大人にしたくせに!
あらかじめ、アラームを普段のオフより遅めに設定しておいた。
鳴り始めたかどうかというタイミングで壮五は素早くアラームを止め、ゆっくりと寝返りを打つ。眠っている間に抱き枕のようにしがみつかれているかもと思いながら眠ったのだが、そんなことはなかったらしい。ちょっと、残念だな。
ブックマークしてある映画館のウェブサイトを開き、以前、環が観たいと言っていたタイトルを探す。昼過ぎの中途半端な時間に一回と、レイトショーの時間の、一日二回。公開から数週間経っていて、一日あたりの上映回数はぐっと少なくなっている。来週になれば、一日一回、レイトショーのみの上映となるだろう。なにがなんでも観たいわけではないとは言っていたが、せっかくのオフだし、彼をエスコートして映画デートでもしようかなと考えた。さて、昼過ぎとレイトショー、どちらにしようか。
まだ朝の早い時間だから、もう少しゆっくりしても、昼過ぎの上映にはかなりの余裕がある。レイトショーの上映終了時間は二十一時四十五分だから、十七歳の彼が出歩けるぎりぎりの時間まで薄暗い場所でのデートが楽しめる。要は、どちらを選んでもまったく問題はない。それが、壮五がベッドの中で優柔不断になっている理由だ。
今日の上映は、少し小さめの七番スクリーン。このスクリーンはそれぞれ両端から二列数えたところに通路があるから、どちらかの端の二列の、できれば、一番後ろがいい。映画は真ん中で観たいけれど、MEZZO"が映画を観に来ていると気付かれては面倒だ。二人きりの時間を楽しみたい。座席が空いているほうの時間にしようと決め、まずは昼過ぎの上映分から、空席を確認し始めた。
「……なにしてんの」
背後から少し掠れた寝起きの声がして、壮五はぴくりと肩を跳ねさせる。
「おはよう。起きたんだ?」
「んー、まぁ、起きた。おはよ。なにしてんの」
「映画。この前、観たいって言ってただろう? 天気もよさそうだし、どう?」
観たい映画。その言葉で合点がいったようで、環も少しだけ体を起こした。
「そりゃあ、観たいなーって言ったけど」
「けど?」
するりと腰を撫でられ、くすぐったさに、身を捩る。
「体、平気?」
自分から尋ねておきながら頬を赤くする環。赤くなる立場が違うんじゃないかという言葉は飲み込んで、壮五はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫だよ。だって、昨日、優しくしてくれたじゃないか」
「そういうこと言うなし!」
ぼふんと音がしそうなほど勢いよくベッドに顔を埋めてしまった。昨晩はもっと恥ずかしいことをしたのになぁなんて思いつつも、壮五はスマートフォンのディスプレイをすいすいと指でなぞって、空席確認の作業に戻る。
「あ、左端の一番後ろ。十六時なんだけど、ここにしようか。……していい?」
「……好きにしろよ」
未だ恥じらって顔を見せない環だが、映画を観に行く気にはなっているらしい。
「わかった。出かける時、学生証持ってね」
大人一枚、高校生一枚。券種選択画面で一枚ずつ選択し、確認画面へと進む。
「待った」
「どうしたの」
操作していたほうの手首を掴まれたまま、早くしないと仮押さえした座席が解除されてしまうのにと、環とディスプレイを交互に見遣る。
「学生証ってなんで。俺、もう大人なんだけど」
「なんでって……きみは高校生だろう。高校生の料金で買うんだから、入る時に学生証を見せないと」
二人で映画を観に行くのは初めてではないのに、なにを今更。
「確かに、まだ卒業してねえけどさ。でも、あんた昨日言ったじゃん。その、……したあと、に」
そこまで言うと、環はまたしてもベッドに潜り込んでしまった。
(したあとに……)
昨晩、環と壮五は初めて体を重ねた。触り合いは交際前からしていたくせに、交際から半年経っても最後まで進まない状況に痺れを切らした壮五が、環のベッドに潜り込んだのだ。なにをするんだと慌てる環に対し、この半年間しっかりと調べ、自分で特訓もしてきたのだと、いやらしく誘った。恐る恐る行為を進める環に、もう少し激しくしたって壊れないのにと思ったのは、ここだけの秘密。しかし、そのおかげで、初めて体を重ねた翌朝でも、壮五はこうして平然とできている。
(昨日の環くん、かわいかったなぁ……)
気持ちよ過ぎて頭がおかしくなりそうだと涙目になっていた。そのくせ、ダンスをする時以上にセクシーな腰遣いで壮五を翻弄し、甘く啼かせてきたのだから、彼の天才肌はこういうところでも発揮されるのかと末恐ろしくなったものだ。すぐに出してしまったと顔を真っ赤にする環に、ものすごく興奮した。……と、そこまで思い返したところで、体を重ねた直後の、自分の発言が脳裏を過る。
――きみのこと、大人にしちゃったね。
(あれか……)
あれは彼の初めてをいただいたという高揚感から出た言葉だ。それ以上でも、それ以下でもない。
「環くん。性交渉を経験したという点のみでいえば、確かに大人だ。でも、高校生であることには変わりないよ」
「……そんくらいわかってっし。そうじゃなくて、……ああいうこと、したのに……そーちゃん、俺のことまだガキ扱いすんのかよ」
「子ども扱いじゃないよ。あのね、環くん。高校生料金で映画を観られるのは今だけなんだ。使えるものは使おう」
「そうじゃなくてさぁ」
壮五が言っていることはわかる。わかるが、あれよあれよという間に童貞を食われ、それでも初めてなりに頑張った翌朝に、年上の恋人から思いっきり子ども扱いされるのはおもしろくない。どうしてそのあたりをわかってくれないのだろう。環は布団を頭まで被ったまま、むっと唇を尖らせた。
「環くん」
布団ごと、環を抱き締める。
「……別に、拗ねてるとかじゃねえから」
うそ、拗ねているくせに。そんなところもかわいいと思うけれど、怒らせたくない。だから――
「ねぇ、出てきて。きみのこと、子ども扱いしてるわけじゃないのは本心だ。学生割引を使うかどうかは任意で、僕は当たり前のように使おうとしたけど……環くんなら、どうする?」
もぞもぞと布団が動いたかと思うと、未だ唇を尖らせたままの環の顔が出てきた。
「俺は、なくていい。俺が払うし」
ちょっと格好つけなところがあるところも、いじらしくてかわいいなと思う。
――彼が十八歳になるのを待ちきれなくて大人にしてしまったお詫びに、今日のデートは彼にエスコートしてもらうのがいいかも。
鳴り始めたかどうかというタイミングで壮五は素早くアラームを止め、ゆっくりと寝返りを打つ。眠っている間に抱き枕のようにしがみつかれているかもと思いながら眠ったのだが、そんなことはなかったらしい。ちょっと、残念だな。
ブックマークしてある映画館のウェブサイトを開き、以前、環が観たいと言っていたタイトルを探す。昼過ぎの中途半端な時間に一回と、レイトショーの時間の、一日二回。公開から数週間経っていて、一日あたりの上映回数はぐっと少なくなっている。来週になれば、一日一回、レイトショーのみの上映となるだろう。なにがなんでも観たいわけではないとは言っていたが、せっかくのオフだし、彼をエスコートして映画デートでもしようかなと考えた。さて、昼過ぎとレイトショー、どちらにしようか。
まだ朝の早い時間だから、もう少しゆっくりしても、昼過ぎの上映にはかなりの余裕がある。レイトショーの上映終了時間は二十一時四十五分だから、十七歳の彼が出歩けるぎりぎりの時間まで薄暗い場所でのデートが楽しめる。要は、どちらを選んでもまったく問題はない。それが、壮五がベッドの中で優柔不断になっている理由だ。
今日の上映は、少し小さめの七番スクリーン。このスクリーンはそれぞれ両端から二列数えたところに通路があるから、どちらかの端の二列の、できれば、一番後ろがいい。映画は真ん中で観たいけれど、MEZZO"が映画を観に来ていると気付かれては面倒だ。二人きりの時間を楽しみたい。座席が空いているほうの時間にしようと決め、まずは昼過ぎの上映分から、空席を確認し始めた。
「……なにしてんの」
背後から少し掠れた寝起きの声がして、壮五はぴくりと肩を跳ねさせる。
「おはよう。起きたんだ?」
「んー、まぁ、起きた。おはよ。なにしてんの」
「映画。この前、観たいって言ってただろう? 天気もよさそうだし、どう?」
観たい映画。その言葉で合点がいったようで、環も少しだけ体を起こした。
「そりゃあ、観たいなーって言ったけど」
「けど?」
するりと腰を撫でられ、くすぐったさに、身を捩る。
「体、平気?」
自分から尋ねておきながら頬を赤くする環。赤くなる立場が違うんじゃないかという言葉は飲み込んで、壮五はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫だよ。だって、昨日、優しくしてくれたじゃないか」
「そういうこと言うなし!」
ぼふんと音がしそうなほど勢いよくベッドに顔を埋めてしまった。昨晩はもっと恥ずかしいことをしたのになぁなんて思いつつも、壮五はスマートフォンのディスプレイをすいすいと指でなぞって、空席確認の作業に戻る。
「あ、左端の一番後ろ。十六時なんだけど、ここにしようか。……していい?」
「……好きにしろよ」
未だ恥じらって顔を見せない環だが、映画を観に行く気にはなっているらしい。
「わかった。出かける時、学生証持ってね」
大人一枚、高校生一枚。券種選択画面で一枚ずつ選択し、確認画面へと進む。
「待った」
「どうしたの」
操作していたほうの手首を掴まれたまま、早くしないと仮押さえした座席が解除されてしまうのにと、環とディスプレイを交互に見遣る。
「学生証ってなんで。俺、もう大人なんだけど」
「なんでって……きみは高校生だろう。高校生の料金で買うんだから、入る時に学生証を見せないと」
二人で映画を観に行くのは初めてではないのに、なにを今更。
「確かに、まだ卒業してねえけどさ。でも、あんた昨日言ったじゃん。その、……したあと、に」
そこまで言うと、環はまたしてもベッドに潜り込んでしまった。
(したあとに……)
昨晩、環と壮五は初めて体を重ねた。触り合いは交際前からしていたくせに、交際から半年経っても最後まで進まない状況に痺れを切らした壮五が、環のベッドに潜り込んだのだ。なにをするんだと慌てる環に対し、この半年間しっかりと調べ、自分で特訓もしてきたのだと、いやらしく誘った。恐る恐る行為を進める環に、もう少し激しくしたって壊れないのにと思ったのは、ここだけの秘密。しかし、そのおかげで、初めて体を重ねた翌朝でも、壮五はこうして平然とできている。
(昨日の環くん、かわいかったなぁ……)
気持ちよ過ぎて頭がおかしくなりそうだと涙目になっていた。そのくせ、ダンスをする時以上にセクシーな腰遣いで壮五を翻弄し、甘く啼かせてきたのだから、彼の天才肌はこういうところでも発揮されるのかと末恐ろしくなったものだ。すぐに出してしまったと顔を真っ赤にする環に、ものすごく興奮した。……と、そこまで思い返したところで、体を重ねた直後の、自分の発言が脳裏を過る。
――きみのこと、大人にしちゃったね。
(あれか……)
あれは彼の初めてをいただいたという高揚感から出た言葉だ。それ以上でも、それ以下でもない。
「環くん。性交渉を経験したという点のみでいえば、確かに大人だ。でも、高校生であることには変わりないよ」
「……そんくらいわかってっし。そうじゃなくて、……ああいうこと、したのに……そーちゃん、俺のことまだガキ扱いすんのかよ」
「子ども扱いじゃないよ。あのね、環くん。高校生料金で映画を観られるのは今だけなんだ。使えるものは使おう」
「そうじゃなくてさぁ」
壮五が言っていることはわかる。わかるが、あれよあれよという間に童貞を食われ、それでも初めてなりに頑張った翌朝に、年上の恋人から思いっきり子ども扱いされるのはおもしろくない。どうしてそのあたりをわかってくれないのだろう。環は布団を頭まで被ったまま、むっと唇を尖らせた。
「環くん」
布団ごと、環を抱き締める。
「……別に、拗ねてるとかじゃねえから」
うそ、拗ねているくせに。そんなところもかわいいと思うけれど、怒らせたくない。だから――
「ねぇ、出てきて。きみのこと、子ども扱いしてるわけじゃないのは本心だ。学生割引を使うかどうかは任意で、僕は当たり前のように使おうとしたけど……環くんなら、どうする?」
もぞもぞと布団が動いたかと思うと、未だ唇を尖らせたままの環の顔が出てきた。
「俺は、なくていい。俺が払うし」
ちょっと格好つけなところがあるところも、いじらしくてかわいいなと思う。
――彼が十八歳になるのを待ちきれなくて大人にしてしまったお詫びに、今日のデートは彼にエスコートしてもらうのがいいかも。