反撃開始
十一月十一日は? と問われると、どうしてもそれを連想してしまうのは、仕方のないことだろう。自分たちが生まれた頃――メンバーによっては生まれる前――から、記念日としての認定を受けているそれは、多くの人にとって、小さな頃から身近な存在だ。コンビニエンスストアやスーパーに行けば、ほぼ必ず手に入る。しかし、話に聞いたことはあったものの、壮五は、そういう遊びとはこれまで無縁であった。
「えぇと、食べものでするゲーム……?」
訝し気に環を見る。環からすれば、日頃、かわいくてきれいだと思っている恋人に見上げられている状態だ。そーちゃんが気にするかもだから声に出さないけど、この絶妙な身長差、最高。心の中でそう感謝した。
「ゲームっつーか……まぁゲームだけど、ちゃんと食べるし」
「でも、食べものを粗末にするのは、……っ?」
口を開いたところで、環は壮五にその菓子を食べさせた。買ってきたものは本数が少なくて短いもの。ココアビスケットに二種類のチョコレートがかかっており、やや太め。チョコレート量はオーソドックスなタイプの三倍。禁断の二度がけを謳っている。
「これ、先月出たばっかの、新しいやつ」
「んん……」
さくさくと噛み砕き、壮五はあっという間に一本を食べ終えた。深みがあって、甘いだけではない。環が一人で食べるなら甘いものを選ぶはずなのに、壮五と食べることを考えて、敢えて、やや大人向けの味を選んでくれたのだろう。
「あー違う違う。一人で食べるんじゃなくて」
今度は環が一本、口にする。そのまま、壮五の両肩に手を置いて。
「え、なに」
まるで、キスをされる時のような距離に、鼓動が高鳴る。
「ん」
チョコレートのかかっていないほうを自分に突き出し、そのまま待っている環を見て、壮五はようやく、このゲームの意図を理解した。どきどきと高鳴る鼓動はそのままに、さく……と控えめな音を立てて噛り付く。そういえば、チョコレートのかかっていないほうから食べるなんて初めてだなぁなんて考えながら。
食べていくうちに、二人の距離も近くなり、まるで、キスをする直前のような錯覚を起こしてしまいそうになる。その錯覚のせいだろう。壮五は、つい、環とキスをする時のように、瞳を閉じてしまった。
「んむっ……」
瞳を開いたまま壮五の表情を見ていた環は、思わずむせ返った。
(あー……、うん……)
口の開き具合が、指を舐めさせようとした瞬間に似ている。今回選んだ種類が指の太さと似ているのもよくない。環の頭の中に、昨夜の情事がよみがえる。
(昨日はそーちゃんに指フェラしてもらって、そんで……そのあと……)
そのあと、その指をどうしたんだったか。答えはひとつしかない。
「~~っ!」
環は菓子に歯を立てて折り、慌てて壮五の身体を引き剥がした。
身体を離された壮五は瞠目する。目の前には、耳まで真っ赤になった環の姿。彼はそのまま、その場にずるずると蹲っていき、ついには、膝を抱えるようにして顔を覆い隠してしまった。これも食べてしまっていいのだろうかと少し迷ってから、壮五はさきほどと同じように、さくさくと音を立てて食べ進める。
「あの……環くん?」
棒状の菓子を両端からくわえて、そのまま食べていくと顔が近付くから、キスをしてしまいそうになる。そういうどきどきを楽しむのだろう。壮五はそう理解したのだが、どきどきを楽しむより早く、環によって中断されてしまった。
「……そーちゃんが、そんな顔すんのが悪い……」
初めてキスをした時みたいに、真っ赤な顔。キスなんて、もう何度もしているのに。セックスだって、昨晩もしたし。それなのに、今更そんな反応をされると、壮五だって困ってしまう。
(環くんだって、キスをする時みたいに真剣な表情だったじゃないか)
壮五にだって、言いたいことはたくさんある。しかし、瞳に薄い涙の膜が張りそうなくらいに顔が熱くて、うまく言葉にできない。
そうだ、と思い立って、環と目線を合わせるため、すぐ隣にしゃがみ込んだ。
「ね、環くん」
名前を呼んで、色素の薄い、さらさらの髪を撫で、掠めるだけのキス。鼻腔をくすぐるのは、自分と同じシャンプーの香り。
がさがさと音を立てて袋から三本めを取り出し、環に差し出した。
「あと十本もあるよ。ここで音を上げてやめるのは、……もったいなくない?」
少し前、ハロウィンの時には、トリックもトリートも関係なく、言葉遊びの都度、キスをされたのだ。ここらで反撃といこうじゃないか。
「えぇと、食べものでするゲーム……?」
訝し気に環を見る。環からすれば、日頃、かわいくてきれいだと思っている恋人に見上げられている状態だ。そーちゃんが気にするかもだから声に出さないけど、この絶妙な身長差、最高。心の中でそう感謝した。
「ゲームっつーか……まぁゲームだけど、ちゃんと食べるし」
「でも、食べものを粗末にするのは、……っ?」
口を開いたところで、環は壮五にその菓子を食べさせた。買ってきたものは本数が少なくて短いもの。ココアビスケットに二種類のチョコレートがかかっており、やや太め。チョコレート量はオーソドックスなタイプの三倍。禁断の二度がけを謳っている。
「これ、先月出たばっかの、新しいやつ」
「んん……」
さくさくと噛み砕き、壮五はあっという間に一本を食べ終えた。深みがあって、甘いだけではない。環が一人で食べるなら甘いものを選ぶはずなのに、壮五と食べることを考えて、敢えて、やや大人向けの味を選んでくれたのだろう。
「あー違う違う。一人で食べるんじゃなくて」
今度は環が一本、口にする。そのまま、壮五の両肩に手を置いて。
「え、なに」
まるで、キスをされる時のような距離に、鼓動が高鳴る。
「ん」
チョコレートのかかっていないほうを自分に突き出し、そのまま待っている環を見て、壮五はようやく、このゲームの意図を理解した。どきどきと高鳴る鼓動はそのままに、さく……と控えめな音を立てて噛り付く。そういえば、チョコレートのかかっていないほうから食べるなんて初めてだなぁなんて考えながら。
食べていくうちに、二人の距離も近くなり、まるで、キスをする直前のような錯覚を起こしてしまいそうになる。その錯覚のせいだろう。壮五は、つい、環とキスをする時のように、瞳を閉じてしまった。
「んむっ……」
瞳を開いたまま壮五の表情を見ていた環は、思わずむせ返った。
(あー……、うん……)
口の開き具合が、指を舐めさせようとした瞬間に似ている。今回選んだ種類が指の太さと似ているのもよくない。環の頭の中に、昨夜の情事がよみがえる。
(昨日はそーちゃんに指フェラしてもらって、そんで……そのあと……)
そのあと、その指をどうしたんだったか。答えはひとつしかない。
「~~っ!」
環は菓子に歯を立てて折り、慌てて壮五の身体を引き剥がした。
身体を離された壮五は瞠目する。目の前には、耳まで真っ赤になった環の姿。彼はそのまま、その場にずるずると蹲っていき、ついには、膝を抱えるようにして顔を覆い隠してしまった。これも食べてしまっていいのだろうかと少し迷ってから、壮五はさきほどと同じように、さくさくと音を立てて食べ進める。
「あの……環くん?」
棒状の菓子を両端からくわえて、そのまま食べていくと顔が近付くから、キスをしてしまいそうになる。そういうどきどきを楽しむのだろう。壮五はそう理解したのだが、どきどきを楽しむより早く、環によって中断されてしまった。
「……そーちゃんが、そんな顔すんのが悪い……」
初めてキスをした時みたいに、真っ赤な顔。キスなんて、もう何度もしているのに。セックスだって、昨晩もしたし。それなのに、今更そんな反応をされると、壮五だって困ってしまう。
(環くんだって、キスをする時みたいに真剣な表情だったじゃないか)
壮五にだって、言いたいことはたくさんある。しかし、瞳に薄い涙の膜が張りそうなくらいに顔が熱くて、うまく言葉にできない。
そうだ、と思い立って、環と目線を合わせるため、すぐ隣にしゃがみ込んだ。
「ね、環くん」
名前を呼んで、色素の薄い、さらさらの髪を撫で、掠めるだけのキス。鼻腔をくすぐるのは、自分と同じシャンプーの香り。
がさがさと音を立てて袋から三本めを取り出し、環に差し出した。
「あと十本もあるよ。ここで音を上げてやめるのは、……もったいなくない?」
少し前、ハロウィンの時には、トリックもトリートも関係なく、言葉遊びの都度、キスをされたのだ。ここらで反撃といこうじゃないか。