってば……」
まなじりどころか、耳まで真っ赤な陸。心なしか、涙目になっているように見える。
「過激派のヤマトには、残念ですが……」
夕食後のティータイムにしよう、とナギがクッキーを、壮五が紅茶をトレイにのせて持ってきた。
「……なんだよ、残念って」
「タマキから聞きました。リクはイオリに」
「わ~~! ナギ、待って!」
陸の手に阻まれ、ナギの口からは呻き声しか聞こえなくなってしまった。しかし、それでも大和は察してしまったらしい。
「イチが……? おい、嘘だろ? 俺の解釈ではイチは好きな子の手を握るまでに一年はかかる計算なのに」
「あっ、一織くんが陸くんのことを好きなのは知ってるんですね」
「当たり前だろ! 普段のイチを見てなにも気付かないやつがいたら会ってみたいくらいだ!」
一織が陸を好きだということくらい、デビュー前からわかっていた。態度に出ているし、時々「かわいい人だな」とこぼしているのを耳にしていたからだ。その他にも『Friends Day』の途中、TRIGGERの曲を歌うことを決めた直後に数分間だけ二人でいなくなったことがあった。本番直前に戻ってきた二人はそれまでとは雰囲気が違っていた。それだけではなくMOPの時だって、陸が「あれはしないのか」などと一織に聞いていたのを、大和は聞き逃さなかった。あれってなんだ……キスか? なんて想像をして一人でダメージを受けてしまったことは記憶に新しい。どうしてグループ内の恋愛事情を把握させられなければならないのか。リーダーだから?
「……お兄さん、今日はなんだかもう疲れたわ……」