月も星も
*たびはじマンスリー企画7月から『戻り梅雨』を選択
梅雨の期間は、昔と比べて短くなっているらしい。確かに、今年の梅雨も、実際に雨が降ったのは十日にも満たなかったと聞く。
じめじめして鬱陶しいと不評な梅雨だけど、いろんなものを隠してくれる雨音が、僕は好きだ。この時期には、幻想的な色をした花も咲くしね。
滝のような音に意識が浮上し、目を閉じたまま、腕をもぞもぞと動かす。……まだ起きるには早い時間だと思うんだけど。
すぐに開いてくれない瞼を軽く擦りながら、ベッドの周囲を見渡した。先に目を覚ましたからって無遠慮に灯りをつけないところも好きだな。でも、どんな時間だろうと、先に目を覚ますのは僕がいいな。寝顔は少しでも多く見たいし、なにより、格好がつかないじゃない。
窓の外を見つめる楓ちゃんは、僕が目を覚ましたことには、まだ、気付いてないみたい。驚かせるつもりはないから、普通に近付いて、細い隙間がつくられたカーテンに手を伸ばした。途中、ベッドサイドに視線を遣って、時刻を確認する。日の出にはまだ少し遠い時間だ。
「あ、ごめん、起こしちゃったよね」
「ううん、雨の音がしたから」
夜を支配するほどの強い雨の前では、月も星も無力だ。そういえば、週間天気予報では向こう五日間ほど雨が続くっていってたから、数時間後に朝を連れてくる予定の太陽だって、勝てないかもしれない。
窓を叩く雨から好きな子を隠すみたいに、カーテンを寸分の隙間なく閉じた。ごめんね、雨は好きだし、堂々とお付き合いしたい性分だけど、僕の宝物はキミにだって見せたくないんだ。特に今夜は、ふたりで大切な時間を過ごしたあとだから、いつも以上にきれいで色っぽい顔だし。
「楓ちゃんこそ、眠れなかった?」
「たまたま目が覚め、……んっ」
寝間着の裾から手を滑り込ませると、ほどよく引き締まった腹筋がひくんと反応した。僕も鍛えるようになったとはいえ、楓ちゃんにすらまだ勝ててない。もっと頑張らなくちゃ。当面の目標は、楓ちゃんを抱っこできるようになること。
楓ちゃんが腰を抜かしちゃう前に、手を引いてベッドに戻らせる。あぁ、もう、ここも、僕にもっと力があれば、簡単に抱き上げて、優しく寝かせてあげられたのに。本当、悔しいな。
そのまま楓ちゃんに馬乗りになって、耳や首筋にくちづけながら、数時間前に着せてあげた寝間着のボタンに手をかけた。僕が着せたってことは、脱がせるのも僕ってことだから、いいよね。
「ちょっと、可不可」
「んー?」
「さっき、したのに」
「そう? でも、楓ちゃん見てたらスイッチ入っちゃったみたい。だめ?」
明日は休みだから今夜は一緒に――そう約束して、楓ちゃんの部屋にお泊まりにきたのが、昨日の二十二時くらい。そこから日にちが変わるくらいまで、ゆっくりと、そういうことをして眠った。別にねちっこくしたわけでも、何回もしたわけでもなくて、たわいもない話をしながら、たくさんキスをして……たぶん、それだけで一時間は経ってたんじゃないかな。
「……休みだから、いいけど」
「うん、ありがとう」
恋人になったとき、どこまで触れ合うかは決めていなかった。同じ気持ちになってもらえただけで、自分は世界一の果報者だと思ったし、触れるばかりが愛じゃないと思ってたから。
でも、実際に恋人としての付き合いが始まってみると、僕しか知らない楓ちゃんを見たいという欲求があっという間に膨らんでしまった。楓ちゃんも楓ちゃんで、恋人っぽいことをしてもいいんじゃないかなって言ってくれたから、僕たちは触れ合うことに決めたんだ。当然ながら経験がない者同士、最初は失敗したけど。
「……雨、すごいね」
僕の下で上体をさらした楓ちゃんが目を閉じて、外の音に耳をすませている。
「じゃあ、ちょっとくらい騒いでも、いいかも」
こんなに強い雨なら、月や星だけじゃなくて、恋人の時間も隠してくれそうでしょ? 感じたことは、僕にだけ聞こえる声で教えてね。
梅雨の期間は、昔と比べて短くなっているらしい。確かに、今年の梅雨も、実際に雨が降ったのは十日にも満たなかったと聞く。
じめじめして鬱陶しいと不評な梅雨だけど、いろんなものを隠してくれる雨音が、僕は好きだ。この時期には、幻想的な色をした花も咲くしね。
滝のような音に意識が浮上し、目を閉じたまま、腕をもぞもぞと動かす。……まだ起きるには早い時間だと思うんだけど。
すぐに開いてくれない瞼を軽く擦りながら、ベッドの周囲を見渡した。先に目を覚ましたからって無遠慮に灯りをつけないところも好きだな。でも、どんな時間だろうと、先に目を覚ますのは僕がいいな。寝顔は少しでも多く見たいし、なにより、格好がつかないじゃない。
窓の外を見つめる楓ちゃんは、僕が目を覚ましたことには、まだ、気付いてないみたい。驚かせるつもりはないから、普通に近付いて、細い隙間がつくられたカーテンに手を伸ばした。途中、ベッドサイドに視線を遣って、時刻を確認する。日の出にはまだ少し遠い時間だ。
「あ、ごめん、起こしちゃったよね」
「ううん、雨の音がしたから」
夜を支配するほどの強い雨の前では、月も星も無力だ。そういえば、週間天気予報では向こう五日間ほど雨が続くっていってたから、数時間後に朝を連れてくる予定の太陽だって、勝てないかもしれない。
窓を叩く雨から好きな子を隠すみたいに、カーテンを寸分の隙間なく閉じた。ごめんね、雨は好きだし、堂々とお付き合いしたい性分だけど、僕の宝物はキミにだって見せたくないんだ。特に今夜は、ふたりで大切な時間を過ごしたあとだから、いつも以上にきれいで色っぽい顔だし。
「楓ちゃんこそ、眠れなかった?」
「たまたま目が覚め、……んっ」
寝間着の裾から手を滑り込ませると、ほどよく引き締まった腹筋がひくんと反応した。僕も鍛えるようになったとはいえ、楓ちゃんにすらまだ勝ててない。もっと頑張らなくちゃ。当面の目標は、楓ちゃんを抱っこできるようになること。
楓ちゃんが腰を抜かしちゃう前に、手を引いてベッドに戻らせる。あぁ、もう、ここも、僕にもっと力があれば、簡単に抱き上げて、優しく寝かせてあげられたのに。本当、悔しいな。
そのまま楓ちゃんに馬乗りになって、耳や首筋にくちづけながら、数時間前に着せてあげた寝間着のボタンに手をかけた。僕が着せたってことは、脱がせるのも僕ってことだから、いいよね。
「ちょっと、可不可」
「んー?」
「さっき、したのに」
「そう? でも、楓ちゃん見てたらスイッチ入っちゃったみたい。だめ?」
明日は休みだから今夜は一緒に――そう約束して、楓ちゃんの部屋にお泊まりにきたのが、昨日の二十二時くらい。そこから日にちが変わるくらいまで、ゆっくりと、そういうことをして眠った。別にねちっこくしたわけでも、何回もしたわけでもなくて、たわいもない話をしながら、たくさんキスをして……たぶん、それだけで一時間は経ってたんじゃないかな。
「……休みだから、いいけど」
「うん、ありがとう」
恋人になったとき、どこまで触れ合うかは決めていなかった。同じ気持ちになってもらえただけで、自分は世界一の果報者だと思ったし、触れるばかりが愛じゃないと思ってたから。
でも、実際に恋人としての付き合いが始まってみると、僕しか知らない楓ちゃんを見たいという欲求があっという間に膨らんでしまった。楓ちゃんも楓ちゃんで、恋人っぽいことをしてもいいんじゃないかなって言ってくれたから、僕たちは触れ合うことに決めたんだ。当然ながら経験がない者同士、最初は失敗したけど。
「……雨、すごいね」
僕の下で上体をさらした楓ちゃんが目を閉じて、外の音に耳をすませている。
「じゃあ、ちょっとくらい騒いでも、いいかも」
こんなに強い雨なら、月や星だけじゃなくて、恋人の時間も隠してくれそうでしょ? 感じたことは、僕にだけ聞こえる声で教えてね。