もうちょっと待ってて
まだ結婚できないのにと、企画書の内容を思うたびに溜息が出る。少し前までは、自分は絶対に結婚しなくていいと思っていた。あの父親に、自分の顔が似ているから。
しかし、それも『Friends Day』の少し前に変わった。いつの間にか惹かれていた壮五から好きだと告げられ、誰にも内緒で交際を始めてから、環は初めて〝この人とずっと一緒にいたい〟と思うようになったのだ。
この国における法的な同性婚は未だ実現に至っていないけれど、そのあたりのことは追々考えればいいと思うくらい、壮五との将来の約束を渇望していた。十八歳になったら格好よくプロポーズして、二人きりで、オフの日にこっそりと結婚式を挙げたい。アイドルをやっている自分たちがこっそりと結婚式……日本で無理なら、ノースメイアに行って挙げるのはどうか。あれ以来すっかり態度が軟化したナギの兄は、ナギの友人たちが困ったらいつでも手を貸すと言ってくれているらしいし。
――と、いろいろなことを考えてはみるものの、環はまだ十七歳。しかも高校生とアイドルの、二足の草鞋を履いた生活でいっぱいいっぱいで、理想的なプロポーズすらまだまだ遠い。……と、思っていた。
「ベッドの上で溜息なんてひどいな」
腕の中でむっと唇を尖らせた壮五に、小さな声で「ごめん」と謝った。いわゆるピロートークを楽しむ時間に溜息なんて、今夜の行為に不満があるのかと誤解されかねない。
「……どうしたの?」
それでも、こうして話を聞こうとしてくれるのだから、本当に優しい人だと思う。自分にはもったいないくらい。だからって誰かに譲る気なんてさらさらないけれど。
「仕事でタキシードとか、ちょっと恥ずかしいなーって」
「あぁ、……でも、環くんは格好いいから、似合うと思うよ」
壮五の頭の中では、早くも、環が正装しているらしい。いずれは仕事で着るかもしれないとは思っていたものの、こんなにも早くブライダルの仕事がくるとは思ってもみなかった。IDOLiSH7の半数は未成年だし、一織と環は現役高校生だから。
「もうちょっと先ならよかったのにな」
十八歳になって、壮五にプロポーズして、二人きりで結婚式をする時に、初めて袖を通す。いつからか、そんな理想を思い描いていた。アイドルという仕事をしている以上、プライベートで着る前に袖を通す可能性なんていくらでもあるのに、だ。
「どうして?」
「なんでって……なんでも」
あんたと結婚する時がよかったなんて恥ずかしくて言えない。冷房がほどよくきいた部屋で、壮五ごと布団を抱き締めた。
暑いよ! と声を上げる壮五の顔だけを出させてやると、情事で乱れた前髪を指先で梳かれる。暑いと言っておきながら、相変わらず、壮五の手はひんやりとしていた。
「僕は嬉しいな。環くんのタキシード姿を見ながら、心の中で優越感に浸れる」
「ユーエツカン」
「雑誌やインターネットで環くんのタキシード姿を見て、何百人、何千人、何万人の女性が環くんと結婚したいなぁと思っても、僕がいる以上、彼女たちの夢が叶う可能性は一ミリもないからね」
くすくすと笑いながら、壮五が擦り寄ってくる。
「……あんた、きれいな顔してっけど、結構いい性格してるよな」
「褒め言葉として受け取るよ」
それで、と言葉を続ける壮五の表情には、環の考えなんてすべてお見通しだと言わんばかりの色が滲んでいる。
「環くんが十八歳になったらって、期待してもいいのかな」
布団の中で動くいたずらな指が環の左手を捕らえ、その薬指のつけ根を撫でた。まったく、本当にいい性格をしている。こんなの、一生かかったって敵いっこない。
「……内緒」
「内緒なんだ。じゃあ、きみが十八歳になったその瞬間、つまり、零時に僕から突撃しても文句は言わないでね」
ただ待っているだけなんていやだと言う。いざというときの決断力や行動力がメンバー内でずば抜けた壮五らしいなと思った。
「突撃って。物騒なことしそうで怖いんだけど」
「失礼だな。しないよ、物騒なことなんて。せいぜい、五つ星のレストランで、きみを死ぬまで縛るくらいきれいなプラチナを贈って、プロ……あ」
「もぉ~~……なんで言うの」
環より先にプロポーズをしてもいいかなんて壮五らしからぬ失言に、嬉しいやら、悔しいやら。今、自分はどんな表情をしているのだろう。情けなくて、格好悪くなっていないだろうか。
「それにしては嬉しそうだけど」
「だめ。俺からって決めてるから、もうちょっとだけ待ってて」
なんだか半分以上言ってしまったようなものだけれど、おあいこということで。
しかし、それも『Friends Day』の少し前に変わった。いつの間にか惹かれていた壮五から好きだと告げられ、誰にも内緒で交際を始めてから、環は初めて〝この人とずっと一緒にいたい〟と思うようになったのだ。
この国における法的な同性婚は未だ実現に至っていないけれど、そのあたりのことは追々考えればいいと思うくらい、壮五との将来の約束を渇望していた。十八歳になったら格好よくプロポーズして、二人きりで、オフの日にこっそりと結婚式を挙げたい。アイドルをやっている自分たちがこっそりと結婚式……日本で無理なら、ノースメイアに行って挙げるのはどうか。あれ以来すっかり態度が軟化したナギの兄は、ナギの友人たちが困ったらいつでも手を貸すと言ってくれているらしいし。
――と、いろいろなことを考えてはみるものの、環はまだ十七歳。しかも高校生とアイドルの、二足の草鞋を履いた生活でいっぱいいっぱいで、理想的なプロポーズすらまだまだ遠い。……と、思っていた。
「ベッドの上で溜息なんてひどいな」
腕の中でむっと唇を尖らせた壮五に、小さな声で「ごめん」と謝った。いわゆるピロートークを楽しむ時間に溜息なんて、今夜の行為に不満があるのかと誤解されかねない。
「……どうしたの?」
それでも、こうして話を聞こうとしてくれるのだから、本当に優しい人だと思う。自分にはもったいないくらい。だからって誰かに譲る気なんてさらさらないけれど。
「仕事でタキシードとか、ちょっと恥ずかしいなーって」
「あぁ、……でも、環くんは格好いいから、似合うと思うよ」
壮五の頭の中では、早くも、環が正装しているらしい。いずれは仕事で着るかもしれないとは思っていたものの、こんなにも早くブライダルの仕事がくるとは思ってもみなかった。IDOLiSH7の半数は未成年だし、一織と環は現役高校生だから。
「もうちょっと先ならよかったのにな」
十八歳になって、壮五にプロポーズして、二人きりで結婚式をする時に、初めて袖を通す。いつからか、そんな理想を思い描いていた。アイドルという仕事をしている以上、プライベートで着る前に袖を通す可能性なんていくらでもあるのに、だ。
「どうして?」
「なんでって……なんでも」
あんたと結婚する時がよかったなんて恥ずかしくて言えない。冷房がほどよくきいた部屋で、壮五ごと布団を抱き締めた。
暑いよ! と声を上げる壮五の顔だけを出させてやると、情事で乱れた前髪を指先で梳かれる。暑いと言っておきながら、相変わらず、壮五の手はひんやりとしていた。
「僕は嬉しいな。環くんのタキシード姿を見ながら、心の中で優越感に浸れる」
「ユーエツカン」
「雑誌やインターネットで環くんのタキシード姿を見て、何百人、何千人、何万人の女性が環くんと結婚したいなぁと思っても、僕がいる以上、彼女たちの夢が叶う可能性は一ミリもないからね」
くすくすと笑いながら、壮五が擦り寄ってくる。
「……あんた、きれいな顔してっけど、結構いい性格してるよな」
「褒め言葉として受け取るよ」
それで、と言葉を続ける壮五の表情には、環の考えなんてすべてお見通しだと言わんばかりの色が滲んでいる。
「環くんが十八歳になったらって、期待してもいいのかな」
布団の中で動くいたずらな指が環の左手を捕らえ、その薬指のつけ根を撫でた。まったく、本当にいい性格をしている。こんなの、一生かかったって敵いっこない。
「……内緒」
「内緒なんだ。じゃあ、きみが十八歳になったその瞬間、つまり、零時に僕から突撃しても文句は言わないでね」
ただ待っているだけなんていやだと言う。いざというときの決断力や行動力がメンバー内でずば抜けた壮五らしいなと思った。
「突撃って。物騒なことしそうで怖いんだけど」
「失礼だな。しないよ、物騒なことなんて。せいぜい、五つ星のレストランで、きみを死ぬまで縛るくらいきれいなプラチナを贈って、プロ……あ」
「もぉ~~……なんで言うの」
環より先にプロポーズをしてもいいかなんて壮五らしからぬ失言に、嬉しいやら、悔しいやら。今、自分はどんな表情をしているのだろう。情けなくて、格好悪くなっていないだろうか。
「それにしては嬉しそうだけど」
「だめ。俺からって決めてるから、もうちょっとだけ待ってて」
なんだか半分以上言ってしまったようなものだけれど、おあいこということで。