被害者T・I
だから、飲み過ぎるなよと言ったのに。――送られてきたメッセージに、溜息しか出てこない。
ラビットチャットに表示された名前を見て、もう一度、溜息をつく。送り主はZOOLの狗丸トウマだ。偶然にもMEZZO"と同じスタジオで収録していることがわかり、双方の撮影が終わったあと、食事でもどうかということになった。ZOOLの他のメンバーはどうしたのかと問うと、雑誌のインタビュー、ドラマの撮影、実家の用事があって、寄り道ができる状態ではないのだという。年上の――それも、相方と同じ年の――男にこんな表現をするのは失礼だと思いつつ、なんだか捨てられた子犬みたいだなぁなんて思ってしまった。声に出すと壮五に叱られるだろうから、言わないでおいたけれど。
いずれもスタッフと打ち上げをするような撮影ではなかったし、明日はMEZZO"のラジオ番組だけだから、帰りが少し遅くなっても問題はない。
――夜十時までには出れるようにするからさ。
当たり前のように環を気遣ってくれるトウマに感謝しつつ、じゃあ……と、撮影が終わったあとに連絡することを約束しようとしたその時。
――あ、バンちゃんだ。
環のラビットチャットに送られてきたのは、事務所に顔を出してほしいという万理からのメッセージだった。彼は、環と壮五をここまで送り届けたあと「撮影が終わった頃に迎えに行くね」と慌ただしく事務所へ戻ってしまった。MEZZO"用のグループチャットではないということは、環個人への用件だ。少し前に打診された映画出演の件だろうか。メッセージのやりとりや電話では話をまとめにくいことから、顔を出してほしいと言っているのだろう。万理の予定では、撮影が終わったMEZZO"を迎えに行き、壮五を寮まで送り届け、環を事務所に連れていくことになっているはずだ。
――別の日にするか?
誘った相手のうち一人に急用ができた時、残った面々で予定どおり過ごすか、メンバーがそろわないなら予定自体なかったことにするかは、その予定の種類と、発案者の性格によって変わるだろう。仕事のあと、気の置けない友人たちとのプライベートな食事。トウマにとっては、誘った相手が揃うことを優先したいものだったらしい。ŹOOĻとしてのデビュー当初は悪ぶっていたトウマだが、彼の本質は、人一倍、情に厚く、人付き合いを大事にする男だ。
――ううん、いい。ごめん、まるっちとそーちゃんで行って。
どれくらいで話が終わるかはわからないから、あとで行くとは言えなかった。
――いいの?
――いいって。その代わり、飲み過ぎんなよ。
迎えに行けないかもだし。環の言葉に、壮五は何度も頷いた。トウマも、壮五が飲み過ぎないよう気を付けておくと言ってくれた。あまり遅くならないようにするとも。
撮影が終わったあと、迎えに来てくれた万理に事情を話し、環は万理が運転する社用車で、壮五はトウマとタクシーで、それぞれの目的地へと向かったのである。
事務所に呼ばれたのは、予想どおり、映画への出演に関する話だった。制作会社が用意した複数の資料を見せながら話したかったため、メッセージや電話でのやりとりが難しかったのだという。オファーがきたのは嬉しかったけれど、文章だけではイメージが湧きにくい設定だったから、視覚に訴える映像資料も用意されているのはありがたかった。十数分の映像で映画の題材となる世界観に魅了された環は、瞳を輝かせて「やる!」と答えたのである。
帰ってきたらどんなふうに報告しよう。資料そのものは事務所が保管しているから、環が見せてやることはできないけれど、環が受けた衝撃や感動を伝えれば、一緒になって喜んでくれるはずだ。――壮五の帰宅を待ちわびながら、嬉しそうにはしゃぐ壮五の顔を想像しては、にやにやと口許をゆるめていた。
それなのに。
(飲み過ぎんなっつったじゃん。わかったって言ったじゃん)
トウマからのメッセージを見た瞬間の、環の脱力っぷりといったら。
まだ二十時過ぎでよかった。この時間なら、十七歳の環が外を歩いていても誰にも咎められない。手早く身支度を整え、大きな声で「そーちゃん回収してくる!」と叫んで寮を飛び出した。今は一織とナギが寮にいる時間帯だから、どちらかの耳に届いただろう。
「心配かけたくないからって、壮五なりにセーブしてたはずなんだけどさ」
トウマが用を足そうと席を外した隙に、アルコール度数が強いものを注文していたらしい。何度も頭を下げて詫びるトウマに、こちらが申し訳なさを感じる。
「いいって。そーちゃん、いっつもそうだから。それより、まるっち、ごめんな」
ゆらゆらと体を揺らす壮五の体を支えながら、壮五の代わりに謝罪する。
「いや、……なんか、悪いなって」
言葉を必死に探そうとするのがトウマらしくなくて、じっと続きを待つ。
「聞いちゃいけないこと聞いちまったっつーか……」
◇
「お帰りなさい。手伝います」
壮五をおぶったまま靴を脱ぐ環を見て、一織が慌てて駆け寄り、壮五の靴を脱がせてくれた。
「ありがと。そーちゃん寝かせてくる」
「はい。……どうしたんですか、その顔」
一織のその言葉には聞こえないふりをし、おやすみとだけ返した。
酔った壮五を彼の部屋に運び込み、ベッドに転がす。鼻が潰れたみたいな声が上がったが、そんなのは無視だ。寮までの帰り道、珍しく眠ってくれていたのを起こしてしまったのだって、今はどうでもいい。
「……? たーくん?」
壮五の上に乗り上げ、赤らんだ顔を見下ろす。
「まるっちに、なに言ってんの」
トウマを信頼していないわけではない。人一倍、情に厚い男だ。環たちが相方以上の関係だと知ったからといって、それを吹聴するような人でもない。ŹOOĻのメンバーにだって、秘密にしておいてくれるだろう。だから、トウマに自分たちの交際が知られたこと自体は、まぁ、仕方ないかと片付けられる。
「たぁ、っ、ん……」
酔っている壮五には、絶対に手を出さない。翌朝、覚えていない可能性が高いから。
(酒臭え……)
舌を捻じ込んで、壮五が感じるポイントを舐る。
「ん、んぅ……ぁ」
酔っているから、手を出さない。そう決めて、今まで何度のしかかられても、酔った手つきで大事なところをまさぐられても、あの手この手で避けてきたのに。
酒が入っているからいつもどおりとはいかないものの、キスで感じているらしく、壮五のものが、スラックスの中でゆるやかに芯を持ち始めていた。もっと気持ちよくなりたいと、環の腹にぐいぐいと押し付けてくる。
「あんた、ほんとエッロい体……」
「んゃ、あ、ちが……」
「期待してるかもだけど、今のあんたには触ってあげない」
危ない危ない、自分まで取り返しがつかないくらい勃つところだった。……うそ、本当は、結構やばい。普通に勃っているし、目の前のこの人が酔ってさえいなければ、めちゃくちゃエッチしたい。
「んん、たぁく……さわって」
「ほんっと、なに言ってんだか」
――壮五と、その、付き合ってんだって? あ、いや、無理に訊き出したとかじゃなくてさ、壮五が、……。
トウマの言葉を思い出す。百や三月ほどとはいかなくても、明るい性格と隠し切れない人の好さが相俟ってアイドル業界以外にも人脈があるようだし、なにかと目立つ彼のことだ。いろいろな経験があるのだろうと思っていたが、なかなかどうして、純朴な男だ。酒が回ってリミッターの外れた壮五が語った赤裸々な話を、顔を真っ赤にしながら報告してくれた。
「……あのさ、俺、そーちゃんが俺のこと見てるよって言ってくれるよりも前から、あんたのこと見てんの」
アルコールで上気した頬に触れると、壮五の体がひくんと震えた。もう一度、壮五に覆い被さり、実は結構やばいなぁと思うくらいにかたくなったそこを押し付ける。
「あっ……」
「俺とくっつきたいんなら、素面の時にして。恥ずかしいとか、照れくさいとか、あんただけじゃねえよ。俺だって恥ずかしいけど、毎回、頑張って今日したいけどいい? って訊いてるわけ」
二人して、熱い息が漏れる。
やがて、観念したように、壮五が口を開く。
「……いつから気付いてた?」
「迎えに行って、あんたの顔見た瞬間から」
最初からじゃないか……と、声が小さくなったのは、居たたまれなさと、羞恥心からだろう。恥ずかしいのはこっちだっての。
「あぁ、もう……今日は厄日だ」
「こっちのセリフ。帰ってくるまで寝たふりしてんのもバレバレだし」
壮五曰く、途中までは本当に酔っていたらしい。食事の席に顔を出せなくなった環への申し訳なさがまったくなかったといえばうそになるが、年齢が同じことから意気投合したトウマとの酒の席は、やっぱり楽しくて、解放的な気分になってしまった。明日は夕方からラジオの仕事が入っているだけだから、多少酔ったところで問題はない。トウマが用を足しに席を外した隙に、度数が高いからという理由で普段は飲めない、お気に入りの酒を注文した。多少どころか結構酔ってしまっても、一緒にいるのは気心知れた相手だからというのも、壮五の気を大きくさせたのだろう。
「で、べろんべろんになったって?」
「べ……そこまでは酔ってないよ」
「はい、うそー。まるっちに俺らのこと言っちゃうくらい警戒心ガバガバじゃん」
そう。したたかに酔った壮五は、相手がトウマという安心感から、恋人の惚気話を始めたのだ。IDOLiSH7のメンバーにだってまだ内緒にしているのに。しかも、メンバーには内緒でと言い出したのは、壮五のほうなのにだ。
「酔い醒めたのは? いつ?」
「トウマが、すごくびっくりした顔をして。あ、しまった、って。でも、自分がどこまで話してしまったのか、確かめるのが怖くて……」
なるほど。環が迎えに行った時、トウマが耳打ちしてくれた内容は、壮五の記憶から抜けた部分というわけか。
「――〝たーくんの体に触りたい、一晩中べたべたして、シーツぐちゃぐちゃになるくらいわけわかんなくなりたい〟だってさ」
よくもまあ、耳を塞ぎたくなるような恥ずかしいことを言ってくれたものだ。楽しい食事の場で突然そんな話を聞かされた被害者のトウマに申し訳なさ過ぎる。環だって、次にトウマと会った時にどんな顔をすればいいかわからない。
「うそだろ……トウマに合わせる顔がない……」
「うそじゃねえし。これに懲りたらお酒セーブして。わかった? ……そんで、そーちゃんは、このあとどうしたい?」
「どうって……」
「酔い醒めてんの隠して、やる気満々だったじゃん」
壮五の股座を膝で押し上げると「あっ」と声が漏れた。
酔っている壮五に手を出すつもりはないが、本人の酔いが醒めていて、壮五自身も正気に戻っていると認めたなら、話は別だ。
「……部屋に入るなりキスしてきた環くんのほうが、その気だったくせに」
「俺は、まるっちからそーちゃんの本音聞いちゃって、あんたがもう酔ってないの気付いてたから。エロい気分になったのは、あんたが先だと思うけど」
どちらが先にそういう期待をしていたか。――結論が出たところで、正直、どうでもいい。でも、第三者に恥をさらした二人が、今夜、恋人の時間を過ごすためのきっかけに必要なやりとりだった。
「……降参」
果たして、先に白旗を揚げたのはどちらだったのか。
ラビットチャットに表示された名前を見て、もう一度、溜息をつく。送り主はZOOLの狗丸トウマだ。偶然にもMEZZO"と同じスタジオで収録していることがわかり、双方の撮影が終わったあと、食事でもどうかということになった。ZOOLの他のメンバーはどうしたのかと問うと、雑誌のインタビュー、ドラマの撮影、実家の用事があって、寄り道ができる状態ではないのだという。年上の――それも、相方と同じ年の――男にこんな表現をするのは失礼だと思いつつ、なんだか捨てられた子犬みたいだなぁなんて思ってしまった。声に出すと壮五に叱られるだろうから、言わないでおいたけれど。
いずれもスタッフと打ち上げをするような撮影ではなかったし、明日はMEZZO"のラジオ番組だけだから、帰りが少し遅くなっても問題はない。
――夜十時までには出れるようにするからさ。
当たり前のように環を気遣ってくれるトウマに感謝しつつ、じゃあ……と、撮影が終わったあとに連絡することを約束しようとしたその時。
――あ、バンちゃんだ。
環のラビットチャットに送られてきたのは、事務所に顔を出してほしいという万理からのメッセージだった。彼は、環と壮五をここまで送り届けたあと「撮影が終わった頃に迎えに行くね」と慌ただしく事務所へ戻ってしまった。MEZZO"用のグループチャットではないということは、環個人への用件だ。少し前に打診された映画出演の件だろうか。メッセージのやりとりや電話では話をまとめにくいことから、顔を出してほしいと言っているのだろう。万理の予定では、撮影が終わったMEZZO"を迎えに行き、壮五を寮まで送り届け、環を事務所に連れていくことになっているはずだ。
――別の日にするか?
誘った相手のうち一人に急用ができた時、残った面々で予定どおり過ごすか、メンバーがそろわないなら予定自体なかったことにするかは、その予定の種類と、発案者の性格によって変わるだろう。仕事のあと、気の置けない友人たちとのプライベートな食事。トウマにとっては、誘った相手が揃うことを優先したいものだったらしい。ŹOOĻとしてのデビュー当初は悪ぶっていたトウマだが、彼の本質は、人一倍、情に厚く、人付き合いを大事にする男だ。
――ううん、いい。ごめん、まるっちとそーちゃんで行って。
どれくらいで話が終わるかはわからないから、あとで行くとは言えなかった。
――いいの?
――いいって。その代わり、飲み過ぎんなよ。
迎えに行けないかもだし。環の言葉に、壮五は何度も頷いた。トウマも、壮五が飲み過ぎないよう気を付けておくと言ってくれた。あまり遅くならないようにするとも。
撮影が終わったあと、迎えに来てくれた万理に事情を話し、環は万理が運転する社用車で、壮五はトウマとタクシーで、それぞれの目的地へと向かったのである。
事務所に呼ばれたのは、予想どおり、映画への出演に関する話だった。制作会社が用意した複数の資料を見せながら話したかったため、メッセージや電話でのやりとりが難しかったのだという。オファーがきたのは嬉しかったけれど、文章だけではイメージが湧きにくい設定だったから、視覚に訴える映像資料も用意されているのはありがたかった。十数分の映像で映画の題材となる世界観に魅了された環は、瞳を輝かせて「やる!」と答えたのである。
帰ってきたらどんなふうに報告しよう。資料そのものは事務所が保管しているから、環が見せてやることはできないけれど、環が受けた衝撃や感動を伝えれば、一緒になって喜んでくれるはずだ。――壮五の帰宅を待ちわびながら、嬉しそうにはしゃぐ壮五の顔を想像しては、にやにやと口許をゆるめていた。
それなのに。
(飲み過ぎんなっつったじゃん。わかったって言ったじゃん)
トウマからのメッセージを見た瞬間の、環の脱力っぷりといったら。
まだ二十時過ぎでよかった。この時間なら、十七歳の環が外を歩いていても誰にも咎められない。手早く身支度を整え、大きな声で「そーちゃん回収してくる!」と叫んで寮を飛び出した。今は一織とナギが寮にいる時間帯だから、どちらかの耳に届いただろう。
「心配かけたくないからって、壮五なりにセーブしてたはずなんだけどさ」
トウマが用を足そうと席を外した隙に、アルコール度数が強いものを注文していたらしい。何度も頭を下げて詫びるトウマに、こちらが申し訳なさを感じる。
「いいって。そーちゃん、いっつもそうだから。それより、まるっち、ごめんな」
ゆらゆらと体を揺らす壮五の体を支えながら、壮五の代わりに謝罪する。
「いや、……なんか、悪いなって」
言葉を必死に探そうとするのがトウマらしくなくて、じっと続きを待つ。
「聞いちゃいけないこと聞いちまったっつーか……」
◇
「お帰りなさい。手伝います」
壮五をおぶったまま靴を脱ぐ環を見て、一織が慌てて駆け寄り、壮五の靴を脱がせてくれた。
「ありがと。そーちゃん寝かせてくる」
「はい。……どうしたんですか、その顔」
一織のその言葉には聞こえないふりをし、おやすみとだけ返した。
酔った壮五を彼の部屋に運び込み、ベッドに転がす。鼻が潰れたみたいな声が上がったが、そんなのは無視だ。寮までの帰り道、珍しく眠ってくれていたのを起こしてしまったのだって、今はどうでもいい。
「……? たーくん?」
壮五の上に乗り上げ、赤らんだ顔を見下ろす。
「まるっちに、なに言ってんの」
トウマを信頼していないわけではない。人一倍、情に厚い男だ。環たちが相方以上の関係だと知ったからといって、それを吹聴するような人でもない。ŹOOĻのメンバーにだって、秘密にしておいてくれるだろう。だから、トウマに自分たちの交際が知られたこと自体は、まぁ、仕方ないかと片付けられる。
「たぁ、っ、ん……」
酔っている壮五には、絶対に手を出さない。翌朝、覚えていない可能性が高いから。
(酒臭え……)
舌を捻じ込んで、壮五が感じるポイントを舐る。
「ん、んぅ……ぁ」
酔っているから、手を出さない。そう決めて、今まで何度のしかかられても、酔った手つきで大事なところをまさぐられても、あの手この手で避けてきたのに。
酒が入っているからいつもどおりとはいかないものの、キスで感じているらしく、壮五のものが、スラックスの中でゆるやかに芯を持ち始めていた。もっと気持ちよくなりたいと、環の腹にぐいぐいと押し付けてくる。
「あんた、ほんとエッロい体……」
「んゃ、あ、ちが……」
「期待してるかもだけど、今のあんたには触ってあげない」
危ない危ない、自分まで取り返しがつかないくらい勃つところだった。……うそ、本当は、結構やばい。普通に勃っているし、目の前のこの人が酔ってさえいなければ、めちゃくちゃエッチしたい。
「んん、たぁく……さわって」
「ほんっと、なに言ってんだか」
――壮五と、その、付き合ってんだって? あ、いや、無理に訊き出したとかじゃなくてさ、壮五が、……。
トウマの言葉を思い出す。百や三月ほどとはいかなくても、明るい性格と隠し切れない人の好さが相俟ってアイドル業界以外にも人脈があるようだし、なにかと目立つ彼のことだ。いろいろな経験があるのだろうと思っていたが、なかなかどうして、純朴な男だ。酒が回ってリミッターの外れた壮五が語った赤裸々な話を、顔を真っ赤にしながら報告してくれた。
「……あのさ、俺、そーちゃんが俺のこと見てるよって言ってくれるよりも前から、あんたのこと見てんの」
アルコールで上気した頬に触れると、壮五の体がひくんと震えた。もう一度、壮五に覆い被さり、実は結構やばいなぁと思うくらいにかたくなったそこを押し付ける。
「あっ……」
「俺とくっつきたいんなら、素面の時にして。恥ずかしいとか、照れくさいとか、あんただけじゃねえよ。俺だって恥ずかしいけど、毎回、頑張って今日したいけどいい? って訊いてるわけ」
二人して、熱い息が漏れる。
やがて、観念したように、壮五が口を開く。
「……いつから気付いてた?」
「迎えに行って、あんたの顔見た瞬間から」
最初からじゃないか……と、声が小さくなったのは、居たたまれなさと、羞恥心からだろう。恥ずかしいのはこっちだっての。
「あぁ、もう……今日は厄日だ」
「こっちのセリフ。帰ってくるまで寝たふりしてんのもバレバレだし」
壮五曰く、途中までは本当に酔っていたらしい。食事の席に顔を出せなくなった環への申し訳なさがまったくなかったといえばうそになるが、年齢が同じことから意気投合したトウマとの酒の席は、やっぱり楽しくて、解放的な気分になってしまった。明日は夕方からラジオの仕事が入っているだけだから、多少酔ったところで問題はない。トウマが用を足しに席を外した隙に、度数が高いからという理由で普段は飲めない、お気に入りの酒を注文した。多少どころか結構酔ってしまっても、一緒にいるのは気心知れた相手だからというのも、壮五の気を大きくさせたのだろう。
「で、べろんべろんになったって?」
「べ……そこまでは酔ってないよ」
「はい、うそー。まるっちに俺らのこと言っちゃうくらい警戒心ガバガバじゃん」
そう。したたかに酔った壮五は、相手がトウマという安心感から、恋人の惚気話を始めたのだ。IDOLiSH7のメンバーにだってまだ内緒にしているのに。しかも、メンバーには内緒でと言い出したのは、壮五のほうなのにだ。
「酔い醒めたのは? いつ?」
「トウマが、すごくびっくりした顔をして。あ、しまった、って。でも、自分がどこまで話してしまったのか、確かめるのが怖くて……」
なるほど。環が迎えに行った時、トウマが耳打ちしてくれた内容は、壮五の記憶から抜けた部分というわけか。
「――〝たーくんの体に触りたい、一晩中べたべたして、シーツぐちゃぐちゃになるくらいわけわかんなくなりたい〟だってさ」
よくもまあ、耳を塞ぎたくなるような恥ずかしいことを言ってくれたものだ。楽しい食事の場で突然そんな話を聞かされた被害者のトウマに申し訳なさ過ぎる。環だって、次にトウマと会った時にどんな顔をすればいいかわからない。
「うそだろ……トウマに合わせる顔がない……」
「うそじゃねえし。これに懲りたらお酒セーブして。わかった? ……そんで、そーちゃんは、このあとどうしたい?」
「どうって……」
「酔い醒めてんの隠して、やる気満々だったじゃん」
壮五の股座を膝で押し上げると「あっ」と声が漏れた。
酔っている壮五に手を出すつもりはないが、本人の酔いが醒めていて、壮五自身も正気に戻っていると認めたなら、話は別だ。
「……部屋に入るなりキスしてきた環くんのほうが、その気だったくせに」
「俺は、まるっちからそーちゃんの本音聞いちゃって、あんたがもう酔ってないの気付いてたから。エロい気分になったのは、あんたが先だと思うけど」
どちらが先にそういう期待をしていたか。――結論が出たところで、正直、どうでもいい。でも、第三者に恥をさらした二人が、今夜、恋人の時間を過ごすためのきっかけに必要なやりとりだった。
「……降参」
果たして、先に白旗を揚げたのはどちらだったのか。