SNS
小鳥遊事務所の事務員・大神万理の誕生日を間近に控えたある日、事件は起こった。
「すみません、社長!」
腰を九十度に折って頭を下げる万理に、社長の音晴は気難しい顔をしている。
「早ければ一両日中には凍結解除されるって聞くけど、うちはまだまだ小さな事務所だからね。どれくらいかかるかはわからない。解除されるまでの間、IDOLiSH7の宣伝ができなくなってしまうというのは、大変なことなんだよ」
IDOLiSH7が結成した日をSNSアカウントの誕生日に設定しようと思い立ち、早速入力したものの、正直に結成した年を入力したところ幼児の年齢となり、SNSの規約で定められた年齢に満たないと判断され、アカウントが規制されてしまったのだ。
「仰るとおりです……」
「おと、……社長! 本来ならマネージャーである私が管理すべきところを、私が入社する前から大神さんが小鳥遊事務所のSNSアカウントをすべて管理してくださっていたからと、そのまま甘えていたことが原因なんです!」
万理を庇う紡に、その様子を近くで見ていた一織と大和は、逆効果だと感じた。
かわいい一人娘が男を庇う姿を見たい父親などいやしないだろう。案の定、音晴はこめかみにぴくりと青筋を立ててしまった。
「そうだね、これを機に万理くんを頼らず、自分で管理するのもいいかもしれないね」
音晴から暗黒のオーラが放たれている。頼むから社長を刺激しないでほしい。つい先日も、番組開始三周年を迎える『NEXT Re:vale』のゲスト出演が決まったIDOLiSH7のため、万理と紡がRe:vale役となって彼らの夫婦ネタを真似ていたところ、それを目撃した音晴に誤解されそうになったばかりなのだ。年頃の娘を持つ父親って難しい。
「社長、提案があります」
青い顔をした万理を見かねて、一織が助け舟を出した。
「それで?」
寮のリビングでスマートフォンを触りながら陸が口を開く。開いているのは、――メンバーによって投稿の頻度がまちまちな――SNSのアプリだ。
「現在もIDOLiSH7の公式アカウントは凍結状態です。日頃、公式アカウントを見てくださっている私たちのファンの中には、大神さんの文面から滲み出る人柄を好ましく思っている層もいるようです。投稿がないことを残念に思っている人たちのためにも、今夜はわたしたちが個々に投稿をしてはどうかということになりました」
IDOLiSH7のメンバーは個々にSNSのアカウントを取得している。IDOLiSH7公式アカウントが投稿する出演情報や雑誌掲載情報などをシェアしたり、人によっては、投稿頻度が落ちることなく深夜アニメの時間帯に多数の投稿をしていたりする。
「ナギの投稿が多過ぎて、朝起きたらタイムラインが遡れなくなってるんだよな」
三月はファンに向けた告知から他のタレントとの交流まで幅広く、こまめにSNSを活用している。ファンの目線に近い投稿も多いことで人気だ。
「ナギっちのここな実況、学校のやつらにはウケてんよ」
そう言葉を挟む環の手許のスマートフォンはSNSではなくゲームのアプリを開いている。彼は圧倒的に投稿数が少ない。環曰く、いちいち開くのが面倒くさいのだとか。一織の投稿はIDOLiSH7公式アカウント以上に事務的な文面が並び、公式アカウントと見間違えそうになる。大和は出演情報を番組放送直前に告知することが多いのだが、大和のファンは他の媒体から出演情報を既に入手しているため「言うのが遅い!」という苦情がきたことはない。壮五はひとつひとつの投稿が文字数限度まで詰まっており、彼の投稿だけを見ると画面が文字で埋め尽くされ、白い背景も黒く見える。IDOLiSH7内では陸の投稿を見ている人数が一番多いのだが、その陸はというと、十日ほど前にカフェで食べたオムライスがおいしかったと投稿したきりだ。
「ふぅん、わかった。じゃあさ、一織。こっち向いて」
手に持っていたスマートフォンを、そのまま、一織へと向ける。
「はっ? な、ちょっと、やめてください。勝手に撮らないで」
陸が向けるカメラレンズから逃れようと必死に手を伸ばし、慌てて顔を背ける一織の姿が、かしゃりと音を立ててカメラに収められた。
「へへ、格好よくない一織がまた増えた」
格好よくない一織というフレーズは、主に、寝起きで目が開いていない一織を指す時に使われる。ほぼ毎朝のように撮っていて、陸のスマートフォンにある一織フォルダはこちらを薄目で睨む一織でいっぱいだ。睨み付ける顔がたくさんある中に、照れたり、気難しい顔をしていたりするものもある。
「七瀬さんが投稿するのに、どうして私が撮られなければならないんです!」
こんな写真をSNSに投稿するなんてもってのほかだ。どうせ写真を投稿するなら、陸の自撮りにしてほしい。そのほうがファンも喜ぶだろう。自分もその投稿を見て、陸のかわいらしさにときめくことだってできる。ついでに保存させてほしい。
一織は必死に手を伸ばし、陸の手からスマートフォンを奪い取ろうとした。陸はけらけらと笑いながら、自分の体で手許のスマートフォンを庇い、ささっと文字を打ち込んでしまう。
「ざーんねん! オレの勝ち!」
一織の手が陸の手首に届いた時には、もう、陸の撮った写真と打った文字は全世界へと発信されてしまっていた。
「あああっ! ……っ、今すぐ、今すぐに消してください! 跡形もなく完璧に!」
「イオリ、このとてつもなく広大なインターネットの海に解き放たれてしまっては、ノースメイアにいる優秀なポリスの力をもってしても、完全に消すことはできません。ワタシのここな実況と同じく、同志が魚拓を取ってしまうのですよ」
ナギによるここな実況は、ファンがそのキャプチャ画像をすべて撮って、私設ファンサイトでまとめているらしい。ナギはそれをエゴサーチで偶然発見してしまったのだが、アイドルとしての自分の活動や名誉を傷付けるものではないからと、事務所に報告をしたうえで黙認している。
完全に削除することは困難。そんなこと、一織にだってわかっている。あぁ、一体なにを投稿したのだろう。一織は歯噛みするとポケットからスマートフォンを取り出し、SNSのアプリを開いた。焦る気持ちを抑え、するすると指を滑らせてタイムラインを辿っていく。投稿されてまだ二分、目的のものにはすぐに辿り着いた。
一体なにを投稿したのか。他のメンバーも興味を抱いたようで、一織の手許を覗き込んだり、自身のスマートフォンでSNSを確認したり。しんと静まり返る中、環がプレイしているゲームで、攻撃が敵にクリティカルヒットした効果音が響いた。
「これは……」
一番初めに口を開いたのは壮五だった。続く言葉は言えない。まるで、ファンの目から見たMEZZO"じゃないか、なんて。なぜなら、相方として物理的な距離が近いだけの自分たちとは違って、一織と陸はいわゆる恋人関係にあるからだ。
「おーおー、これはまた……ものすごい勢いで拡散されてるな」
投稿に添えられた反応の数に、大和が瞠目した。さすがはうちのセンター。そう言っている間にも、投稿のシェア数のカウントは止まらず、カウントアップの数字が画面表示に追いつかないくらいだ。あぁ、これが〝バズる〟というやつか。大和はうんうんと一人で頷いた。悪いことが原因での炎上でなくてよかったと思おう。
バズったら返信欄を使って宣伝をぶら下げるというインターネット文化が少し前に流行っていたが、天真爛漫な陸にそれをさせるのは気が引けるなぁと笑う三月。
陸のスマートフォンを覗き込みながら、ナギがまなじりを下げる。
「ワタシたちがデビューする前、イオリとリクのファンだという方が私設のファンサイトをつくっているという話がありました。ここに反応をしている人たちは、恐らく、イオリとリクの二人が好きな人たちです」
だから、反応の多さは好意的に捉えていいのだと続けた。
「すごい……こんなにたくさんの人たちが見てくれてるんだ……」
改めて、自分がアイドルであることを思い知る。発言のひとつで、こんなにもたくさんの人たちが反応を示してくれるなんて。
(……でも)
投稿してから五分。陸は少し、後悔し始めていた。
自分が発信することで喜んでくれる人たちがいる。仕事のことばかりではなく、自分一人のことだけでもなく、寮での様子をほんの少しだけ見せてあげたい。もちろん一織との関係は絶対に秘密だけれど、七人で過ごすこの日常が愛おしいというところまでなら、声を大にして言ったって問題ないはず。そう思って、七人全員がリビングにいるこのタイミングで、投稿したいなと思ったことをそのまま行動に移したのに。
(七人とか言いつつ、結局、一織のことになってるし)
思ったことをそのまま投稿した結果が一織のことで、いかに自分が一織に惚れ込んでいるのかと思うと恥ずかしくなってくる。
(やっぱり、この写真、ひとりじめしたほうがよかったかな)
しかし、投稿してしまった以上はあとの祭り。今回は投稿をこのまま残しておくが、次からはこれまでどおり、スマートフォンの中にある一織フォルダにだけ、彼の写真を残していこうと決心する。
「~~っ、七瀬さん!」
顔を上げると、一織が顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。
「う。ごめんって……こんなに反応あるとは思わなかったんだ」
いきなり撮らないでと手でカメラレンズを遮る一織。その周囲では、IDOLiSH7の他のメンバーが思い思いに過ごしている。
ソファーで寝そべってゲームをしている環、行儀よく腰掛けてティーカップ片手に談笑する壮五とナギ、恥ずかしがる一織を見てげらげらと笑う大和、一織と陸のやりとりを見て肩を震わせながら笑っている三月。
あぁ、IDOLiSH7のメンバーで過ごすこの日常と、大好きな一織がいる。今日も陸は幸せだ。あまりにも楽しくて幸せなものだから、投稿する文面も浮かれてしまった。メンバー同士仲がいいのだと受け止めてもらえるだろう。陸はそう納得すると、両手を合わせて一織に「ごめん!」と謝った。もちろん、一織が好きそうな、しょんぼりした表情で。
『一織の慌て顔! 格好よくはないけど、かわいいよね。これ知ってるのは、オレたちだけなんだけど、今日は特別!』
「すみません、社長!」
腰を九十度に折って頭を下げる万理に、社長の音晴は気難しい顔をしている。
「早ければ一両日中には凍結解除されるって聞くけど、うちはまだまだ小さな事務所だからね。どれくらいかかるかはわからない。解除されるまでの間、IDOLiSH7の宣伝ができなくなってしまうというのは、大変なことなんだよ」
IDOLiSH7が結成した日をSNSアカウントの誕生日に設定しようと思い立ち、早速入力したものの、正直に結成した年を入力したところ幼児の年齢となり、SNSの規約で定められた年齢に満たないと判断され、アカウントが規制されてしまったのだ。
「仰るとおりです……」
「おと、……社長! 本来ならマネージャーである私が管理すべきところを、私が入社する前から大神さんが小鳥遊事務所のSNSアカウントをすべて管理してくださっていたからと、そのまま甘えていたことが原因なんです!」
万理を庇う紡に、その様子を近くで見ていた一織と大和は、逆効果だと感じた。
かわいい一人娘が男を庇う姿を見たい父親などいやしないだろう。案の定、音晴はこめかみにぴくりと青筋を立ててしまった。
「そうだね、これを機に万理くんを頼らず、自分で管理するのもいいかもしれないね」
音晴から暗黒のオーラが放たれている。頼むから社長を刺激しないでほしい。つい先日も、番組開始三周年を迎える『NEXT Re:vale』のゲスト出演が決まったIDOLiSH7のため、万理と紡がRe:vale役となって彼らの夫婦ネタを真似ていたところ、それを目撃した音晴に誤解されそうになったばかりなのだ。年頃の娘を持つ父親って難しい。
「社長、提案があります」
青い顔をした万理を見かねて、一織が助け舟を出した。
「それで?」
寮のリビングでスマートフォンを触りながら陸が口を開く。開いているのは、――メンバーによって投稿の頻度がまちまちな――SNSのアプリだ。
「現在もIDOLiSH7の公式アカウントは凍結状態です。日頃、公式アカウントを見てくださっている私たちのファンの中には、大神さんの文面から滲み出る人柄を好ましく思っている層もいるようです。投稿がないことを残念に思っている人たちのためにも、今夜はわたしたちが個々に投稿をしてはどうかということになりました」
IDOLiSH7のメンバーは個々にSNSのアカウントを取得している。IDOLiSH7公式アカウントが投稿する出演情報や雑誌掲載情報などをシェアしたり、人によっては、投稿頻度が落ちることなく深夜アニメの時間帯に多数の投稿をしていたりする。
「ナギの投稿が多過ぎて、朝起きたらタイムラインが遡れなくなってるんだよな」
三月はファンに向けた告知から他のタレントとの交流まで幅広く、こまめにSNSを活用している。ファンの目線に近い投稿も多いことで人気だ。
「ナギっちのここな実況、学校のやつらにはウケてんよ」
そう言葉を挟む環の手許のスマートフォンはSNSではなくゲームのアプリを開いている。彼は圧倒的に投稿数が少ない。環曰く、いちいち開くのが面倒くさいのだとか。一織の投稿はIDOLiSH7公式アカウント以上に事務的な文面が並び、公式アカウントと見間違えそうになる。大和は出演情報を番組放送直前に告知することが多いのだが、大和のファンは他の媒体から出演情報を既に入手しているため「言うのが遅い!」という苦情がきたことはない。壮五はひとつひとつの投稿が文字数限度まで詰まっており、彼の投稿だけを見ると画面が文字で埋め尽くされ、白い背景も黒く見える。IDOLiSH7内では陸の投稿を見ている人数が一番多いのだが、その陸はというと、十日ほど前にカフェで食べたオムライスがおいしかったと投稿したきりだ。
「ふぅん、わかった。じゃあさ、一織。こっち向いて」
手に持っていたスマートフォンを、そのまま、一織へと向ける。
「はっ? な、ちょっと、やめてください。勝手に撮らないで」
陸が向けるカメラレンズから逃れようと必死に手を伸ばし、慌てて顔を背ける一織の姿が、かしゃりと音を立ててカメラに収められた。
「へへ、格好よくない一織がまた増えた」
格好よくない一織というフレーズは、主に、寝起きで目が開いていない一織を指す時に使われる。ほぼ毎朝のように撮っていて、陸のスマートフォンにある一織フォルダはこちらを薄目で睨む一織でいっぱいだ。睨み付ける顔がたくさんある中に、照れたり、気難しい顔をしていたりするものもある。
「七瀬さんが投稿するのに、どうして私が撮られなければならないんです!」
こんな写真をSNSに投稿するなんてもってのほかだ。どうせ写真を投稿するなら、陸の自撮りにしてほしい。そのほうがファンも喜ぶだろう。自分もその投稿を見て、陸のかわいらしさにときめくことだってできる。ついでに保存させてほしい。
一織は必死に手を伸ばし、陸の手からスマートフォンを奪い取ろうとした。陸はけらけらと笑いながら、自分の体で手許のスマートフォンを庇い、ささっと文字を打ち込んでしまう。
「ざーんねん! オレの勝ち!」
一織の手が陸の手首に届いた時には、もう、陸の撮った写真と打った文字は全世界へと発信されてしまっていた。
「あああっ! ……っ、今すぐ、今すぐに消してください! 跡形もなく完璧に!」
「イオリ、このとてつもなく広大なインターネットの海に解き放たれてしまっては、ノースメイアにいる優秀なポリスの力をもってしても、完全に消すことはできません。ワタシのここな実況と同じく、同志が魚拓を取ってしまうのですよ」
ナギによるここな実況は、ファンがそのキャプチャ画像をすべて撮って、私設ファンサイトでまとめているらしい。ナギはそれをエゴサーチで偶然発見してしまったのだが、アイドルとしての自分の活動や名誉を傷付けるものではないからと、事務所に報告をしたうえで黙認している。
完全に削除することは困難。そんなこと、一織にだってわかっている。あぁ、一体なにを投稿したのだろう。一織は歯噛みするとポケットからスマートフォンを取り出し、SNSのアプリを開いた。焦る気持ちを抑え、するすると指を滑らせてタイムラインを辿っていく。投稿されてまだ二分、目的のものにはすぐに辿り着いた。
一体なにを投稿したのか。他のメンバーも興味を抱いたようで、一織の手許を覗き込んだり、自身のスマートフォンでSNSを確認したり。しんと静まり返る中、環がプレイしているゲームで、攻撃が敵にクリティカルヒットした効果音が響いた。
「これは……」
一番初めに口を開いたのは壮五だった。続く言葉は言えない。まるで、ファンの目から見たMEZZO"じゃないか、なんて。なぜなら、相方として物理的な距離が近いだけの自分たちとは違って、一織と陸はいわゆる恋人関係にあるからだ。
「おーおー、これはまた……ものすごい勢いで拡散されてるな」
投稿に添えられた反応の数に、大和が瞠目した。さすがはうちのセンター。そう言っている間にも、投稿のシェア数のカウントは止まらず、カウントアップの数字が画面表示に追いつかないくらいだ。あぁ、これが〝バズる〟というやつか。大和はうんうんと一人で頷いた。悪いことが原因での炎上でなくてよかったと思おう。
バズったら返信欄を使って宣伝をぶら下げるというインターネット文化が少し前に流行っていたが、天真爛漫な陸にそれをさせるのは気が引けるなぁと笑う三月。
陸のスマートフォンを覗き込みながら、ナギがまなじりを下げる。
「ワタシたちがデビューする前、イオリとリクのファンだという方が私設のファンサイトをつくっているという話がありました。ここに反応をしている人たちは、恐らく、イオリとリクの二人が好きな人たちです」
だから、反応の多さは好意的に捉えていいのだと続けた。
「すごい……こんなにたくさんの人たちが見てくれてるんだ……」
改めて、自分がアイドルであることを思い知る。発言のひとつで、こんなにもたくさんの人たちが反応を示してくれるなんて。
(……でも)
投稿してから五分。陸は少し、後悔し始めていた。
自分が発信することで喜んでくれる人たちがいる。仕事のことばかりではなく、自分一人のことだけでもなく、寮での様子をほんの少しだけ見せてあげたい。もちろん一織との関係は絶対に秘密だけれど、七人で過ごすこの日常が愛おしいというところまでなら、声を大にして言ったって問題ないはず。そう思って、七人全員がリビングにいるこのタイミングで、投稿したいなと思ったことをそのまま行動に移したのに。
(七人とか言いつつ、結局、一織のことになってるし)
思ったことをそのまま投稿した結果が一織のことで、いかに自分が一織に惚れ込んでいるのかと思うと恥ずかしくなってくる。
(やっぱり、この写真、ひとりじめしたほうがよかったかな)
しかし、投稿してしまった以上はあとの祭り。今回は投稿をこのまま残しておくが、次からはこれまでどおり、スマートフォンの中にある一織フォルダにだけ、彼の写真を残していこうと決心する。
「~~っ、七瀬さん!」
顔を上げると、一織が顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。
「う。ごめんって……こんなに反応あるとは思わなかったんだ」
いきなり撮らないでと手でカメラレンズを遮る一織。その周囲では、IDOLiSH7の他のメンバーが思い思いに過ごしている。
ソファーで寝そべってゲームをしている環、行儀よく腰掛けてティーカップ片手に談笑する壮五とナギ、恥ずかしがる一織を見てげらげらと笑う大和、一織と陸のやりとりを見て肩を震わせながら笑っている三月。
あぁ、IDOLiSH7のメンバーで過ごすこの日常と、大好きな一織がいる。今日も陸は幸せだ。あまりにも楽しくて幸せなものだから、投稿する文面も浮かれてしまった。メンバー同士仲がいいのだと受け止めてもらえるだろう。陸はそう納得すると、両手を合わせて一織に「ごめん!」と謝った。もちろん、一織が好きそうな、しょんぼりした表情で。
『一織の慌て顔! 格好よくはないけど、かわいいよね。これ知ってるのは、オレたちだけなんだけど、今日は特別!』