エリンの過去
*『星巡りの観測者』パロディ(コーダ×エリン)
赤く長い髪がシーツの海に広がっていて、こんな時なのに、エリンときたら「今の王様に変わる前はね」と前置きをしてから、自分が暗殺者として生きていた頃のことを話し始めた。
「基本的には短期決戦。闇に乗じてって感じで素早く標的を仕留めるんだけど、何回かはスパイの真似事もしたよ。ほら、僕って優秀だから」
じわじわと標的に取り入り、相手を油断させたところで消えてもらう。死の直前、裏切られたと絶望に歪む表情は、ただの暗殺者ではなかなか拝めないものだ。だって、いつもなら相手の表情は痛みにしか歪まないから。
「……それで?」
せっかくそういうムードだったのになぁと、コーダはやや不貞腐れながらも続きを促す。
「相手に取り入るのがひと苦労。相手の情報は他からもらってたから好みとかはわかるんだけど、…………」
そこまで言うと、エリンはうろうろと視線を彷徨わせた。自分から話し始めておいて、なにを躊躇うのだろう。
「エリン?」
「……それで、相手に男色の気があったりすると、一応、僕も命じられた以上は覚悟して」
その言葉でコーダの頭の中がかっと熱くなる。
「はぁ? アンタ、命令で相手とそういうことしたのか?」
「してないしてない! その前に仕留めたし!」
ぶんぶんと大きく首を振るエリンの瞳に嘘はなさそうだ。コーダはほっと胸を撫で下ろしながら、質問を続けた。
「……で、それをオレに言う理由は?」
こんな話、ベッドの上ですることじゃないはずだ。コーダは童貞だけれど、それくらいはわかる。……というか、今から童貞ではなくなる予定なのに、どうして相手の過去を明かされているのだろう。
「えっと、だから……初めてなのに怖くないから、コーダが不審がったら嫌だなって」
おまけのように明かされた「初めて」という言葉に目眩がする。こちらは童貞なので、煽られることになれていないのだ。
「ふぅん……別に、不審がるとかはないよ」
「あっ、あと、痛みにも強いから遠慮もしなくていいよ!」
エリンの言葉に、コーダは思わず枕に突っ伏した。
(初めて……遠慮はいらない…………正気か?)
ベスティアの者は身体に獣の要素が混じっている。コーダであれば耳や尻尾、それから……。
これからの行為を想像し、コーダの頬に熱が集まる。
「……コーダ? えっと……あ! 今は服のどこにも武器は仕込んでないし、心配なら手足縛って口塞いでから服破いてくれていいよ」
「そんなことしないよ、今のアンタが丸腰なのはわかってる」
はぁぁ……と大きな溜息をついてしまったのは、さきほどからエリンの発言がコーダを挑発するものばかりだから。からかっているのか? それとも無意識? 後者ならたちが悪いなと思う。
「……ごめん、怖くはないんだけど、コーダとって思ったら、どんどん緊張してきて、ぺらぺらしゃべっちゃった。コーダの筆下ろししてあげるね! くらい言えたらよかったんだけど」
「それはそれでいやだよ! あぁもうムード台無し」
ベッドの上、自分の下にいるエリンの姿に見惚れてどきどきしていたはずなのに。
「えぇ……気分じゃなくなった?」
「いや、……そういうわけじゃ、ないけど」
「はは、素直。コーダはかわいいね」
かわいいのはどっちだ、と言いたい。初めての恋で、口説き文句のひとつすら出てこない。代わりに、エリンの長い髪を指ですくい上げ、唇を落とす。
「オレはかわいくないよ。……オレも初めてだけど、多分、今にわかるから」
煌めいた瞳には確かに情欲が宿っていて、エリンの背筋がぞくりと震えた。あぁ、この興奮は、標的を仕留めた瞬間に似ている。
「……いいよ、きて」
赤く長い髪がシーツの海に広がっていて、こんな時なのに、エリンときたら「今の王様に変わる前はね」と前置きをしてから、自分が暗殺者として生きていた頃のことを話し始めた。
「基本的には短期決戦。闇に乗じてって感じで素早く標的を仕留めるんだけど、何回かはスパイの真似事もしたよ。ほら、僕って優秀だから」
じわじわと標的に取り入り、相手を油断させたところで消えてもらう。死の直前、裏切られたと絶望に歪む表情は、ただの暗殺者ではなかなか拝めないものだ。だって、いつもなら相手の表情は痛みにしか歪まないから。
「……それで?」
せっかくそういうムードだったのになぁと、コーダはやや不貞腐れながらも続きを促す。
「相手に取り入るのがひと苦労。相手の情報は他からもらってたから好みとかはわかるんだけど、…………」
そこまで言うと、エリンはうろうろと視線を彷徨わせた。自分から話し始めておいて、なにを躊躇うのだろう。
「エリン?」
「……それで、相手に男色の気があったりすると、一応、僕も命じられた以上は覚悟して」
その言葉でコーダの頭の中がかっと熱くなる。
「はぁ? アンタ、命令で相手とそういうことしたのか?」
「してないしてない! その前に仕留めたし!」
ぶんぶんと大きく首を振るエリンの瞳に嘘はなさそうだ。コーダはほっと胸を撫で下ろしながら、質問を続けた。
「……で、それをオレに言う理由は?」
こんな話、ベッドの上ですることじゃないはずだ。コーダは童貞だけれど、それくらいはわかる。……というか、今から童貞ではなくなる予定なのに、どうして相手の過去を明かされているのだろう。
「えっと、だから……初めてなのに怖くないから、コーダが不審がったら嫌だなって」
おまけのように明かされた「初めて」という言葉に目眩がする。こちらは童貞なので、煽られることになれていないのだ。
「ふぅん……別に、不審がるとかはないよ」
「あっ、あと、痛みにも強いから遠慮もしなくていいよ!」
エリンの言葉に、コーダは思わず枕に突っ伏した。
(初めて……遠慮はいらない…………正気か?)
ベスティアの者は身体に獣の要素が混じっている。コーダであれば耳や尻尾、それから……。
これからの行為を想像し、コーダの頬に熱が集まる。
「……コーダ? えっと……あ! 今は服のどこにも武器は仕込んでないし、心配なら手足縛って口塞いでから服破いてくれていいよ」
「そんなことしないよ、今のアンタが丸腰なのはわかってる」
はぁぁ……と大きな溜息をついてしまったのは、さきほどからエリンの発言がコーダを挑発するものばかりだから。からかっているのか? それとも無意識? 後者ならたちが悪いなと思う。
「……ごめん、怖くはないんだけど、コーダとって思ったら、どんどん緊張してきて、ぺらぺらしゃべっちゃった。コーダの筆下ろししてあげるね! くらい言えたらよかったんだけど」
「それはそれでいやだよ! あぁもうムード台無し」
ベッドの上、自分の下にいるエリンの姿に見惚れてどきどきしていたはずなのに。
「えぇ……気分じゃなくなった?」
「いや、……そういうわけじゃ、ないけど」
「はは、素直。コーダはかわいいね」
かわいいのはどっちだ、と言いたい。初めての恋で、口説き文句のひとつすら出てこない。代わりに、エリンの長い髪を指ですくい上げ、唇を落とす。
「オレはかわいくないよ。……オレも初めてだけど、多分、今にわかるから」
煌めいた瞳には確かに情欲が宿っていて、エリンの背筋がぞくりと震えた。あぁ、この興奮は、標的を仕留めた瞬間に似ている。
「……いいよ、きて」