いじわる未遂
今年は大晦日が金曜日だからか、取引先の多くは一週間前倒しで年末年始休暇に入るところが目立った。今年のクリスマスマーケットがやけに混んでたのはそのせいもあるのかな。世間でも〝奇跡の十連休〟なんて言われてる。
休みを満喫するひとが増えるってことは、観光業は忙しくなる……けど、朝班と夜班の面々は本業が忙しい時期ってひとが多い。昼班と夕班に頑張ってもらう案もあるけど、フォローにまわる人員の少なさを懸念した結果、年末年始は〝いざというときはすぐに連絡が取れるように〟とみんなにお願いしたうえで、今回の年末年始はお客さん側として思い思いに過ごしてもらおうって決めた。もちろん、観光業が何日も完全にお休みってわけにはいかないから、僕と朔次郎、生行の三人を年末年始対応のメイン要員にしてある。アプリの機能追加テストは、おもてなしツアーのないこの機会にこそ、やっておきたいからね。それでも、半休にしたり、出社せず寮で仕事をしたりと、いつもと比べてかなりゆるやかな体制。
「可不可、そろそろ終わった?」
練牙は撮影、添は実家の寿司屋が忙しいとかで、今日は部屋で仕事しようと決めて四時間あまり。
「……うん、そろそろいいかな。お待たせ」
予定より進んだし、もともと、今日は昼過ぎまでって決めてた。それに、朝から一時間おきに「なにか手伝おうか?」って気にかけてくれてたのを、これ以上断り続けたくないからね。
「俺にできることならいくらでも手伝うのに」
仕事のデータを閉じるのを見ながら、楓ちゃんが悔しがってる。
「だめ。気持ちは嬉しいけど、年末年始休暇中のひとに手伝わせられないよ」
ただでさえ、普段から遅くまで仕事をしてるんだから、休暇中くらいはゆっくりしてほしい。
「でも……」
「でもじゃないよ。……それは?」
何度も顔を覗かせてきたなかで、一度も持ってなかった紙袋に視線がいった。横浜駅近くのケーキ店のものだよね。
「これ? 誰かさんが全然手伝わせてくれないどころか毎回追い出すから、時間に余裕ができちゃって」
紙袋と僕をちらちら見比べてる。楓ちゃんが年下の僕相手に拗ねたときにしか見られない、すごくレアな〝いじわる未遂〟だ。真面目な性格と優しさのせいで、いじわるになる前に本人が音を上げるところまでがセット。
「僕のためにありがとう」
「う……やっぱり可不可にはお見通しだったんだ」
「だってそれ、この前買いに行こうって話してたお店のものでしょ?」
お店の奥に小さなイートインスペースがあるからそこで食べてもいいねなんて話してた。いつも混んでるらしいから、ひとまず買いに行ってみて、運よく席が空いてればって。
「可不可の仕事が終わったら誘おうかなって思ってたんだけど……うろうろしてるときに見かけたら、買って帰りたくなっちゃった」
ここで食べる? って訊かれたから、少し考えて、楓ちゃんの部屋でってお願いした。楓ちゃんのご家族から毎月のように送られてくるお菓子を一緒に食べるのに紅茶やコーヒーが常備してあって、ふたりきりの軽いティータイムにぴったりだから。
休みを満喫するひとが増えるってことは、観光業は忙しくなる……けど、朝班と夜班の面々は本業が忙しい時期ってひとが多い。昼班と夕班に頑張ってもらう案もあるけど、フォローにまわる人員の少なさを懸念した結果、年末年始は〝いざというときはすぐに連絡が取れるように〟とみんなにお願いしたうえで、今回の年末年始はお客さん側として思い思いに過ごしてもらおうって決めた。もちろん、観光業が何日も完全にお休みってわけにはいかないから、僕と朔次郎、生行の三人を年末年始対応のメイン要員にしてある。アプリの機能追加テストは、おもてなしツアーのないこの機会にこそ、やっておきたいからね。それでも、半休にしたり、出社せず寮で仕事をしたりと、いつもと比べてかなりゆるやかな体制。
「可不可、そろそろ終わった?」
練牙は撮影、添は実家の寿司屋が忙しいとかで、今日は部屋で仕事しようと決めて四時間あまり。
「……うん、そろそろいいかな。お待たせ」
予定より進んだし、もともと、今日は昼過ぎまでって決めてた。それに、朝から一時間おきに「なにか手伝おうか?」って気にかけてくれてたのを、これ以上断り続けたくないからね。
「俺にできることならいくらでも手伝うのに」
仕事のデータを閉じるのを見ながら、楓ちゃんが悔しがってる。
「だめ。気持ちは嬉しいけど、年末年始休暇中のひとに手伝わせられないよ」
ただでさえ、普段から遅くまで仕事をしてるんだから、休暇中くらいはゆっくりしてほしい。
「でも……」
「でもじゃないよ。……それは?」
何度も顔を覗かせてきたなかで、一度も持ってなかった紙袋に視線がいった。横浜駅近くのケーキ店のものだよね。
「これ? 誰かさんが全然手伝わせてくれないどころか毎回追い出すから、時間に余裕ができちゃって」
紙袋と僕をちらちら見比べてる。楓ちゃんが年下の僕相手に拗ねたときにしか見られない、すごくレアな〝いじわる未遂〟だ。真面目な性格と優しさのせいで、いじわるになる前に本人が音を上げるところまでがセット。
「僕のためにありがとう」
「う……やっぱり可不可にはお見通しだったんだ」
「だってそれ、この前買いに行こうって話してたお店のものでしょ?」
お店の奥に小さなイートインスペースがあるからそこで食べてもいいねなんて話してた。いつも混んでるらしいから、ひとまず買いに行ってみて、運よく席が空いてればって。
「可不可の仕事が終わったら誘おうかなって思ってたんだけど……うろうろしてるときに見かけたら、買って帰りたくなっちゃった」
ここで食べる? って訊かれたから、少し考えて、楓ちゃんの部屋でってお願いした。楓ちゃんのご家族から毎月のように送られてくるお菓子を一緒に食べるのに紅茶やコーヒーが常備してあって、ふたりきりの軽いティータイムにぴったりだから。