ヒーロー
『私を一番に意識してほしいんです』
一織に言われたことを何度も脳内に思い浮かべる。前々から、すごく自分のことを考えてくれているなとは思っていた。まるで告白……いや、プロポーズみたい。ひとたびそう思ってしまったら、陸が転がり落ちるのはあっという間だった。残念なことに一織の数々の発言はメンバーとしての感情しか含まれていない。でも、それが恋愛感情になってくれやしないかと期待してしまう。だって、自分だってはじめは恋愛感情じゃなかったのだから。
(あーあ、本当、一織の言葉通りになっちゃってるよ)
案の定、最近の陸は一織のことを意識してばかりだ。自分を見る視線に、自分に話しかける声音に、自分と同じ気持ちが含まれるようになっていないかと、他の誰よりも一織の言動を気にするようになってしまった。
(これって、ちょっとやばいかも)
陸の思考の中心は、一織になっている。今はまだよくても、恋愛感情を含むか否かの違いは、そう遠くない未来に亀裂をうみだすことだろう。恋愛感情を含まない熱烈な言葉たちを囁く一織と、恋愛感情を抱いてしまった自分とでは、既に、相手の感情を置いてきぼりにしつつある。
(置いていかないから置いていかないでって、……言ったのにな)
あぁ、まただ。今だって、献本された雑誌に目を通していただけのはずが、いつの間にか一織のことを考えてしまっている。そういえば、その雑誌を一織はもう読んだのだろうかというところから、この思考回路はつくりだされたのだった。
「あ~~っ! もう!」
自分はこんなにも恋愛脳だったのか? あまりにも一織のことばかりで、自己嫌悪に陥りそうだ。一織が望んでいる『意識してほしい』は、どう考えても、こういう種類のものではない。それを、自分の脳は都合よく解釈してしまった。どうすれば、この、一人で暴走しそうな思考回路を絶ち切ることができるのか。
(全部一織のせいじゃん……責任取れよな……)
責任。自分の頭の中で浮かんだ言葉に、陸は瞠目する。
そうだ、責任をとってもらえばいい。一織が求めた通り、自分はすっかり一織のことを意識してしまった。一織を置いていかないために、また、一織に置いていかれないために、一織には責任をもって、自分と同じ感情へと足並みを揃えてもらわなければ。つまり、一織が自分に恋をしてくれれば、すべてが解決するのだ。
(……って、都合よ過ぎ)
そんな理由で相手に恋愛感情を抱かせることができたら、恋に悩む人間なんていなくなる。恋に悩む人間がいるから、この世はラブソングであふれているというのに。
でも、と陸は思い直す。
一人で思考の渦に巻き込まれていても、多分、なにも変わらない。これまで読んだどんな物語だって、主人公は一歩踏み出して、思考の渦から抜け出してきた。
自分はヒーローが好きで、ヒーローに憧れている。だったら、彼らのように一歩踏み出して、この思考の渦から抜け出さなければ。ヒーローが行動するのは誰かのためだけれど、陸が今回行動するのは自分のため。こんなの、ヒーローとは呼べないけれど、これまでに憧れたヒーローたちなら、自分のことを応援してくれるに違いない。
(まずは、一織にオレを意識してもらわなきゃ!)
メンバーとしてであればとうに意識してもらっているけれど、陸が一織を意識するような類のものでなければ話は進まない。パーフェクト高校生と言いつつ、恋愛方面にはかなり疎いようだから、これはなかなか苦労するなぁと思っている。ヒーローは簡単な道なんて選ばない。苦難の道、上等じゃないか。
一織に言われたことを何度も脳内に思い浮かべる。前々から、すごく自分のことを考えてくれているなとは思っていた。まるで告白……いや、プロポーズみたい。ひとたびそう思ってしまったら、陸が転がり落ちるのはあっという間だった。残念なことに一織の数々の発言はメンバーとしての感情しか含まれていない。でも、それが恋愛感情になってくれやしないかと期待してしまう。だって、自分だってはじめは恋愛感情じゃなかったのだから。
(あーあ、本当、一織の言葉通りになっちゃってるよ)
案の定、最近の陸は一織のことを意識してばかりだ。自分を見る視線に、自分に話しかける声音に、自分と同じ気持ちが含まれるようになっていないかと、他の誰よりも一織の言動を気にするようになってしまった。
(これって、ちょっとやばいかも)
陸の思考の中心は、一織になっている。今はまだよくても、恋愛感情を含むか否かの違いは、そう遠くない未来に亀裂をうみだすことだろう。恋愛感情を含まない熱烈な言葉たちを囁く一織と、恋愛感情を抱いてしまった自分とでは、既に、相手の感情を置いてきぼりにしつつある。
(置いていかないから置いていかないでって、……言ったのにな)
あぁ、まただ。今だって、献本された雑誌に目を通していただけのはずが、いつの間にか一織のことを考えてしまっている。そういえば、その雑誌を一織はもう読んだのだろうかというところから、この思考回路はつくりだされたのだった。
「あ~~っ! もう!」
自分はこんなにも恋愛脳だったのか? あまりにも一織のことばかりで、自己嫌悪に陥りそうだ。一織が望んでいる『意識してほしい』は、どう考えても、こういう種類のものではない。それを、自分の脳は都合よく解釈してしまった。どうすれば、この、一人で暴走しそうな思考回路を絶ち切ることができるのか。
(全部一織のせいじゃん……責任取れよな……)
責任。自分の頭の中で浮かんだ言葉に、陸は瞠目する。
そうだ、責任をとってもらえばいい。一織が求めた通り、自分はすっかり一織のことを意識してしまった。一織を置いていかないために、また、一織に置いていかれないために、一織には責任をもって、自分と同じ感情へと足並みを揃えてもらわなければ。つまり、一織が自分に恋をしてくれれば、すべてが解決するのだ。
(……って、都合よ過ぎ)
そんな理由で相手に恋愛感情を抱かせることができたら、恋に悩む人間なんていなくなる。恋に悩む人間がいるから、この世はラブソングであふれているというのに。
でも、と陸は思い直す。
一人で思考の渦に巻き込まれていても、多分、なにも変わらない。これまで読んだどんな物語だって、主人公は一歩踏み出して、思考の渦から抜け出してきた。
自分はヒーローが好きで、ヒーローに憧れている。だったら、彼らのように一歩踏み出して、この思考の渦から抜け出さなければ。ヒーローが行動するのは誰かのためだけれど、陸が今回行動するのは自分のため。こんなの、ヒーローとは呼べないけれど、これまでに憧れたヒーローたちなら、自分のことを応援してくれるに違いない。
(まずは、一織にオレを意識してもらわなきゃ!)
メンバーとしてであればとうに意識してもらっているけれど、陸が一織を意識するような類のものでなければ話は進まない。パーフェクト高校生と言いつつ、恋愛方面にはかなり疎いようだから、これはなかなか苦労するなぁと思っている。ヒーローは簡単な道なんて選ばない。苦難の道、上等じゃないか。