ステップアップ
互いの気持ちが同じだとわかった日に話し合って、自分たちの関係に〝恋人〟という名前を加えた。メンバー、相方、友人、仲間……自分たちの関係には既にいくつもの名前があったけれど、二人の気持ちが重なっていることに名前がついていないのは不安で、いもしない神様に縋るみたいに、恋人にもなった。
恋愛関係になったことをメンバーにも知らせたくないと望んだのは、意外にも、環だった。第三者に知られると、秘かに名前をつけた恋心が、穢されてしまう気がする。拙いながらも、環はそんな言葉をこぼした。まるでラブソングの歌詞か、恋愛小説の一節みたいだと思い、彼の繊細さにどうしようもないくらいときめいて、壮五も、このことは二人だけの秘密にしておこうと、同意したのだ。世間的には〝許されない恋〟に分類されるであろう自分たちの関係に、背徳感みたいなのを感じたのも、壮五のときめきを加速させるスパイスだったのかもしれない。
慎重に慎重を何重にも重ねた恋人関係だから、打ち合わせや反省会をするみたいな雰囲気で相手の部屋に行き、――いつ、メンバーが部屋を訪ねてきても問題ないように――握りこぶしひとつ分の距離を保ったまま、おしゃべりをするだけ。
内緒話みたいな小さな声で、手を繋ぐこともハグもせず、もちろん、デートなんでできないから、言葉のやりとりで、どこかに出かけた時の空想に浸る。
傍から見れば、おまえたちはなんて虚しいことをしているんだと、そんな交際の仕方で恋人と呼べるのかと、笑われるかもしれない。自分たちの関係に〝恋人〟という名前を増やした意味はあるのかと、首を傾げられるだろう。それでも、もうそろそろ自室に戻らなければと、時刻を確認したあとに相手を見つめる瞳には、名残惜しさと呼ぶには熱のこもった色が混ざっているから、自分たちはこれでいい。――そう、思っていた。
「俺ら、付き合って二ヵ月ちょっとじゃん? だから、その、……」
壮五の部屋、毎日の習慣といってもいい、おやすみ前の二人きりの時間。
「うん、二ヵ月と、十日と、二十時間」
「時間まで数えてんの」
「だって、一生忘れられない、大切な瞬間だったから」
胡坐をかいた環と、正座をした壮五。顔を突き合わせて話し合い、既に持っている名前だけでは、この感情のやり場がなくてかわいそうだと、恋人になることを決めた時、壮五には、環と、その後ろにある壁掛け時計が見えていた。
「きみが十八歳になった日の夜……もう日にちは変わってたけど、眠る前に、この部屋に来て……すごく、嬉しい言葉をくれたから」
十八歳になれば、子どもだからという理由で話を逸らされることはないと踏んだ、環なりの作戦だった。しどろもどろになる壮五に、たたみかけるように感情を――環の誕生日を一日がかりで祝い、ぐっすり眠っているメンバーの部屋には聞こえないように――吐露し、壮五からも、同じ言葉を引き出した。
「……誰にも、メンバーにも内緒って言った。俺とそーちゃんとのこと、守りたいし。でも、好き、だから、もうちょっと、近付きたい。……だめ?」
環の表情に、あぁ、これこそが、自分の求めていたものだと気付いた。もっとほしくてたまらないと、焦がれる瞳。
内緒話みたいな小さな声で、手を繋ぐこともハグもせず、言葉のやりとりだけで、デートの空想。それはそれで楽しいけれど――
「だめ、じゃない。僕も、近付きたい。だって、恋人なんだし」
――握りこぶしひとつ分あったはずの距離が、指一本の距離になる。
「じゃあ、……触ってもいい?」
どきどきし過ぎて、耳がきんとする。自分でも頷けているのかわからないまま、壮五は首を動かした。
「手、繋ごうか」
指一本分の距離が、ぴったりとくっつく。
「……昔、静電気がばちんってしたの、思い出した」
道に迷っていたところに声をかけられ、行き先が同じだとわかり、歩き始めようとした拍子に触れたところから発生した静電気。
「懐かしいな。あの頃は、まさかこんなふうになるなんて思いもしなかった」
指先を絡め合う。触れている面積は手を繋ぐよりも狭いのに、互いの熱がわかる。恋人という名前を意識して、敏感になっているのかもしれない。
「指、だけで、結構いっぱいいっぱいなんだけど、……っ」
「もう、黙って」
切羽詰まった環の表情に、たまらなくなって、壮五からしがみついた。
「そぉ、ちゃん」
「……触るの、指先だけじゃ、たりなくなっちゃった」
僕って、よくばりかもしれない。――壮五の言葉に、今更気付いたのかよと答えて、近付いてきた壮五の顔に、自分の唇を寄せた。
恋愛関係になったことをメンバーにも知らせたくないと望んだのは、意外にも、環だった。第三者に知られると、秘かに名前をつけた恋心が、穢されてしまう気がする。拙いながらも、環はそんな言葉をこぼした。まるでラブソングの歌詞か、恋愛小説の一節みたいだと思い、彼の繊細さにどうしようもないくらいときめいて、壮五も、このことは二人だけの秘密にしておこうと、同意したのだ。世間的には〝許されない恋〟に分類されるであろう自分たちの関係に、背徳感みたいなのを感じたのも、壮五のときめきを加速させるスパイスだったのかもしれない。
慎重に慎重を何重にも重ねた恋人関係だから、打ち合わせや反省会をするみたいな雰囲気で相手の部屋に行き、――いつ、メンバーが部屋を訪ねてきても問題ないように――握りこぶしひとつ分の距離を保ったまま、おしゃべりをするだけ。
内緒話みたいな小さな声で、手を繋ぐこともハグもせず、もちろん、デートなんでできないから、言葉のやりとりで、どこかに出かけた時の空想に浸る。
傍から見れば、おまえたちはなんて虚しいことをしているんだと、そんな交際の仕方で恋人と呼べるのかと、笑われるかもしれない。自分たちの関係に〝恋人〟という名前を増やした意味はあるのかと、首を傾げられるだろう。それでも、もうそろそろ自室に戻らなければと、時刻を確認したあとに相手を見つめる瞳には、名残惜しさと呼ぶには熱のこもった色が混ざっているから、自分たちはこれでいい。――そう、思っていた。
「俺ら、付き合って二ヵ月ちょっとじゃん? だから、その、……」
壮五の部屋、毎日の習慣といってもいい、おやすみ前の二人きりの時間。
「うん、二ヵ月と、十日と、二十時間」
「時間まで数えてんの」
「だって、一生忘れられない、大切な瞬間だったから」
胡坐をかいた環と、正座をした壮五。顔を突き合わせて話し合い、既に持っている名前だけでは、この感情のやり場がなくてかわいそうだと、恋人になることを決めた時、壮五には、環と、その後ろにある壁掛け時計が見えていた。
「きみが十八歳になった日の夜……もう日にちは変わってたけど、眠る前に、この部屋に来て……すごく、嬉しい言葉をくれたから」
十八歳になれば、子どもだからという理由で話を逸らされることはないと踏んだ、環なりの作戦だった。しどろもどろになる壮五に、たたみかけるように感情を――環の誕生日を一日がかりで祝い、ぐっすり眠っているメンバーの部屋には聞こえないように――吐露し、壮五からも、同じ言葉を引き出した。
「……誰にも、メンバーにも内緒って言った。俺とそーちゃんとのこと、守りたいし。でも、好き、だから、もうちょっと、近付きたい。……だめ?」
環の表情に、あぁ、これこそが、自分の求めていたものだと気付いた。もっとほしくてたまらないと、焦がれる瞳。
内緒話みたいな小さな声で、手を繋ぐこともハグもせず、言葉のやりとりだけで、デートの空想。それはそれで楽しいけれど――
「だめ、じゃない。僕も、近付きたい。だって、恋人なんだし」
――握りこぶしひとつ分あったはずの距離が、指一本の距離になる。
「じゃあ、……触ってもいい?」
どきどきし過ぎて、耳がきんとする。自分でも頷けているのかわからないまま、壮五は首を動かした。
「手、繋ごうか」
指一本分の距離が、ぴったりとくっつく。
「……昔、静電気がばちんってしたの、思い出した」
道に迷っていたところに声をかけられ、行き先が同じだとわかり、歩き始めようとした拍子に触れたところから発生した静電気。
「懐かしいな。あの頃は、まさかこんなふうになるなんて思いもしなかった」
指先を絡め合う。触れている面積は手を繋ぐよりも狭いのに、互いの熱がわかる。恋人という名前を意識して、敏感になっているのかもしれない。
「指、だけで、結構いっぱいいっぱいなんだけど、……っ」
「もう、黙って」
切羽詰まった環の表情に、たまらなくなって、壮五からしがみついた。
「そぉ、ちゃん」
「……触るの、指先だけじゃ、たりなくなっちゃった」
僕って、よくばりかもしれない。――壮五の言葉に、今更気付いたのかよと答えて、近付いてきた壮五の顔に、自分の唇を寄せた。