花も熱も
*たびはじマンスリー企画8月から『花火』を選択
毎年開催される花火フェスティバルに、HAMAツアーズも企業として協賛することになった。
HAMAのなかでも一番といっていいくらい派手な花火フェスティバルで、有料観覧席の大半が3区、残りは4区にある。練牙くんや礼光さんの意見を取り入れつつ、HAMAツアーズでは当日限定のパッケージツアーを企画した。前の会社でも旅行シーズンの前は忙しかったけど、それを上回る忙しさで、昨日なんて、なにやってたか記憶がない。無我夢中だった。
でも、ツアー当日を迎えて、楽しんでくれてるひとたちの顔を見たら、これが俺のやりたかったこと、可不可と俺の見たい景色なんだって嬉しくなって、大変だったことも、たいしたことないみたいに思えたんだ。可不可曰く、手応えがかなりあったから、今後も地域密着型の催事に関わっていきたいって。ますます忙しくなりそうだねなんて笑ったのが、ほんの一時間前。
先生、オレ、花火見た覚えがねェ! ――そう叫んだあく太くんの要望で、家庭用花火を買ってきて、HAMAハウスのテラスの端っこで花火大会をすることになった。今日一日、HAMAツアーズ総出で朝からずっと走り回ってて、俺も、足裏まで響く音に「始まったんだ」とは思ったけど、空を見る余裕はなかったな。
一応、みんなに呼びかけはしたものの、礼光さんと潜さんは早々に部屋に引きこもっちゃったし、その他にも、姿が見えないひとが何人かいる。自由参加の慰労会だ。
「可不可、ここにいたんだ」
キッチンとテラスを繋ぐ階段の端に可不可が座ってるのを見つけて、思わず駆け寄る。積極的に参加しそうなのに、珍しいな。
「お疲れさま、主任ちゃん」
「うん、可不可も。……でも、全然疲れてないんだよ」
あんなに走り回ったのに、まだまだ走れちゃいそう。かといって本当に走ったら、さすがに脚が棒になると思うけど。
「そうだ、花火もらってくる。まだ残ってるかな……」
俺の知る限り、可不可は手持ち花火をやったことがないはず。
「だめ、主任ちゃんはここに座ってて。花火で遊ぶのも楽しそうだし興味もあるけど、今日はここから眺めてたい気分」
そう言うなら……と、上げかけた腰を下ろす。顔に出してないだけで、可不可は疲れてるのかも。
「あの花火、今までは、病室の窓から見てた」
知ってる。何年か前だけど、わざと花火フェスティバルの日に可不可に会いに行って、窓から一緒に見たよね。可不可の手術がうまくいったら、もっと近くで一緒に見たいなって、思ってた。……結局、一日中ばたばたして音と振動しか味わえなかったし、そもそも可不可とは別行動で、一緒じゃなかったけど。
「来年こそは、可不可と見れたらいいな」
「……僕と?」
可不可が目を瞬かせる。少し離れたところから、そろそろお開きにしましょうという生行くんの声が聞こえた。やっぱり、さっきの時点で花火はほとんど残ってなかったみたいだ。
「そういえばこれ、言ってなかったっけ。じゃあ、約束。来年、HAMAで一番派手な花火、一緒に見よう」
「うん、ありがとう」
可不可と見たかった景色、来年の夏には、もっとたくさん見れてるかな。見れてますように。
「俺、ちょっと向こう見てくる」
みんなに片付けを丸投げなんて申し訳ないから、手伝わなきゃ。――立ち上がろうとしたところで、可不可に腕を掴まれる。
「楓ちゃんとの花火デートのために、来年は当日の人員配置をしっかり考えるからね」
呼び方に「え」と出そうになった声が、可不可の口のなかに溶けた。
「……ここ、外だよ」
掴まれた腕も、顔も、熱い。太陽はとっくに姿を消したのに、触れられたところが汗ばんできて、やっぱり夏なんだって思い知らされる。
「大丈夫、誰もこっちを見てないから。それに、もう、楓ちゃんって呼んでいい時間だし」
「そういう問題じゃないと思う」
「そういう問題だよ。楓ちゃんを独占する時間がちょっとくらいほしくて、ここにいたんだから」
相変わらず策士だ。そんな嬉しいことを言われたら、俺も怒るに怒れない。
でも、俺だってやられっぱなしではいたくないから、キスの仕返しの代わりに、可不可の耳許で、今夜の〝おねだり〟をした。
毎年開催される花火フェスティバルに、HAMAツアーズも企業として協賛することになった。
HAMAのなかでも一番といっていいくらい派手な花火フェスティバルで、有料観覧席の大半が3区、残りは4区にある。練牙くんや礼光さんの意見を取り入れつつ、HAMAツアーズでは当日限定のパッケージツアーを企画した。前の会社でも旅行シーズンの前は忙しかったけど、それを上回る忙しさで、昨日なんて、なにやってたか記憶がない。無我夢中だった。
でも、ツアー当日を迎えて、楽しんでくれてるひとたちの顔を見たら、これが俺のやりたかったこと、可不可と俺の見たい景色なんだって嬉しくなって、大変だったことも、たいしたことないみたいに思えたんだ。可不可曰く、手応えがかなりあったから、今後も地域密着型の催事に関わっていきたいって。ますます忙しくなりそうだねなんて笑ったのが、ほんの一時間前。
先生、オレ、花火見た覚えがねェ! ――そう叫んだあく太くんの要望で、家庭用花火を買ってきて、HAMAハウスのテラスの端っこで花火大会をすることになった。今日一日、HAMAツアーズ総出で朝からずっと走り回ってて、俺も、足裏まで響く音に「始まったんだ」とは思ったけど、空を見る余裕はなかったな。
一応、みんなに呼びかけはしたものの、礼光さんと潜さんは早々に部屋に引きこもっちゃったし、その他にも、姿が見えないひとが何人かいる。自由参加の慰労会だ。
「可不可、ここにいたんだ」
キッチンとテラスを繋ぐ階段の端に可不可が座ってるのを見つけて、思わず駆け寄る。積極的に参加しそうなのに、珍しいな。
「お疲れさま、主任ちゃん」
「うん、可不可も。……でも、全然疲れてないんだよ」
あんなに走り回ったのに、まだまだ走れちゃいそう。かといって本当に走ったら、さすがに脚が棒になると思うけど。
「そうだ、花火もらってくる。まだ残ってるかな……」
俺の知る限り、可不可は手持ち花火をやったことがないはず。
「だめ、主任ちゃんはここに座ってて。花火で遊ぶのも楽しそうだし興味もあるけど、今日はここから眺めてたい気分」
そう言うなら……と、上げかけた腰を下ろす。顔に出してないだけで、可不可は疲れてるのかも。
「あの花火、今までは、病室の窓から見てた」
知ってる。何年か前だけど、わざと花火フェスティバルの日に可不可に会いに行って、窓から一緒に見たよね。可不可の手術がうまくいったら、もっと近くで一緒に見たいなって、思ってた。……結局、一日中ばたばたして音と振動しか味わえなかったし、そもそも可不可とは別行動で、一緒じゃなかったけど。
「来年こそは、可不可と見れたらいいな」
「……僕と?」
可不可が目を瞬かせる。少し離れたところから、そろそろお開きにしましょうという生行くんの声が聞こえた。やっぱり、さっきの時点で花火はほとんど残ってなかったみたいだ。
「そういえばこれ、言ってなかったっけ。じゃあ、約束。来年、HAMAで一番派手な花火、一緒に見よう」
「うん、ありがとう」
可不可と見たかった景色、来年の夏には、もっとたくさん見れてるかな。見れてますように。
「俺、ちょっと向こう見てくる」
みんなに片付けを丸投げなんて申し訳ないから、手伝わなきゃ。――立ち上がろうとしたところで、可不可に腕を掴まれる。
「楓ちゃんとの花火デートのために、来年は当日の人員配置をしっかり考えるからね」
呼び方に「え」と出そうになった声が、可不可の口のなかに溶けた。
「……ここ、外だよ」
掴まれた腕も、顔も、熱い。太陽はとっくに姿を消したのに、触れられたところが汗ばんできて、やっぱり夏なんだって思い知らされる。
「大丈夫、誰もこっちを見てないから。それに、もう、楓ちゃんって呼んでいい時間だし」
「そういう問題じゃないと思う」
「そういう問題だよ。楓ちゃんを独占する時間がちょっとくらいほしくて、ここにいたんだから」
相変わらず策士だ。そんな嬉しいことを言われたら、俺も怒るに怒れない。
でも、俺だってやられっぱなしではいたくないから、キスの仕返しの代わりに、可不可の耳許で、今夜の〝おねだり〟をした。