密室
コンコン、とドアが鳴った。背中どころか全身から汗が噴き出る。
誰だろう。鍵をかけているし、勝手に開けられることはないはず。――呼吸くらいしたっていいのに、壮五は息を止めて、訪問者が名乗るのを待った。
「壮五さん、三月がお茶にしないかって言ってるんですけど」
「……っ、ごめんね、今、ちょっと立て込んでて」
そうですか。陸の足音が遠ざかっていく。魅力的なお誘いだけれど、今は、無理。あと一時間……か二時間後なら、すぐにでもリビングに向かうのに。
足音が完全に聞こえなくなるのを待ってから、環を睨みつけた。
「びっくりしたな」
「そう思うならやめ、……誰か来た」
環の口を手で塞ぐのと、ドアがノックされるのは、同時だった。
「逢坂さん、四葉さんを見ませんでしたか? あの人、明日提出の課題があるはずなんですけど」
「あー……、えぇと、環くんなら」
「俺、ここにいんよ」
明日提出の課題? そんな話は聞いていない。知っていたら、彼が今ここにいることを許可していない。
「課題は終わったんですか? 見せてほしいと言われても、面倒見ませんからね」
「おー、平気。今、そーちゃんと課題やって、……っから」
向こう脛を蹴られた環が顔を顰める。行儀が悪い? そんなの知らない。課題なんてやっていないくせに、誤魔化すネタに使うから、罰が当たったんだ。――壮五はつんと顔を背けた。
「ならいいですけど。逢坂さんにあまり迷惑をかけないように」
現在進行形で迷惑をかけられているとは、言えなかった。自分も、環に迷惑をかけている真っ最中だから。
「……立て続けに人が来るなんて」
「だからって蹴ることねえだろ。あれ、地味に痛いんだかんな」
鍵はかけているし、ドアを蹴破る人なんていないのだから、そこまで怯えなくてもいいのに。じっとりと汗をかいたこめかみにくちづける。
「ちょっと、今ので汗かいたから……」
環の唇から逃げるように身を捩る壮五。
「もうとっくに汗かいてんじゃん」
背中だって、膝の裏だって、鍵をかけた部屋でおこなわれる密事で、二人ともべたべただ。声を押し殺さなければという緊張感と、ドア一枚隔てた向こう側をメンバーがいつ通ってもおかしくないという背徳感で、壮五はいつも以上に興奮していた。
「それはそうだけど……さっき、陸くんが来てるのに触っただろ」
二人の関係は、まだ、誰にも明かしていない。たとえ明かしていたとしても、こういう行為を悟られるのは絶対にいやだ。
「そーちゃんの体がチューしてって言ってたから」
「言ってない。あ、ばか」
自分ですら知らないところに、環が触れる。
「あんた、結構口悪くなったよな」
きみはいじわるになったよね。そう言い返してから、お互い、ベッドの中でだけそうなるよねと気付いた。
「じゃあ、変わったんじゃなくて、実はそういうとこあったんだーって、こういうことするようになってからわかったってこと?」
恋をしたことがなかったから、恋をしたら自分がどうなるのか、知らなかった。
「たぶん。……幻滅した?」
「んー……これくらいならかわいいから好き」
「奇遇だね。僕も、これくらいのいじわるな言葉なら好きだよ」
じゃあ、やり過ぎないよう気をつけなくちゃな。そうだね。
誰だろう。鍵をかけているし、勝手に開けられることはないはず。――呼吸くらいしたっていいのに、壮五は息を止めて、訪問者が名乗るのを待った。
「壮五さん、三月がお茶にしないかって言ってるんですけど」
「……っ、ごめんね、今、ちょっと立て込んでて」
そうですか。陸の足音が遠ざかっていく。魅力的なお誘いだけれど、今は、無理。あと一時間……か二時間後なら、すぐにでもリビングに向かうのに。
足音が完全に聞こえなくなるのを待ってから、環を睨みつけた。
「びっくりしたな」
「そう思うならやめ、……誰か来た」
環の口を手で塞ぐのと、ドアがノックされるのは、同時だった。
「逢坂さん、四葉さんを見ませんでしたか? あの人、明日提出の課題があるはずなんですけど」
「あー……、えぇと、環くんなら」
「俺、ここにいんよ」
明日提出の課題? そんな話は聞いていない。知っていたら、彼が今ここにいることを許可していない。
「課題は終わったんですか? 見せてほしいと言われても、面倒見ませんからね」
「おー、平気。今、そーちゃんと課題やって、……っから」
向こう脛を蹴られた環が顔を顰める。行儀が悪い? そんなの知らない。課題なんてやっていないくせに、誤魔化すネタに使うから、罰が当たったんだ。――壮五はつんと顔を背けた。
「ならいいですけど。逢坂さんにあまり迷惑をかけないように」
現在進行形で迷惑をかけられているとは、言えなかった。自分も、環に迷惑をかけている真っ最中だから。
「……立て続けに人が来るなんて」
「だからって蹴ることねえだろ。あれ、地味に痛いんだかんな」
鍵はかけているし、ドアを蹴破る人なんていないのだから、そこまで怯えなくてもいいのに。じっとりと汗をかいたこめかみにくちづける。
「ちょっと、今ので汗かいたから……」
環の唇から逃げるように身を捩る壮五。
「もうとっくに汗かいてんじゃん」
背中だって、膝の裏だって、鍵をかけた部屋でおこなわれる密事で、二人ともべたべただ。声を押し殺さなければという緊張感と、ドア一枚隔てた向こう側をメンバーがいつ通ってもおかしくないという背徳感で、壮五はいつも以上に興奮していた。
「それはそうだけど……さっき、陸くんが来てるのに触っただろ」
二人の関係は、まだ、誰にも明かしていない。たとえ明かしていたとしても、こういう行為を悟られるのは絶対にいやだ。
「そーちゃんの体がチューしてって言ってたから」
「言ってない。あ、ばか」
自分ですら知らないところに、環が触れる。
「あんた、結構口悪くなったよな」
きみはいじわるになったよね。そう言い返してから、お互い、ベッドの中でだけそうなるよねと気付いた。
「じゃあ、変わったんじゃなくて、実はそういうとこあったんだーって、こういうことするようになってからわかったってこと?」
恋をしたことがなかったから、恋をしたら自分がどうなるのか、知らなかった。
「たぶん。……幻滅した?」
「んー……これくらいならかわいいから好き」
「奇遇だね。僕も、これくらいのいじわるな言葉なら好きだよ」
じゃあ、やり過ぎないよう気をつけなくちゃな。そうだね。