団長の提案
*2024年グループ記念日楽曲『MEDiUM』パロディ(団長×画家)――の画家が"いおりく同人誌の表紙と挿絵を依頼される"話
「背幅は最後までわからないし、表4も絵があればそりゃあありがたいけど、そこはニュアンスでなんとかするので……表1と挿絵を数点、引き受けてくださいませんか?」
依頼主はこうしているあいだにも本文を書き進めないと前日入稿になるとかなんとか言って、半ば押し付けるように仕様書をテーブルに置くと、さっさと帰ってしまった。
どうしてもあなたの絵がいいという言葉は嬉しいけれどと、画家は小さな溜息をつく。
仕様書にはふたりのアイドルが私生活では交際しているという設定のファンブックをつくるにあたって表紙と挿絵を描いてほしいということと、細かなサイズ規定や、挿絵候補となるシーンの小説の抜粋がいくつか記載されていた。ふたりの参考資料も添えられている。
表紙は、濃藍の髪をした男が、柘榴色の髪をした男の腰を抱き寄せるという指定だ。これは過去に描いた舞踏会の絵から連想すればいいから、たぶん、なんとかなるだろう。問題は挿絵だ。
くちびるを触れ合わせる程度のキスが綴られた文面を見て思わず顔を赤くしたのだが、それはまだまだ優しいほうで、後半に進むにつれ、彼らが服を脱ぎ、あられもない姿でまぐわう様子がしたためられていた。抜粋しか渡されなかったが、これは発禁になってもおかしくないレベルの官能小説ではないのか? だって、下半身のあれが、あんなところに挿入されて、あんなことやそんなことになるなんて。
経験したものしか描けないなんてことはないけれど、想像することすら恥ずかしいものを描くのは抵抗がある。しかも、描いたのが自分だと、そのファンブックとやらを読むひとには名前が知られてしまうのだ。偽名を使ったとしても、絵の雰囲気から特定されかねない。こんなに破廉恥な小説だと初めからわかっていたら、依頼人をその場で追い払ったのに。今度の溜息は、さきほどより深くなった。
「こんばんは、私の可愛い絵描きさん」
窓の外から声がして振り返ると、いつぞやの奇術芸団の男がいた。これで最後にすると決めた絵を盗みにきて、結果的に筆を置かせてくれなかった男だ。
「おまえのものになったつもりはないんだけど」
「心外ですね。私が見出した宝の生みの親として、今の貴方はなに不自由なく暮らせるようになったと聞きますよ? つまり、私は貴方のパトロンというわけだ」
許可もしていないのに我がもの顔でアトリエに入ってくる。同居人は仕事道具に手入れをするとかで、今日は帰りが遅い。大声を上げて助けを呼ぶ?
「これは?」
「あっ、こら!」
男は依頼書を拾い上げ、書かれた文字に視線を落とした。見惚れるほどの美人だなと、こんなときに思うべきじゃない考えが脳裏を過る。
「おもしろい依頼ですね。しかも」
一歩、こちらに踏み出したかと思うと、あっという間に腰を抱かれてしまった。
「資料を見る限り、私たちに瓜二つだ」
「そ、……」
確かに、添付されたアイドルたちの資料を見て〝似てるな〟と思った。それも、この依頼にダメージを受けている理由だ。
「なになに……〝一織は陸の顎をすくうように〟――こうでしょうか」
「ちょっと、近い……」
「そのあとは……〝陸を見つめ、視線だけでくちづけをねだる〟――うーん、私と同じ顔でねだるというのは似合いませんね。どちらかというと……そうだ、貴方から私におねだりをしてみませんか?」
名案だといわんばかりの顔に、画家は一瞬だけ顔を赤らめ、噛みつくように言い返す。
「は? なんでオレが?」
「イメージをふくらませるためですよ。さきほどから観察していましたが、貴方、キスもまだでしょう? 想像だけで描くより、知ったほうが、よりリアルに描けて、依頼者も大喜び。次の依頼にも繋がるのでは?」
「こんな破廉恥な絵、引き受けないから! これだって、今からでも断りたいのに……」
連絡先は書いてあるけれど、走って帰ったあの様子では、こちらが絵を仕上げるまで応じてくれない可能性がある。あぁ、本当に困った。
「まぁまぁ、なにごとも経験ということで。他にはどんな挿絵を? 〝一織のものをみっちりと咥えこみ、陸は恍惚とした顔で〟――幸せそうなストーリーですね。それから……〝浅いところと奥のどちらが好きかと尋ねられても、陸は頭を振るだけ〟――貴方はどちらがお好きなんですか?」
「え?」
団長の手が、画家の臀部に触れる。ぎゅうぎゅうと揉みしだかれ、そちらに気を取られているうちに、下腹部にかたいものを押し当てられた。それがなんなのかなんて、同じものがついているんだからわからないはずがない。
「あぁ、処女だから答えられませんか。では、探してみませんか? 貴方がどこを好きなのか。私のものなら、貴方の一番深いところまで暴いてあげられると思いますよ」
「背幅は最後までわからないし、表4も絵があればそりゃあありがたいけど、そこはニュアンスでなんとかするので……表1と挿絵を数点、引き受けてくださいませんか?」
依頼主はこうしているあいだにも本文を書き進めないと前日入稿になるとかなんとか言って、半ば押し付けるように仕様書をテーブルに置くと、さっさと帰ってしまった。
どうしてもあなたの絵がいいという言葉は嬉しいけれどと、画家は小さな溜息をつく。
仕様書にはふたりのアイドルが私生活では交際しているという設定のファンブックをつくるにあたって表紙と挿絵を描いてほしいということと、細かなサイズ規定や、挿絵候補となるシーンの小説の抜粋がいくつか記載されていた。ふたりの参考資料も添えられている。
表紙は、濃藍の髪をした男が、柘榴色の髪をした男の腰を抱き寄せるという指定だ。これは過去に描いた舞踏会の絵から連想すればいいから、たぶん、なんとかなるだろう。問題は挿絵だ。
くちびるを触れ合わせる程度のキスが綴られた文面を見て思わず顔を赤くしたのだが、それはまだまだ優しいほうで、後半に進むにつれ、彼らが服を脱ぎ、あられもない姿でまぐわう様子がしたためられていた。抜粋しか渡されなかったが、これは発禁になってもおかしくないレベルの官能小説ではないのか? だって、下半身のあれが、あんなところに挿入されて、あんなことやそんなことになるなんて。
経験したものしか描けないなんてことはないけれど、想像することすら恥ずかしいものを描くのは抵抗がある。しかも、描いたのが自分だと、そのファンブックとやらを読むひとには名前が知られてしまうのだ。偽名を使ったとしても、絵の雰囲気から特定されかねない。こんなに破廉恥な小説だと初めからわかっていたら、依頼人をその場で追い払ったのに。今度の溜息は、さきほどより深くなった。
「こんばんは、私の可愛い絵描きさん」
窓の外から声がして振り返ると、いつぞやの奇術芸団の男がいた。これで最後にすると決めた絵を盗みにきて、結果的に筆を置かせてくれなかった男だ。
「おまえのものになったつもりはないんだけど」
「心外ですね。私が見出した宝の生みの親として、今の貴方はなに不自由なく暮らせるようになったと聞きますよ? つまり、私は貴方のパトロンというわけだ」
許可もしていないのに我がもの顔でアトリエに入ってくる。同居人は仕事道具に手入れをするとかで、今日は帰りが遅い。大声を上げて助けを呼ぶ?
「これは?」
「あっ、こら!」
男は依頼書を拾い上げ、書かれた文字に視線を落とした。見惚れるほどの美人だなと、こんなときに思うべきじゃない考えが脳裏を過る。
「おもしろい依頼ですね。しかも」
一歩、こちらに踏み出したかと思うと、あっという間に腰を抱かれてしまった。
「資料を見る限り、私たちに瓜二つだ」
「そ、……」
確かに、添付されたアイドルたちの資料を見て〝似てるな〟と思った。それも、この依頼にダメージを受けている理由だ。
「なになに……〝一織は陸の顎をすくうように〟――こうでしょうか」
「ちょっと、近い……」
「そのあとは……〝陸を見つめ、視線だけでくちづけをねだる〟――うーん、私と同じ顔でねだるというのは似合いませんね。どちらかというと……そうだ、貴方から私におねだりをしてみませんか?」
名案だといわんばかりの顔に、画家は一瞬だけ顔を赤らめ、噛みつくように言い返す。
「は? なんでオレが?」
「イメージをふくらませるためですよ。さきほどから観察していましたが、貴方、キスもまだでしょう? 想像だけで描くより、知ったほうが、よりリアルに描けて、依頼者も大喜び。次の依頼にも繋がるのでは?」
「こんな破廉恥な絵、引き受けないから! これだって、今からでも断りたいのに……」
連絡先は書いてあるけれど、走って帰ったあの様子では、こちらが絵を仕上げるまで応じてくれない可能性がある。あぁ、本当に困った。
「まぁまぁ、なにごとも経験ということで。他にはどんな挿絵を? 〝一織のものをみっちりと咥えこみ、陸は恍惚とした顔で〟――幸せそうなストーリーですね。それから……〝浅いところと奥のどちらが好きかと尋ねられても、陸は頭を振るだけ〟――貴方はどちらがお好きなんですか?」
「え?」
団長の手が、画家の臀部に触れる。ぎゅうぎゅうと揉みしだかれ、そちらに気を取られているうちに、下腹部にかたいものを押し当てられた。それがなんなのかなんて、同じものがついているんだからわからないはずがない。
「あぁ、処女だから答えられませんか。では、探してみませんか? 貴方がどこを好きなのか。私のものなら、貴方の一番深いところまで暴いてあげられると思いますよ」