インタビュー
事務所へ献本が届いた時、一織が気にかけるのはやはり陸のものだ。もちろん、メンバー全員のことを大事に思っているし、元々は兄の夢のためこの世界に飛び込んだということから、兄の記事も気にしている。しかし、その歌声に惚れ込んだ――今では、それ以上の感情も抱いている――陸に対しては、どうしても、優先的に目を通してしまうことを否定できない。
(……あの人は特に、驚くような発言をすることもあるし)
アイドルとして活動を始めてそれなりの月日が経過し、初めの頃に比べれば、陸がうっかり発言をすることは減ったし、インタビュアーや編集者の計らいがあって完成する誌面なので、マイナスになるようなことは起こらない。しかし、彼らの目にはなんてことないものでも、一織としては見逃せない発言というものが存在するのだ。
出演しているドラマが好評であること、陸のCMが多いこともあり、今月だけでも陸の記事が掲載された雑誌はそれなりの冊数になる。応援してくれているファンも一織と同じように、誌面で見せる表情や語られる言葉に、胸を高鳴らせてくれているに違いない。
いくつかある雑誌の中から、掲載スペースがもっとも広くもうけられたものを手に取る。これは表紙も陸が単独で映っているもので、スマートフォン向けアプリのCMを担当していることから取材の申し込みが入ったものだ。表紙では涼し気なシャツとデニムパンツに身を包んだ陸が微笑んでいて、該当のページを開けば〝CMでも話題の新SNS!〟という触れ込みで、スマートフォン片手にインタビューに答えるという設定で撮影された姿が掲載されている。上品な所作でスマートフォンを片手で持ち、もう一方の手でディスプレイをスワイプしているのだろう。
(普段のこの人はこうではない……)
寮や楽屋で陸がスマートフォンを見ている時は、両手でスマートフォンを握り締め、画面と睨めっこして唸っていることが多い。ラビットチャットやSNSで誤字がないか何度も何度もチェックしているらしく、しばらくしてから「よし!」という掛け声とともに送信しているのだが、そういう時に限って、なにかしらの誤字がある。ラビットチャットであれば相手から、SNSであればコメント欄で誤字をそれとなく指摘され、これもまた、スマートフォンに向かって「恥ずかしい……」と顔を赤くしているのだ。
陸の恥ずかしがる顔を思い出して頬がゆるみかけたのを慌てて取り繕い、記事の内容に目を通す。
――メンバーとも、○○ッシュセブンでグループつくろうって話題になったんです。
あぁ、確かにそんな話もあった。アイドリッシュセブンは既に使用されていて、皆、思い付くままに名前を挙げたんだった。
更に読み進めると、メンバーとの日常にまで話が及んでいた。SNSの宣伝を兼ねた記事なのにと思ったが、編集者がGOサインを出しているのだからこれでいいのだろう。
――よく話すのは環と、三月。環とはゲームするし、三月はどんな話も聞いてくれるんです。一緒にいて気が楽だし、すごく楽しい。
そうだろうそうだろうと頷く。兄の聞き上手なところを褒められて喜ばない弟はいないのだ。
――大和さんはマイペースだけど、さっすがリーダーって感じで、いざって時は助けてくれるんです。それに、ナギ曰く、大和さんはオレに甘いらしくて。
あぁ、確かに。……そもそもメンバー全員が陸には甘い。
仕方がないのだ。あの、小動物のような瞳で見つめられたら。
――子ども扱いされてるみたいで悔しいけど、今のうちに頼っちゃおうかなって。もちろん、仕事の時はみんな真面目だし、オレも、センターとしてしっかりやらなきゃって思ってます。
意志の強い瞳が煌めくのを思い浮かべ、ふ……と笑みがこぼれる。甘ったれの弟気質だけれど、センターとしての自覚を持って、アイドルとして常に真摯でいようとする。陸のこういうところが好きだ。
しかし、その次の行に視線を移した途端、一織の思考は停止した。
――一織とは喧嘩が多いかな。でも、どんなに言い合いをしたって仲直りするし、眠る前に一織がつくってくれるホットミルクは優しい味がして大好きなんです! 一織って素直じゃないんですけど、そこがかわいいなって。あっ、でも、仕事の時はみなさんご存知の通り、格好いいんですけど。
「は?」
急激な速度で顔に熱が集まる。なにを言っているのだ、この男は。こんな、全国どころかインターネット通販を利用すれば海外でも購入できる雑誌のインタビューで。
一織はスマートフォンを引っ掴むと目にも留まらぬ速さでラビットチャットにメッセージを打ち込み、陸に送信した。帰ったら反省会だ。
(……あの人は特に、驚くような発言をすることもあるし)
アイドルとして活動を始めてそれなりの月日が経過し、初めの頃に比べれば、陸がうっかり発言をすることは減ったし、インタビュアーや編集者の計らいがあって完成する誌面なので、マイナスになるようなことは起こらない。しかし、彼らの目にはなんてことないものでも、一織としては見逃せない発言というものが存在するのだ。
出演しているドラマが好評であること、陸のCMが多いこともあり、今月だけでも陸の記事が掲載された雑誌はそれなりの冊数になる。応援してくれているファンも一織と同じように、誌面で見せる表情や語られる言葉に、胸を高鳴らせてくれているに違いない。
いくつかある雑誌の中から、掲載スペースがもっとも広くもうけられたものを手に取る。これは表紙も陸が単独で映っているもので、スマートフォン向けアプリのCMを担当していることから取材の申し込みが入ったものだ。表紙では涼し気なシャツとデニムパンツに身を包んだ陸が微笑んでいて、該当のページを開けば〝CMでも話題の新SNS!〟という触れ込みで、スマートフォン片手にインタビューに答えるという設定で撮影された姿が掲載されている。上品な所作でスマートフォンを片手で持ち、もう一方の手でディスプレイをスワイプしているのだろう。
(普段のこの人はこうではない……)
寮や楽屋で陸がスマートフォンを見ている時は、両手でスマートフォンを握り締め、画面と睨めっこして唸っていることが多い。ラビットチャットやSNSで誤字がないか何度も何度もチェックしているらしく、しばらくしてから「よし!」という掛け声とともに送信しているのだが、そういう時に限って、なにかしらの誤字がある。ラビットチャットであれば相手から、SNSであればコメント欄で誤字をそれとなく指摘され、これもまた、スマートフォンに向かって「恥ずかしい……」と顔を赤くしているのだ。
陸の恥ずかしがる顔を思い出して頬がゆるみかけたのを慌てて取り繕い、記事の内容に目を通す。
――メンバーとも、○○ッシュセブンでグループつくろうって話題になったんです。
あぁ、確かにそんな話もあった。アイドリッシュセブンは既に使用されていて、皆、思い付くままに名前を挙げたんだった。
更に読み進めると、メンバーとの日常にまで話が及んでいた。SNSの宣伝を兼ねた記事なのにと思ったが、編集者がGOサインを出しているのだからこれでいいのだろう。
――よく話すのは環と、三月。環とはゲームするし、三月はどんな話も聞いてくれるんです。一緒にいて気が楽だし、すごく楽しい。
そうだろうそうだろうと頷く。兄の聞き上手なところを褒められて喜ばない弟はいないのだ。
――大和さんはマイペースだけど、さっすがリーダーって感じで、いざって時は助けてくれるんです。それに、ナギ曰く、大和さんはオレに甘いらしくて。
あぁ、確かに。……そもそもメンバー全員が陸には甘い。
仕方がないのだ。あの、小動物のような瞳で見つめられたら。
――子ども扱いされてるみたいで悔しいけど、今のうちに頼っちゃおうかなって。もちろん、仕事の時はみんな真面目だし、オレも、センターとしてしっかりやらなきゃって思ってます。
意志の強い瞳が煌めくのを思い浮かべ、ふ……と笑みがこぼれる。甘ったれの弟気質だけれど、センターとしての自覚を持って、アイドルとして常に真摯でいようとする。陸のこういうところが好きだ。
しかし、その次の行に視線を移した途端、一織の思考は停止した。
――一織とは喧嘩が多いかな。でも、どんなに言い合いをしたって仲直りするし、眠る前に一織がつくってくれるホットミルクは優しい味がして大好きなんです! 一織って素直じゃないんですけど、そこがかわいいなって。あっ、でも、仕事の時はみなさんご存知の通り、格好いいんですけど。
「は?」
急激な速度で顔に熱が集まる。なにを言っているのだ、この男は。こんな、全国どころかインターネット通販を利用すれば海外でも購入できる雑誌のインタビューで。
一織はスマートフォンを引っ掴むと目にも留まらぬ速さでラビットチャットにメッセージを打ち込み、陸に送信した。帰ったら反省会だ。