素直じゃない
「たとえばの話ですよ、もし、好きなものがどうしても手に入らなくて諦めなければならないとしたら、四葉さんならどうします?」
「はぁ? 王様プリン諦めるとか想像できねえよ」
あぁ、次元が違う。彼に聞いたのは間違いだった。そもそも人に聞くこと自体、するんじゃなかった。そう思って、この話はおしまいにしようとしたところ、環が言葉を続ける。
「俺は、王様プリンのためならなんでもする。諦めるとか、そーいうレベルの好きじゃねーし」
「……そうですか」
玉子焼きを箸でつまみ、口の中に放り込む。今日の卵焼きはいつもと違うなと感じた。いつもはシンプルに砂糖で味付けられる玉子焼きが、今日はネギが混ぜ込まれているではないか。少し豪華な気分になる。
「あ、みっきーから返事。今日の玉子焼き、りっくんが焼いたって。どうりでいつもと違うと思った」
思いもよらず飛び出した想い人の名前に動揺して、一織は玉子焼きを喉に詰まらせそうになり、慌ててペットボトルの茶を呷った。
(あぁ、もう……)
せっかくの玉子焼き、残念なことに一切れ目は茶で流し込んでしまって、味わうことができなかった。
「あ、ろっぷちゃんの新しいぬいぐるみ、今日からだろ? それで諦めるとか諦めねえとか言ってんの?」
……そのことでもないのだけれど。あぁ、またしても好きなものの次元が違う。
「別に、……そもそもほしくありませんし」
「俺、知ってんよ。いおりん、どこのゲーセンに入荷するか調べてたじゃん」
ぐ、と言葉に詰まる。確かに、昨日の一織はゲームセンターのプライズ入荷について調べていた。まさか見られていたなんて。
「……いつものゲームセンターは入荷しないそうですよ。行くのであれば、駅前のゲームセンターです」
「やっぱほしいんじゃん。ほしいなら、諦めんなって」
結局。一織の意図するものではなかったのだけれど、好きなものを、ほしいものを、そう簡単に諦めるなと励まされてしまった。心の中にじわりとあたたかいものが広がる。不毛な初恋を諦めるべきかと思い悩む一織を励ますにはじゅうぶんなあたたかさだった。
もつべきものは友人。やはり、彼に聞いてよかったのかもしれないと思い直し、目の前で唐揚げを頬張る環を見遣る。
「今日は居残りせずに済みそうですからね。少し遠回りして帰るのもありでしょう」
「……素直じゃねーな、いおりん」
「はぁ? 王様プリン諦めるとか想像できねえよ」
あぁ、次元が違う。彼に聞いたのは間違いだった。そもそも人に聞くこと自体、するんじゃなかった。そう思って、この話はおしまいにしようとしたところ、環が言葉を続ける。
「俺は、王様プリンのためならなんでもする。諦めるとか、そーいうレベルの好きじゃねーし」
「……そうですか」
玉子焼きを箸でつまみ、口の中に放り込む。今日の卵焼きはいつもと違うなと感じた。いつもはシンプルに砂糖で味付けられる玉子焼きが、今日はネギが混ぜ込まれているではないか。少し豪華な気分になる。
「あ、みっきーから返事。今日の玉子焼き、りっくんが焼いたって。どうりでいつもと違うと思った」
思いもよらず飛び出した想い人の名前に動揺して、一織は玉子焼きを喉に詰まらせそうになり、慌ててペットボトルの茶を呷った。
(あぁ、もう……)
せっかくの玉子焼き、残念なことに一切れ目は茶で流し込んでしまって、味わうことができなかった。
「あ、ろっぷちゃんの新しいぬいぐるみ、今日からだろ? それで諦めるとか諦めねえとか言ってんの?」
……そのことでもないのだけれど。あぁ、またしても好きなものの次元が違う。
「別に、……そもそもほしくありませんし」
「俺、知ってんよ。いおりん、どこのゲーセンに入荷するか調べてたじゃん」
ぐ、と言葉に詰まる。確かに、昨日の一織はゲームセンターのプライズ入荷について調べていた。まさか見られていたなんて。
「……いつものゲームセンターは入荷しないそうですよ。行くのであれば、駅前のゲームセンターです」
「やっぱほしいんじゃん。ほしいなら、諦めんなって」
結局。一織の意図するものではなかったのだけれど、好きなものを、ほしいものを、そう簡単に諦めるなと励まされてしまった。心の中にじわりとあたたかいものが広がる。不毛な初恋を諦めるべきかと思い悩む一織を励ますにはじゅうぶんなあたたかさだった。
もつべきものは友人。やはり、彼に聞いてよかったのかもしれないと思い直し、目の前で唐揚げを頬張る環を見遣る。
「今日は居残りせずに済みそうですからね。少し遠回りして帰るのもありでしょう」
「……素直じゃねーな、いおりん」