酒の肴にもなりゃしない
「そーちゃんのばか!」
「……っ、人をばか呼ばわりするなんて」
世間で超超超仲良しと言われるMEZZO"の喧嘩。見慣れた光景を尻目に、大和は缶ビールの中身を呷った。仕事で心身ともに心地よく疲弊した身体には、この苦さがちょうどいい。そして、甘い甘いMEZZO"の二人を見ている現状にも、この苦さがちょうどいい。
「うるさいぞーおまえらー」
もうしばらく放っておけばいいものを、ほどよく酒に酔った三月が笑いながら茶々を入れる。まぁ、酒の肴にはなりゃしないから、三月の気持ちもわからなくはないか……と、大和はビールをもう一口。うん、身体に沁みていくこの感じがたまらない。
「だってみっきー、そーちゃんが」
……酒飲みを味方につけたところで、たいした成果は得られないというのに。大和は皿にのったチーズに目を留める。細い棒状のそれを、ぶら下げるように持って、行儀悪く下から食した。このチーズはこういう食べ方をするのが最高だから、今だけは見逃してほしい。テレビの前ではアイドルらしく行儀よく振る舞うからさ。
それにしても、と大和は壮五を見遣った。大和と三月が酒を飲んでいるというのに、壮五がそれに加わらないなんて。明日のソウはなんの仕事だったかなとアルコールでふわふわした頭で翌日のスケジュールを思い浮かべた。あぁ、昼から雑誌のインタビューだ。
「珍しいなソウ。おまえさんが飲まないなんて」
早朝からならまだしも、昼以降の仕事なら、躊躇いなく酒の席に加わっているのに。
「う……、加わりたいのはやまやまなんですけど、環くんが……」
いつも。……いつも、酒の席に加わって、酔いが回り始めると周囲に甘え、座椅子を探す壮五。手が付けられなくなる頃には大和も三月も眠気に襲われているから、酒の入っていない若者に壮五を任せている。メンバー内に未成年者は四人いるのだが、壮五から直々に指名があるため、実質、任されるのはいつも決まった一人だ。
「俺のせいかよ。俺は、そーちゃんのためを思って言ってんのに」
環が唇を尖らせ、そっぽを向く。
なるほど、MEZZO"くんたちの本日の喧嘩はこれが原因か。――大和はテーブルの上に置かれた、まだ空っぽのグラスを眺める。飲み干されたわけではなく、本日一度も酒を注がれていない、ものさみしげなガラス製品。グラスの隣ではウイスキーのボトルが今か今かと開封されるのを待っているというのに。
「昔はソウがタマの保護者してたのに、最近じゃ逆だなぁ」
結成からしばらくの間、仕事に行く時には環の手を壮五が引いて、アンケート用紙がある時には早く書くようにと目の前で見張って、なにかと世話を焼いていたのに。時の流れとともに立場が逆転したようだ。
「OH……タマキ、ソウゴのナイトみたいですね」
「環、すっごく成長したよな。やっぱ……うん」
新製品のアイスクリームを片手に、ナギと陸が話に加わる。苺の甘酸っぱさと、チョコレートの甘さが絶妙なハーモニーだとかなんだとか。ビールには合わないからと遠慮したものの、ひんやり冷たいアイスクリームが少し恋しいから、一口だけもらおうかなと彼らの持つアイスクリームに熱烈な視線を送る。しかし、ナギと陸は酔っ払いの表情としか受け取らなかったようだ。
「七瀬さんも成長してくださいね」
「はぁ? おまえのそういうとこむかつくなー」
「あーはいはい、あっちでもこっちでも喧嘩はお兄さん疲れちゃうからおしまいにして」
我関せずを貫こうと思っていたのに、つい、片足を突っ込んでしまった。本当、復讐のためだなんて言ってこの世界に入ったのに、すっかり絆されちゃったなぁと自嘲する。しかも、その復讐心だって、父と和解した今では跡形もなく消え去ってしまった。純粋に、ここにいたいと思う。
「ヤマさんも言ってやって。そーちゃん、すぐ酒飲んで、たーくん枝豆食べたいー、たーくんここに座れーって。すっげえうるせえし、面倒くせえの」
しかも翌朝にはそれらの行動をきれいさっぱり忘れて、壮五は真っ青な顔で、なにかやらかしただろうかと床に額を擦り付ける勢いで謝るのだ。
「環は壮五さんが心配なんだよな。まぁ、……」
はは……と、壮五が酔った時の行動を何度も目にしている陸は頬を掻いた。
「まぁ、四葉さんの立場を考えると、……」
一織が言葉を濁していると、どこから出してきたのか、ナギがまじかる★ここなのステッキを環に差し出す。
「タマキ、今ばかりは、ここなの力を使うことを許します。ここなの力の源は愛。さぁ、ソウゴに見せつけてやるのです。MEZZO"の……これ以上はワタシの口からは言わないでおきましょう」
さきほどから未成年組が言葉を濁している。その理由に心当たりがある大和は、笑ってしまった。それに気付いた環が、むっとする。
「ヤマさんなんで笑ってんの」
「……いや、おまえさんたちは隠してるつもりなんだろうけど、こっちはみんな気付いてるんだ。それをさっきから……リクたちが…………」
陸たちは「二人の仲を知っている」という態度を取ってしまわないよう、すんでのところで留まっているのだ。
「りっくんたちが? なに」
自分だけ知らないなにかがあるのだと察した環の機嫌は急降下。
(あ、これ放置するとだめなやつだ)
まぁ、でも。ご両人も全然隠せていないのだから、言ってしまってもいいだろうか。
「おまえさんたちのが、痴話喧嘩ってこと」
大和の言葉に、壮五の頬がぱっと赤くなった。
「え? なに?」
「た、環くんは黙ってて!」
「は? なんで?」
いいから! と壮五が環の手を引いてリビングを出ていく。あぁ、今夜はそろそろお開きか。もう少し二人をからかって遊んでみたかった気もするけれど、カップルに茶々を入れるのは、ほどほどにしておかなければ。
「ヤマト、二人を逃がしましたね」
「そりゃあなぁ。だって考えてもみろ? あのまま放置してたら、目の前でいちゃつかれてたぞ」
甘い甘い空気を醸し出す二人を思い浮かべて溜息をつく。
仲良きことは美しきかな。MEZZO"の二人がそういう関係であっても、仕事に影響しないのであれば、自分たちは咎めるつもりはない。だからといって、見せつけられるのも胸焼けがしてしまうから勘弁してほしい。
「ま、あれで隠せてるつもりなのが驚きですよ。七瀬さんが気付くくらいですから」
「一織、一言余計」
「だよなぁ……環もだけど、壮五も意外と態度に出てるし」
リビングを出ていった二人はどんな会話をしているのやら。どうか明日も平穏無事でありますように。
「あ、ミツ。お兄さん、アイス食べたい」
「自分で取ってこい!」
「……っ、人をばか呼ばわりするなんて」
世間で超超超仲良しと言われるMEZZO"の喧嘩。見慣れた光景を尻目に、大和は缶ビールの中身を呷った。仕事で心身ともに心地よく疲弊した身体には、この苦さがちょうどいい。そして、甘い甘いMEZZO"の二人を見ている現状にも、この苦さがちょうどいい。
「うるさいぞーおまえらー」
もうしばらく放っておけばいいものを、ほどよく酒に酔った三月が笑いながら茶々を入れる。まぁ、酒の肴にはなりゃしないから、三月の気持ちもわからなくはないか……と、大和はビールをもう一口。うん、身体に沁みていくこの感じがたまらない。
「だってみっきー、そーちゃんが」
……酒飲みを味方につけたところで、たいした成果は得られないというのに。大和は皿にのったチーズに目を留める。細い棒状のそれを、ぶら下げるように持って、行儀悪く下から食した。このチーズはこういう食べ方をするのが最高だから、今だけは見逃してほしい。テレビの前ではアイドルらしく行儀よく振る舞うからさ。
それにしても、と大和は壮五を見遣った。大和と三月が酒を飲んでいるというのに、壮五がそれに加わらないなんて。明日のソウはなんの仕事だったかなとアルコールでふわふわした頭で翌日のスケジュールを思い浮かべた。あぁ、昼から雑誌のインタビューだ。
「珍しいなソウ。おまえさんが飲まないなんて」
早朝からならまだしも、昼以降の仕事なら、躊躇いなく酒の席に加わっているのに。
「う……、加わりたいのはやまやまなんですけど、環くんが……」
いつも。……いつも、酒の席に加わって、酔いが回り始めると周囲に甘え、座椅子を探す壮五。手が付けられなくなる頃には大和も三月も眠気に襲われているから、酒の入っていない若者に壮五を任せている。メンバー内に未成年者は四人いるのだが、壮五から直々に指名があるため、実質、任されるのはいつも決まった一人だ。
「俺のせいかよ。俺は、そーちゃんのためを思って言ってんのに」
環が唇を尖らせ、そっぽを向く。
なるほど、MEZZO"くんたちの本日の喧嘩はこれが原因か。――大和はテーブルの上に置かれた、まだ空っぽのグラスを眺める。飲み干されたわけではなく、本日一度も酒を注がれていない、ものさみしげなガラス製品。グラスの隣ではウイスキーのボトルが今か今かと開封されるのを待っているというのに。
「昔はソウがタマの保護者してたのに、最近じゃ逆だなぁ」
結成からしばらくの間、仕事に行く時には環の手を壮五が引いて、アンケート用紙がある時には早く書くようにと目の前で見張って、なにかと世話を焼いていたのに。時の流れとともに立場が逆転したようだ。
「OH……タマキ、ソウゴのナイトみたいですね」
「環、すっごく成長したよな。やっぱ……うん」
新製品のアイスクリームを片手に、ナギと陸が話に加わる。苺の甘酸っぱさと、チョコレートの甘さが絶妙なハーモニーだとかなんだとか。ビールには合わないからと遠慮したものの、ひんやり冷たいアイスクリームが少し恋しいから、一口だけもらおうかなと彼らの持つアイスクリームに熱烈な視線を送る。しかし、ナギと陸は酔っ払いの表情としか受け取らなかったようだ。
「七瀬さんも成長してくださいね」
「はぁ? おまえのそういうとこむかつくなー」
「あーはいはい、あっちでもこっちでも喧嘩はお兄さん疲れちゃうからおしまいにして」
我関せずを貫こうと思っていたのに、つい、片足を突っ込んでしまった。本当、復讐のためだなんて言ってこの世界に入ったのに、すっかり絆されちゃったなぁと自嘲する。しかも、その復讐心だって、父と和解した今では跡形もなく消え去ってしまった。純粋に、ここにいたいと思う。
「ヤマさんも言ってやって。そーちゃん、すぐ酒飲んで、たーくん枝豆食べたいー、たーくんここに座れーって。すっげえうるせえし、面倒くせえの」
しかも翌朝にはそれらの行動をきれいさっぱり忘れて、壮五は真っ青な顔で、なにかやらかしただろうかと床に額を擦り付ける勢いで謝るのだ。
「環は壮五さんが心配なんだよな。まぁ、……」
はは……と、壮五が酔った時の行動を何度も目にしている陸は頬を掻いた。
「まぁ、四葉さんの立場を考えると、……」
一織が言葉を濁していると、どこから出してきたのか、ナギがまじかる★ここなのステッキを環に差し出す。
「タマキ、今ばかりは、ここなの力を使うことを許します。ここなの力の源は愛。さぁ、ソウゴに見せつけてやるのです。MEZZO"の……これ以上はワタシの口からは言わないでおきましょう」
さきほどから未成年組が言葉を濁している。その理由に心当たりがある大和は、笑ってしまった。それに気付いた環が、むっとする。
「ヤマさんなんで笑ってんの」
「……いや、おまえさんたちは隠してるつもりなんだろうけど、こっちはみんな気付いてるんだ。それをさっきから……リクたちが…………」
陸たちは「二人の仲を知っている」という態度を取ってしまわないよう、すんでのところで留まっているのだ。
「りっくんたちが? なに」
自分だけ知らないなにかがあるのだと察した環の機嫌は急降下。
(あ、これ放置するとだめなやつだ)
まぁ、でも。ご両人も全然隠せていないのだから、言ってしまってもいいだろうか。
「おまえさんたちのが、痴話喧嘩ってこと」
大和の言葉に、壮五の頬がぱっと赤くなった。
「え? なに?」
「た、環くんは黙ってて!」
「は? なんで?」
いいから! と壮五が環の手を引いてリビングを出ていく。あぁ、今夜はそろそろお開きか。もう少し二人をからかって遊んでみたかった気もするけれど、カップルに茶々を入れるのは、ほどほどにしておかなければ。
「ヤマト、二人を逃がしましたね」
「そりゃあなぁ。だって考えてもみろ? あのまま放置してたら、目の前でいちゃつかれてたぞ」
甘い甘い空気を醸し出す二人を思い浮かべて溜息をつく。
仲良きことは美しきかな。MEZZO"の二人がそういう関係であっても、仕事に影響しないのであれば、自分たちは咎めるつもりはない。だからといって、見せつけられるのも胸焼けがしてしまうから勘弁してほしい。
「ま、あれで隠せてるつもりなのが驚きですよ。七瀬さんが気付くくらいですから」
「一織、一言余計」
「だよなぁ……環もだけど、壮五も意外と態度に出てるし」
リビングを出ていった二人はどんな会話をしているのやら。どうか明日も平穏無事でありますように。
「あ、ミツ。お兄さん、アイス食べたい」
「自分で取ってこい!」