写真
「撮れた?」
「ばっちし」
跨っていた鯱から降りた壮五が駆け寄ってくる。その後ろでは大和が「いくらくらいすんのかなぁ」と言いながら金の鯱を撫でていた。
撮った写真を見ようと覗き込んできた壮五に、スマートフォンの画面を見せる。
今回の仕事は、ツアー企画の広告タレントに起用されたことによるもの。
〝オフを使って名古屋に来たIDOLiSH7〟という設定で、新幹線の移動中や観光スポットを巡る七人の様子を写真と動画に収めている。自分たちで撮った写真も何枚かはCMで使用される予定と聞いているから、観光名所で撮る写真にも気合いが入ってしまう。
環の手許を覗き込んで満足したのか、壮五はふにゃりとまなじりを下げた。その表情に思わず「かわいい」と言いかけて、環は慌てて口を噤む。
「うん、よく撮れてる。これもCMで使っていただけるといいな。……そうだ、環くんも撮ってあげようか?」
「え……」
今回の撮影では天守閣内のフォトスポットに入らせてもらうことができた。実際にこのツアー企画が販売開始となる頃には、木造復元事業により、天守閣は立ち入り禁止となってしまう。具体的な再開時期は発表されていないから、この機会に撮っておいたほうがいいなと壮五は考えたのだ。
しかし、いつもならすぐにでも「撮って!」とポーズを取る環が、今ばかりは乗り気ではないようで。
「あれ、あの、魚? なんか顔いかついし……別に……」
「あぁ、あれは鯱っていって、魚みたいに見えるけど、頭は虎なんだ。背中には棘があって、尾びれは上を向いてる、……つまり、空想上の動物なんだよ。でも、本当に鯱みたいな生きものがいたらおもしろいよね。……って、さすがに少し子どもっぽいかな」
そう言って、壮五は照れくさそうに笑った。
――カシャッ
「えっ」
撮られるなんて思いもしなかったシャッター音。壮五が反射的に顔を上げると、スマートフォンを構えた環がにやにやと笑っているではないか。
「なんか、撮りたくなった」
「ちょ、ちょっと待って環くん。今、絶対に気の抜けた顔してたと思う。消して!」
環からスマートフォンを取り上げようと、壮五がしがみついてくる。
「やだ」
こんな時、身長差が役に立つ。環が腕を上げ、もう片方の手で壮五が背伸びしないよう肩を押さえれば、完全防御の完成だ。
「CMには絶対使えないし、SNSに上げられても困るよ。ね、お願いだから」
おろおろとする様子がかわいらしい。壮五にはいつだって優しくしてやりたいのに、こんな表情をされると、ほんの少しだけ、いじわるをしたくなってしまう。自分はこんなに捻くれていただろうか。
「どうしよっかなー」
「環くん!」
(ま、上げないけど)
子どもみたいにはしゃいで、夢みたいなことを言って自分で照れている。こんな姿、そうそう拝めやしない。壮五といつも一緒にいる環ですら、見たことがなかった。こんなかわいいところ、SNSで全世界にお披露目なんて、絶対にしてやらない。
「MEZZO"くんは今日も相変わらずだなー」
ひとしきり鯱を撫でて気が済んだのか、大和がにやにやと笑いながら二人のところへ歩み寄ってきた。
「大和さん」
「それで? タマはどんな写真撮ったんだ?」
壮五より二センチメートル身長が高いとはいえ、それでも、環との身長差は六センチメートル。しかし、二センチメートル狭まったことと、環が油断していたこともあって、環の防御は呆気なく突破――されてしまう前に、環は慌ててスマートフォンのディスプレイをオフにした。ぎりぎりセーフ、あと一秒遅かったら、このとっておきの写真を大和に見られていたところだ。自分の反射神経のよさに、我ながら感心してしまう。
「ヤマさんでもだめ。このそーちゃんは俺の」
「じゃあ、どのソウならタマのじゃないんだ?」
「~~っ、どれもこれも! ぜーんぶ俺のだし!」
天守閣に大和の笑い声が響く。十七歳の若い独占欲を一身に受けて、壮五は恥ずかしさから顔を覆ってしまった。
「はは、誰も取らねぇよ。ただ、ファンの前ではそれ出すなよ。ソウも、ここでじゃれ合うのはほどほどにな。全部OFFにできるのは、夜になってからだ」
そんなにじゃれ合っていたのかとこっそり顔を見合わせる。どうやら、自分たちは思っていた以上に浮かれているらしい。
「ばっちし」
跨っていた鯱から降りた壮五が駆け寄ってくる。その後ろでは大和が「いくらくらいすんのかなぁ」と言いながら金の鯱を撫でていた。
撮った写真を見ようと覗き込んできた壮五に、スマートフォンの画面を見せる。
今回の仕事は、ツアー企画の広告タレントに起用されたことによるもの。
〝オフを使って名古屋に来たIDOLiSH7〟という設定で、新幹線の移動中や観光スポットを巡る七人の様子を写真と動画に収めている。自分たちで撮った写真も何枚かはCMで使用される予定と聞いているから、観光名所で撮る写真にも気合いが入ってしまう。
環の手許を覗き込んで満足したのか、壮五はふにゃりとまなじりを下げた。その表情に思わず「かわいい」と言いかけて、環は慌てて口を噤む。
「うん、よく撮れてる。これもCMで使っていただけるといいな。……そうだ、環くんも撮ってあげようか?」
「え……」
今回の撮影では天守閣内のフォトスポットに入らせてもらうことができた。実際にこのツアー企画が販売開始となる頃には、木造復元事業により、天守閣は立ち入り禁止となってしまう。具体的な再開時期は発表されていないから、この機会に撮っておいたほうがいいなと壮五は考えたのだ。
しかし、いつもならすぐにでも「撮って!」とポーズを取る環が、今ばかりは乗り気ではないようで。
「あれ、あの、魚? なんか顔いかついし……別に……」
「あぁ、あれは鯱っていって、魚みたいに見えるけど、頭は虎なんだ。背中には棘があって、尾びれは上を向いてる、……つまり、空想上の動物なんだよ。でも、本当に鯱みたいな生きものがいたらおもしろいよね。……って、さすがに少し子どもっぽいかな」
そう言って、壮五は照れくさそうに笑った。
――カシャッ
「えっ」
撮られるなんて思いもしなかったシャッター音。壮五が反射的に顔を上げると、スマートフォンを構えた環がにやにやと笑っているではないか。
「なんか、撮りたくなった」
「ちょ、ちょっと待って環くん。今、絶対に気の抜けた顔してたと思う。消して!」
環からスマートフォンを取り上げようと、壮五がしがみついてくる。
「やだ」
こんな時、身長差が役に立つ。環が腕を上げ、もう片方の手で壮五が背伸びしないよう肩を押さえれば、完全防御の完成だ。
「CMには絶対使えないし、SNSに上げられても困るよ。ね、お願いだから」
おろおろとする様子がかわいらしい。壮五にはいつだって優しくしてやりたいのに、こんな表情をされると、ほんの少しだけ、いじわるをしたくなってしまう。自分はこんなに捻くれていただろうか。
「どうしよっかなー」
「環くん!」
(ま、上げないけど)
子どもみたいにはしゃいで、夢みたいなことを言って自分で照れている。こんな姿、そうそう拝めやしない。壮五といつも一緒にいる環ですら、見たことがなかった。こんなかわいいところ、SNSで全世界にお披露目なんて、絶対にしてやらない。
「MEZZO"くんは今日も相変わらずだなー」
ひとしきり鯱を撫でて気が済んだのか、大和がにやにやと笑いながら二人のところへ歩み寄ってきた。
「大和さん」
「それで? タマはどんな写真撮ったんだ?」
壮五より二センチメートル身長が高いとはいえ、それでも、環との身長差は六センチメートル。しかし、二センチメートル狭まったことと、環が油断していたこともあって、環の防御は呆気なく突破――されてしまう前に、環は慌ててスマートフォンのディスプレイをオフにした。ぎりぎりセーフ、あと一秒遅かったら、このとっておきの写真を大和に見られていたところだ。自分の反射神経のよさに、我ながら感心してしまう。
「ヤマさんでもだめ。このそーちゃんは俺の」
「じゃあ、どのソウならタマのじゃないんだ?」
「~~っ、どれもこれも! ぜーんぶ俺のだし!」
天守閣に大和の笑い声が響く。十七歳の若い独占欲を一身に受けて、壮五は恥ずかしさから顔を覆ってしまった。
「はは、誰も取らねぇよ。ただ、ファンの前ではそれ出すなよ。ソウも、ここでじゃれ合うのはほどほどにな。全部OFFにできるのは、夜になってからだ」
そんなにじゃれ合っていたのかとこっそり顔を見合わせる。どうやら、自分たちは思っていた以上に浮かれているらしい。