寒い日
寝相が悪いせいで、毛布なんて夜中のうちに足許に追いやられている。そんな話をしたら、じゃあ電気敷布を使おうと言われた。
「できれば実物を見て買いたいけど、時間がないな……」
それもそのはず、音楽業界における一大イベント『ブラック・オア・ホワイト ミュージックファンタジア』まであと四週間。年末に放送される特別番組への出演を数多くこなしながら、合間を縫うように詰め込んだレッスンで大忙しの日々。加えて、環と壮五にはMEZZO"の仕事もある。もしかしたら、一年で一番忙しいのは、冬かもしれない。
猫の手も借りたいくらいだ。でも、猫におつかいなんて頼めないか。――壮五にしては珍しく、一人でノリツッコミらしいことをやっている。そーちゃんおもしれーなんてからかってやりたかったけれど、たぶん、なにがおもしろいのかわからないと本気で返されそうな気がするから、やめておいた。
「別に、なくていいし」
「だめだよ。ブラホワ前の……いや、ブラホワ前でなくても、布団を蹴飛ばして寝てたら風邪を引いてしまう」
環の部屋、並んで座ったベッドの上で、壮五がスマートフォンに文字を打ち込む。気になる、けれど、いくら相方とはいえ、人のスマートフォンを覗き込むなんて……と環が足指をもじもじさせていると、壮五がこちらに画面を見せてくれた。
「これなんてどうかな? 信頼できる通販サイトだし、商品への評価も及第点だと思うんだけど」
買いに行く時間がつくれないから通販で。別に買わなくてもいいと言っているのに、壮五の中では、なんとしても速やかに電気敷布を買わなければと決まっているらしい。
「寝てて暑いーってなるから蹴ってんだよ。電気のやつなんて敷いたら、蹴れないのに暑いばっかりで汗かいて、もーっと風邪引きそう」
「一番弱い設定なら、汗をかくほどにはならないと思うよ。もし、暑いと感じたら、スイッチを切ればいい」
「スイッチ切るために起きんの?」
環の質問に対し、壮五は「もちろん」と、首の動きだけで答える。それって、睡眠の質が悪くなりそう。というか、暑いより眠いが勝つに決まっているのに起きろだなんて。
「タイマー付きを買ってあげてもいいけど……少しの操作とはいえ、寝る前にそこまでするのは面倒だろうし……」
口ぶりから、どうやら壮五からのプレゼントにしたいようだとわかった。
それはそれで、嬉しくないといえばうそになる。当たり前のように心配して、当たり前のように解決策を探してくれる。壮五の優しさに、つい、うっかり、そのまま甘えそうになってしまった。
でも、どうせなら、環の好む甘やかし方をしてほしい。お金をかけなくても、商品が届くのを待たなくても、なんなら今すぐにだってできる簡単な方法があるのだから。
「あのさ、……こうやって寝たら、もっとあったかいと思うんだけど」
通販サイトと睨めっこしたままの壮五を抱き締めて、そのまま、ベッドに倒れ込む。
「えっと……」
「それに、これなら、そーちゃんもあったかいし」
鼓動の速さは筒抜けだろう。自分でも、とんでもない行動に出たと思っている。大の男が二人、狭いベッドで抱き合って眠るなんて、いくら相方でもやらない。
好きな人を抱き締めている緊張と興奮で、息が荒い。
絶対の絶対の絶対に、環の気持ちが伝わってしまった。こんな散らかった部屋じゃなくて、壮五と出かけて、楽しい一日を過ごし、いい雰囲気になってから、賭けに出るつもりだったのに。
なんて告白しようか必死でイメージトレーニングをして、年明けのオフの日に誘おうと決めていたのも、なにもかも、台無しになってしまった。
己の計画性のなさに、鼻の奥がツンとする。こんなだめなやつ、振られるかも。
「あの……」
大人しく抱き締められているのは、ライブでハグをすることが多いし、MEZZO"の仕事でそういう距離感を求められるのに慣れているから。――だと、思った。
「ごめん、むちゃくちゃ言った。忘れて」
ぱっと両腕を開き、壮五を解放する。
「……て、いいの?」
「え」
解放されても動かない壮五。なにが「いいの?」なのか聞き取れなかった。聞き返そうと、壮五の顔を覗き込んだ。
「忘れていいの? 僕は、忘れたくないけど……環くんは、それでいいの?」
環の視界に飛び込んできたのは、瞳が潤んで、頬が淡く染まった、とても相方に向ける顔とは思えないものだった。
「できれば実物を見て買いたいけど、時間がないな……」
それもそのはず、音楽業界における一大イベント『ブラック・オア・ホワイト ミュージックファンタジア』まであと四週間。年末に放送される特別番組への出演を数多くこなしながら、合間を縫うように詰め込んだレッスンで大忙しの日々。加えて、環と壮五にはMEZZO"の仕事もある。もしかしたら、一年で一番忙しいのは、冬かもしれない。
猫の手も借りたいくらいだ。でも、猫におつかいなんて頼めないか。――壮五にしては珍しく、一人でノリツッコミらしいことをやっている。そーちゃんおもしれーなんてからかってやりたかったけれど、たぶん、なにがおもしろいのかわからないと本気で返されそうな気がするから、やめておいた。
「別に、なくていいし」
「だめだよ。ブラホワ前の……いや、ブラホワ前でなくても、布団を蹴飛ばして寝てたら風邪を引いてしまう」
環の部屋、並んで座ったベッドの上で、壮五がスマートフォンに文字を打ち込む。気になる、けれど、いくら相方とはいえ、人のスマートフォンを覗き込むなんて……と環が足指をもじもじさせていると、壮五がこちらに画面を見せてくれた。
「これなんてどうかな? 信頼できる通販サイトだし、商品への評価も及第点だと思うんだけど」
買いに行く時間がつくれないから通販で。別に買わなくてもいいと言っているのに、壮五の中では、なんとしても速やかに電気敷布を買わなければと決まっているらしい。
「寝てて暑いーってなるから蹴ってんだよ。電気のやつなんて敷いたら、蹴れないのに暑いばっかりで汗かいて、もーっと風邪引きそう」
「一番弱い設定なら、汗をかくほどにはならないと思うよ。もし、暑いと感じたら、スイッチを切ればいい」
「スイッチ切るために起きんの?」
環の質問に対し、壮五は「もちろん」と、首の動きだけで答える。それって、睡眠の質が悪くなりそう。というか、暑いより眠いが勝つに決まっているのに起きろだなんて。
「タイマー付きを買ってあげてもいいけど……少しの操作とはいえ、寝る前にそこまでするのは面倒だろうし……」
口ぶりから、どうやら壮五からのプレゼントにしたいようだとわかった。
それはそれで、嬉しくないといえばうそになる。当たり前のように心配して、当たり前のように解決策を探してくれる。壮五の優しさに、つい、うっかり、そのまま甘えそうになってしまった。
でも、どうせなら、環の好む甘やかし方をしてほしい。お金をかけなくても、商品が届くのを待たなくても、なんなら今すぐにだってできる簡単な方法があるのだから。
「あのさ、……こうやって寝たら、もっとあったかいと思うんだけど」
通販サイトと睨めっこしたままの壮五を抱き締めて、そのまま、ベッドに倒れ込む。
「えっと……」
「それに、これなら、そーちゃんもあったかいし」
鼓動の速さは筒抜けだろう。自分でも、とんでもない行動に出たと思っている。大の男が二人、狭いベッドで抱き合って眠るなんて、いくら相方でもやらない。
好きな人を抱き締めている緊張と興奮で、息が荒い。
絶対の絶対の絶対に、環の気持ちが伝わってしまった。こんな散らかった部屋じゃなくて、壮五と出かけて、楽しい一日を過ごし、いい雰囲気になってから、賭けに出るつもりだったのに。
なんて告白しようか必死でイメージトレーニングをして、年明けのオフの日に誘おうと決めていたのも、なにもかも、台無しになってしまった。
己の計画性のなさに、鼻の奥がツンとする。こんなだめなやつ、振られるかも。
「あの……」
大人しく抱き締められているのは、ライブでハグをすることが多いし、MEZZO"の仕事でそういう距離感を求められるのに慣れているから。――だと、思った。
「ごめん、むちゃくちゃ言った。忘れて」
ぱっと両腕を開き、壮五を解放する。
「……て、いいの?」
「え」
解放されても動かない壮五。なにが「いいの?」なのか聞き取れなかった。聞き返そうと、壮五の顔を覗き込んだ。
「忘れていいの? 僕は、忘れたくないけど……環くんは、それでいいの?」
環の視界に飛び込んできたのは、瞳が潤んで、頬が淡く染まった、とても相方に向ける顔とは思えないものだった。