もふメロドリーム
*2025/4/1公開エイプリルフール特別ストーリー『20羽のラビホスもふもふハーレム』読了前提
リビングのソファーでうたた寝をしてたらとんでもない夢を見た、その日の夜。
「おかしな夢を見たんだって?」
新しいおもちゃを手にしたような笑みを浮かべた可不可が、部屋を訪ねてきた。口止めこそしてなかったものの、礼光さんが可不可にそんな話をするなんて意外だなと思う。
「疲れが溜まってるんじゃない? 礼光も、それで僕に報告してきたんだよ」
なるほど。でも、そんなに疲れてる自覚はないんだよね。
「最近いきなりあたたかくなって、窓からの光も春の色だなぁなんて考えてたら、こう、うとうとと……」
春眠暁を覚えず。うららかな陽気はほどよい眠気を誘う。疲れというより、春に魅了されただけだよ。かいつまんで話すと、可不可は「ならいいけど」と笑った。
「それで、どんな夢を見たの?」
あ、そこまでは聞いてないんだ。そっか、そうだよね、礼光さんはそういうのを吹聴するひとじゃないし。
うーん、普通に恥ずかしいから、できれば黙っておきたいんだけどな。――可不可の顔色を窺う。だめだ、無理なやつだ、これ。俺が言うまで引いてくれなさそう。ずっとにこにこしてる。
「う、卯勢佐木町のラビホスになったみんながこぞっておもてなししてくれる夢を…………」
「……なに?」
うん、可不可の反応はもっともです。俺も、同じこと言われたら「なに?」って聞き返す。
「ええと、夢だから」
「それはわかってるよ。まず、ラビホスってなに?」
夢だからねともう一度念押しして、自分の夢を思い起こす。卯勢佐木町っていう、たぶんHAMAの歓楽街らしき架空の場所に、ウサギがホストをするお店がたくさんあって……。
「その町ではホスクラの勢いがすごくて、なにか裏があるかもしれないとまで噂されてるんだ」
「うんうん」
可不可が「続けて」と促す。こうなったら、勢いに任せて一気に話しきってしまったほうが、話も早く終わる気がしてきた。
俺は町の〝おもてなし風紀理事会〟会長として、お店が健全な経営をしてるか、ちゃんとチェックしないといけない。闇があるならそれを暴いて晴らす責務がある。だから、同じ理事会のメンバーである也千代くんを伴って、査問のため、町の三大ホストクラブのオーナーと幹部に会うことにした。もちろん、夢のなかで。そこで出会ったのが――
「僕たちってこと?」
「そうです……」
「ホストの?」
「違うよ! いや、違わない、けど、みんなウサギになってて……」
――〝ラビホス〟と呼ばれるウサギのホストたち。現実世界でいうHAMAの観光区長が全員、ウサギだった。そして、ホストだった。あぁ、開き直ってみても、自分が見た夢を説明させられるのって、すっごく恥ずかしい。この査問、今すぐ終わらないかなぁ?
「なんていうか……カオスだね」
「そんなの、俺が一番そう思ったよ……」
だから夢の内容を話すのって抵抗あるんだ。でも、可不可の圧が強くて強くて、言わずに逃げられない気しかしなかったから、恥ずかしい気持ちを叩き潰して説明したんだよ。冷静に「カオスだね」なんて言われたら、余計に恥ずかしい。
「それで、ウサギでホストな僕はどうだったの?」
急展開の連続で、みんなが次々に出てきたものだから、ひとり、いや、一羽あたりの会話はあっという間だった。可不可は最初に出てきたラビホスだったっけ。
「確か……百年に一羽の逸材、みたいな、すごい存在で……もふメロでかわいくて」
「もふメロ」
「もふもふで、メロくて……」
この言い直し、照れくさい。夢に出てきたウサギの姿に対してとはいえ、幼馴染み相手にメロいとか言う日がくるなんて思ってもみなかった。別に、普段の可不可をメロいって思ってるわけじゃない。……いや、客観的に見れば、可不可ってメロいのかな? メロいのかも。なに言ってるのって引かれそうだからこのへんのことは黙っておこう。
「もふもふした?」
「それが、現実と同じように雪にぃと張り合っちゃって、そのあいだに交代の時間がきたから、手触りまでは……」
「……夢に出るのは僕だけでいいのに」
またなにかぶつくさ言ってる。可不可って昔から俺に過保護でちょっとべったりなところがあるんだよね。まるで、自分が一番で特別がいい! みたいな感じ。そんなに拗ねなくても、可不可は特別なのに。
「それにしても、ホストかぁ」
「だから、夢だって」
そろそろ勘弁してほしい。いたたまれなさの終わりが見えない。夢のなかのみんながウサギだったのは現実世界で礼光さんのウサギが俺に乗ってた影響だと思うけど、ホスクラって設定は謎過ぎる。別に、ちやほやされたい願望とかないはずなんだけどな。ここの部分を可不可につつかれないうちに、話を終わらせたい。
「楓ちゃんがお望みなら、ホストみたいに振る舞ってあげてもいいけど……そうすると、僕はキミの卓にしかつかないし、キミにも僕以外は指名させないよ。本営じゃない、本気だからね」
「えーっと……俺、ボトル入れまくるとかできないから、そのスタンスだとウン千億プレイヤーを目指すのは無理じゃないかな」
一瞬の間を置いて、可不可が声を上げて笑った。しまった、ネタにマジレスって、今の俺の発言のことだ。
「いや、可不可にはなにがあってもホストになってほしくないから無理でいいんだけどね!?」
「あははは! 本当、おもしろい夢を見たんだね。うん、ならないよ。……僕には、あとにも先にも、楓ちゃんだけだから」
可不可はそのあともひとしきり笑ってから、ひと息ついて、俺の肩にもたれかかった。
「はぁ、毎日なにかしら笑ってはいるけど、ここまで笑ったのは久々かも。……夢のなかではもふメロ? な僕を撫でられなかったんだよね。ウサギのような毛並みじゃないけど、僕のことはいつでも、撫でていいからね」
「撫でないよ」
「遠慮しなくていいのに。ほら」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくる。……ちょっとだけなら、触れてみたいかも。
リビングのソファーでうたた寝をしてたらとんでもない夢を見た、その日の夜。
「おかしな夢を見たんだって?」
新しいおもちゃを手にしたような笑みを浮かべた可不可が、部屋を訪ねてきた。口止めこそしてなかったものの、礼光さんが可不可にそんな話をするなんて意外だなと思う。
「疲れが溜まってるんじゃない? 礼光も、それで僕に報告してきたんだよ」
なるほど。でも、そんなに疲れてる自覚はないんだよね。
「最近いきなりあたたかくなって、窓からの光も春の色だなぁなんて考えてたら、こう、うとうとと……」
春眠暁を覚えず。うららかな陽気はほどよい眠気を誘う。疲れというより、春に魅了されただけだよ。かいつまんで話すと、可不可は「ならいいけど」と笑った。
「それで、どんな夢を見たの?」
あ、そこまでは聞いてないんだ。そっか、そうだよね、礼光さんはそういうのを吹聴するひとじゃないし。
うーん、普通に恥ずかしいから、できれば黙っておきたいんだけどな。――可不可の顔色を窺う。だめだ、無理なやつだ、これ。俺が言うまで引いてくれなさそう。ずっとにこにこしてる。
「う、卯勢佐木町のラビホスになったみんながこぞっておもてなししてくれる夢を…………」
「……なに?」
うん、可不可の反応はもっともです。俺も、同じこと言われたら「なに?」って聞き返す。
「ええと、夢だから」
「それはわかってるよ。まず、ラビホスってなに?」
夢だからねともう一度念押しして、自分の夢を思い起こす。卯勢佐木町っていう、たぶんHAMAの歓楽街らしき架空の場所に、ウサギがホストをするお店がたくさんあって……。
「その町ではホスクラの勢いがすごくて、なにか裏があるかもしれないとまで噂されてるんだ」
「うんうん」
可不可が「続けて」と促す。こうなったら、勢いに任せて一気に話しきってしまったほうが、話も早く終わる気がしてきた。
俺は町の〝おもてなし風紀理事会〟会長として、お店が健全な経営をしてるか、ちゃんとチェックしないといけない。闇があるならそれを暴いて晴らす責務がある。だから、同じ理事会のメンバーである也千代くんを伴って、査問のため、町の三大ホストクラブのオーナーと幹部に会うことにした。もちろん、夢のなかで。そこで出会ったのが――
「僕たちってこと?」
「そうです……」
「ホストの?」
「違うよ! いや、違わない、けど、みんなウサギになってて……」
――〝ラビホス〟と呼ばれるウサギのホストたち。現実世界でいうHAMAの観光区長が全員、ウサギだった。そして、ホストだった。あぁ、開き直ってみても、自分が見た夢を説明させられるのって、すっごく恥ずかしい。この査問、今すぐ終わらないかなぁ?
「なんていうか……カオスだね」
「そんなの、俺が一番そう思ったよ……」
だから夢の内容を話すのって抵抗あるんだ。でも、可不可の圧が強くて強くて、言わずに逃げられない気しかしなかったから、恥ずかしい気持ちを叩き潰して説明したんだよ。冷静に「カオスだね」なんて言われたら、余計に恥ずかしい。
「それで、ウサギでホストな僕はどうだったの?」
急展開の連続で、みんなが次々に出てきたものだから、ひとり、いや、一羽あたりの会話はあっという間だった。可不可は最初に出てきたラビホスだったっけ。
「確か……百年に一羽の逸材、みたいな、すごい存在で……もふメロでかわいくて」
「もふメロ」
「もふもふで、メロくて……」
この言い直し、照れくさい。夢に出てきたウサギの姿に対してとはいえ、幼馴染み相手にメロいとか言う日がくるなんて思ってもみなかった。別に、普段の可不可をメロいって思ってるわけじゃない。……いや、客観的に見れば、可不可ってメロいのかな? メロいのかも。なに言ってるのって引かれそうだからこのへんのことは黙っておこう。
「もふもふした?」
「それが、現実と同じように雪にぃと張り合っちゃって、そのあいだに交代の時間がきたから、手触りまでは……」
「……夢に出るのは僕だけでいいのに」
またなにかぶつくさ言ってる。可不可って昔から俺に過保護でちょっとべったりなところがあるんだよね。まるで、自分が一番で特別がいい! みたいな感じ。そんなに拗ねなくても、可不可は特別なのに。
「それにしても、ホストかぁ」
「だから、夢だって」
そろそろ勘弁してほしい。いたたまれなさの終わりが見えない。夢のなかのみんながウサギだったのは現実世界で礼光さんのウサギが俺に乗ってた影響だと思うけど、ホスクラって設定は謎過ぎる。別に、ちやほやされたい願望とかないはずなんだけどな。ここの部分を可不可につつかれないうちに、話を終わらせたい。
「楓ちゃんがお望みなら、ホストみたいに振る舞ってあげてもいいけど……そうすると、僕はキミの卓にしかつかないし、キミにも僕以外は指名させないよ。本営じゃない、本気だからね」
「えーっと……俺、ボトル入れまくるとかできないから、そのスタンスだとウン千億プレイヤーを目指すのは無理じゃないかな」
一瞬の間を置いて、可不可が声を上げて笑った。しまった、ネタにマジレスって、今の俺の発言のことだ。
「いや、可不可にはなにがあってもホストになってほしくないから無理でいいんだけどね!?」
「あははは! 本当、おもしろい夢を見たんだね。うん、ならないよ。……僕には、あとにも先にも、楓ちゃんだけだから」
可不可はそのあともひとしきり笑ってから、ひと息ついて、俺の肩にもたれかかった。
「はぁ、毎日なにかしら笑ってはいるけど、ここまで笑ったのは久々かも。……夢のなかではもふメロ? な僕を撫でられなかったんだよね。ウサギのような毛並みじゃないけど、僕のことはいつでも、撫でていいからね」
「撫でないよ」
「遠慮しなくていいのに。ほら」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくる。……ちょっとだけなら、触れてみたいかも。