Double Concerto
*2019年2月11日発行いおりくプロポーズアンソロジー『Double Concerto』 の告知用に書いた作文
「七瀬さん、私の部屋に来てください」
一織はこのあと、陸に、将来をともにしたいと願い出るつもりでいる。
「それって、いい話? それとも悪い話?」
「いい話、……だと思っていただけるといいなと思います」
つまり、悪い話ではないけれど、陸の受け取り次第ではよくないかもしれないということ。一体なんだろう。陸はごくりと生唾を飲み込んだ。陸にも、言っておきたいことがあったからだ。
「……オレも、一織に言っておきたいことがあって」
行き先が天国でも地獄でも、置いていかないし、置いていかないでほしい。二人はこれまでも歳のわりに重い誓いを交わしてきた。しかし、陸が言おうとしていることは、これまでの比ではない。もっと重く、そして、もっと永い永い時間を約束したいと乞うもの。
つまり、ふたりは時を同じくして、相手の未来に自分が並びたいという意思を告げるつもりでいるのだ。自分の想いを告げることへの緊張で余裕のない二人は、相手が同じタイミングで同じことを考えていることなど予想もしていない。
「言っておきたいこと?」
「……とりあえず、一織の部屋に行こっか」
照れくさそうに微笑む陸に、一織の鼓動が高鳴る。あぁ、また、恋をしてしまった。熱くなった頬を隠すように俯く。
「一織?」
「……いえ、なんでも」
ポケットにしのばせたそれを、服の上から確かめる。プロポーズをして、受け入れてもらえたら。そうしたら、陸の薬指におさめるつもりだ。一織がそう思っていることなど知らない陸は、心の中で「よし!」と気合いを入れる。この日のために、とっておきの言葉を考えておいた。絶対に、プロポーズを成功させてみせる。
一織の部屋では、念のため、鍵をかけた。一世一代の大勝負という時に邪魔が入っては困るからだ。この部屋では、これまでも二人きりでいろいろな言葉を交わしてきた。
頭の中で何度もプロポーズの言葉をシミュレーションしてきたのに、いざとなると、うまく言葉が出てこない。あんなに悩んで決めたせりふも、喉がからからと渇いてしまって声となって出てくれないのだ。
「一織?」
焦れた陸が怪訝な顔で覗き込んでくる。
「七瀬さん、私と……」
陸の両肩に手を添え、柘榴のような赤い瞳をじっと見据える。
切羽詰まった一織の表情を見て、陸の脳裏に、ある予感が過った。
「ま、待って、一織。もしかして」
もしかすると、一織は自分と同じことを言おうとしているのかもしれない。そう思ったのだ。
陸の唇に力が入る。そして。
「七瀬さん、私の部屋に来てください」
一織はこのあと、陸に、将来をともにしたいと願い出るつもりでいる。
「それって、いい話? それとも悪い話?」
「いい話、……だと思っていただけるといいなと思います」
つまり、悪い話ではないけれど、陸の受け取り次第ではよくないかもしれないということ。一体なんだろう。陸はごくりと生唾を飲み込んだ。陸にも、言っておきたいことがあったからだ。
「……オレも、一織に言っておきたいことがあって」
行き先が天国でも地獄でも、置いていかないし、置いていかないでほしい。二人はこれまでも歳のわりに重い誓いを交わしてきた。しかし、陸が言おうとしていることは、これまでの比ではない。もっと重く、そして、もっと永い永い時間を約束したいと乞うもの。
つまり、ふたりは時を同じくして、相手の未来に自分が並びたいという意思を告げるつもりでいるのだ。自分の想いを告げることへの緊張で余裕のない二人は、相手が同じタイミングで同じことを考えていることなど予想もしていない。
「言っておきたいこと?」
「……とりあえず、一織の部屋に行こっか」
照れくさそうに微笑む陸に、一織の鼓動が高鳴る。あぁ、また、恋をしてしまった。熱くなった頬を隠すように俯く。
「一織?」
「……いえ、なんでも」
ポケットにしのばせたそれを、服の上から確かめる。プロポーズをして、受け入れてもらえたら。そうしたら、陸の薬指におさめるつもりだ。一織がそう思っていることなど知らない陸は、心の中で「よし!」と気合いを入れる。この日のために、とっておきの言葉を考えておいた。絶対に、プロポーズを成功させてみせる。
一織の部屋では、念のため、鍵をかけた。一世一代の大勝負という時に邪魔が入っては困るからだ。この部屋では、これまでも二人きりでいろいろな言葉を交わしてきた。
頭の中で何度もプロポーズの言葉をシミュレーションしてきたのに、いざとなると、うまく言葉が出てこない。あんなに悩んで決めたせりふも、喉がからからと渇いてしまって声となって出てくれないのだ。
「一織?」
焦れた陸が怪訝な顔で覗き込んでくる。
「七瀬さん、私と……」
陸の両肩に手を添え、柘榴のような赤い瞳をじっと見据える。
切羽詰まった一織の表情を見て、陸の脳裏に、ある予感が過った。
「ま、待って、一織。もしかして」
もしかすると、一織は自分と同じことを言おうとしているのかもしれない。そう思ったのだ。
陸の唇に力が入る。そして。