脳内結婚式
〝そーちゃんは、どういうのがいい?〟
唐突に投げかけられた質問に、相変わらず主語がないなと、発言の主を仰ぎ見た。
「結婚式。一生に一回しかないしさ、そーちゃんは、どんなのやりたいんかなって」
「結婚式?」
――確かに。確かに、この先ずっと一緒にいようと約束して、先日、忙しい仕事の合間を縫って、引っ越し先を決めたところだ。防音室がついた、二人で暮らす家。恋人と家探しなんて、まるで結婚みたいだなと思っている。
でも、法的に認められる結婚ではないし、自分たちの関係はこの先も世間にはひた隠しにして生きていくと決めたのだ。結婚式なんて、できるはずがない。
「あー、もー、そんな難しい顔すんなって」
MEZZO"の仕事でやってきたホテルの一室。隣のベッドに浅く腰掛ける環の左手薬指には、壮五同様、なにもはめられていない。仕事だから、はめていない。どちらかの家に泊まりに行った夜にだけ、お揃いの指輪を身に着けている。痕が残らないよう、慎重に。
「したくもなるよ。そんな、いきなり、結婚式なんて」
結婚という言葉に、じわじわと頬が熱くなる。環と恋人同士になって、ずっと一緒にいたいという気持ちが芽生えてから、自分には一生、縁のないものだと思っていたから。
「……本当なら、そーちゃんは俺ので、俺はそーちゃんのなんだって、世界中に大きな声で言いてえよ。でも、俺らアイドルじゃん? 結婚するアイドルも普通にいるけど、俺らの場合は、びっくりして、ショック受ける人のが多いだろうなって、わかるし」
「環くん……」
「でも、どんなのやりたいか考えんのは自由じゃん? たとえば」
壮五の手を取り、なにもはめられていない薬指のつけ根をすり……となぞる。あぁ、どうせなら、指輪をはめている夜に、裸で抱き合ったあとで言ってほしいな。そう考えながら、続きが聞きたくて「うん」と相槌を打った。
「景色がきれいな教会で、IDOLiSH7のみんなと、マネージャーと、バンちゃんと、ボス呼ぶとか」
リゾート地の教会を思い浮かべる。バージンロードの向こうには大きな窓があって、よく晴れた空が見えるのがいいかもしれない。だって、空の色は、環のイメージカラーだから。環の色がたくさん見えるところで、誓いのキス。
「うん、いいかも」
「な? そんで、みんなでうまいもん食う」
あんなに喧嘩をしていた二人がついに結婚かと、おいおい泣くメンバーの姿が、容易に想像できた。壮五の想像の中でもっとも派手に泣いているのは大和だ。同じように泣いている三月に「おっさん、泣き過ぎ」とからかわれているところまで想像が進み、ふふと笑ってしまった。
「いおりんとか、りっくん、めっちゃ泣きそう」
「めっちゃ泣いてくれるかな」
「泣く。ナギっちはきれいに泣く。マネージャーは鼻水出るくらい泣く。バンちゃんとボスは泣かないかもだけど」
薬指のつけ根をなぞりながら語られる空想の結婚式。もっと聞いてみたくて、続きを促す。
「パーティーのあとは? お腹いっぱい食べて、すっかり夜になってしまったよ」
夜という単語の時だけ、声色に熱がこもってしまったのは、期待、しているからかもしれない。環はロマンチストだから、きっと、照れながらも新婚初夜だと言ってくれるだろう。
「……エロいこと言うな」
「ははっ、……夜としか言ってないのに?」
「わざとだろ、それ」
手を握ったまま、環がこちらのベッドに寄ってきた。二人分の体重を受け、さきほどよりも、ベッドが少しだけ沈む。
「これくらいで、その気になっちゃうんだ? 五年もしてるのに」
「何年とかねえよ。そっちだって五年経ってもエロエロじゃん」
キスをされるとわかったら、自然と、目を閉じられるようになった。初めての頃はどのタイミングで目を閉じればいいかわからなかったのに。
「……結婚式、いつできるかわからないけど、新婚初夜は待ちたくないなぁ」
「じゃあ、今から新婚初夜する?」
一緒に住むところが決まったとはいえ、引っ越しはまだ終えていない。指輪も置いてきたし、なんなら、今は仕事で宿泊しているビジネスホテルのツインルームだ。新婚初夜のホテルにはいささか不向きではないかと思う。
「する」
それでも、今がいいと思った。
唐突に投げかけられた質問に、相変わらず主語がないなと、発言の主を仰ぎ見た。
「結婚式。一生に一回しかないしさ、そーちゃんは、どんなのやりたいんかなって」
「結婚式?」
――確かに。確かに、この先ずっと一緒にいようと約束して、先日、忙しい仕事の合間を縫って、引っ越し先を決めたところだ。防音室がついた、二人で暮らす家。恋人と家探しなんて、まるで結婚みたいだなと思っている。
でも、法的に認められる結婚ではないし、自分たちの関係はこの先も世間にはひた隠しにして生きていくと決めたのだ。結婚式なんて、できるはずがない。
「あー、もー、そんな難しい顔すんなって」
MEZZO"の仕事でやってきたホテルの一室。隣のベッドに浅く腰掛ける環の左手薬指には、壮五同様、なにもはめられていない。仕事だから、はめていない。どちらかの家に泊まりに行った夜にだけ、お揃いの指輪を身に着けている。痕が残らないよう、慎重に。
「したくもなるよ。そんな、いきなり、結婚式なんて」
結婚という言葉に、じわじわと頬が熱くなる。環と恋人同士になって、ずっと一緒にいたいという気持ちが芽生えてから、自分には一生、縁のないものだと思っていたから。
「……本当なら、そーちゃんは俺ので、俺はそーちゃんのなんだって、世界中に大きな声で言いてえよ。でも、俺らアイドルじゃん? 結婚するアイドルも普通にいるけど、俺らの場合は、びっくりして、ショック受ける人のが多いだろうなって、わかるし」
「環くん……」
「でも、どんなのやりたいか考えんのは自由じゃん? たとえば」
壮五の手を取り、なにもはめられていない薬指のつけ根をすり……となぞる。あぁ、どうせなら、指輪をはめている夜に、裸で抱き合ったあとで言ってほしいな。そう考えながら、続きが聞きたくて「うん」と相槌を打った。
「景色がきれいな教会で、IDOLiSH7のみんなと、マネージャーと、バンちゃんと、ボス呼ぶとか」
リゾート地の教会を思い浮かべる。バージンロードの向こうには大きな窓があって、よく晴れた空が見えるのがいいかもしれない。だって、空の色は、環のイメージカラーだから。環の色がたくさん見えるところで、誓いのキス。
「うん、いいかも」
「な? そんで、みんなでうまいもん食う」
あんなに喧嘩をしていた二人がついに結婚かと、おいおい泣くメンバーの姿が、容易に想像できた。壮五の想像の中でもっとも派手に泣いているのは大和だ。同じように泣いている三月に「おっさん、泣き過ぎ」とからかわれているところまで想像が進み、ふふと笑ってしまった。
「いおりんとか、りっくん、めっちゃ泣きそう」
「めっちゃ泣いてくれるかな」
「泣く。ナギっちはきれいに泣く。マネージャーは鼻水出るくらい泣く。バンちゃんとボスは泣かないかもだけど」
薬指のつけ根をなぞりながら語られる空想の結婚式。もっと聞いてみたくて、続きを促す。
「パーティーのあとは? お腹いっぱい食べて、すっかり夜になってしまったよ」
夜という単語の時だけ、声色に熱がこもってしまったのは、期待、しているからかもしれない。環はロマンチストだから、きっと、照れながらも新婚初夜だと言ってくれるだろう。
「……エロいこと言うな」
「ははっ、……夜としか言ってないのに?」
「わざとだろ、それ」
手を握ったまま、環がこちらのベッドに寄ってきた。二人分の体重を受け、さきほどよりも、ベッドが少しだけ沈む。
「これくらいで、その気になっちゃうんだ? 五年もしてるのに」
「何年とかねえよ。そっちだって五年経ってもエロエロじゃん」
キスをされるとわかったら、自然と、目を閉じられるようになった。初めての頃はどのタイミングで目を閉じればいいかわからなかったのに。
「……結婚式、いつできるかわからないけど、新婚初夜は待ちたくないなぁ」
「じゃあ、今から新婚初夜する?」
一緒に住むところが決まったとはいえ、引っ越しはまだ終えていない。指輪も置いてきたし、なんなら、今は仕事で宿泊しているビジネスホテルのツインルームだ。新婚初夜のホテルにはいささか不向きではないかと思う。
「する」
それでも、今がいいと思った。