無自覚
これはこれは……と、一織は瞠目した。
本日午後、IDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeの三グループが出演する映画『星巡りの観測者』のプロモーション動画が公開された。ファンの反応を見るため、一織は動画公開直後からSNS内の検索をおこなっている。
今は学校からの帰り道。隣を歩く環は午後の授業で「食後で眠い」と言って居眠りをしていたくせに、まだ眠気が残っているのか、信号待ちの間も大きなあくびをしているありさまだ。曲がりなりにも世間を賑わせているアイドルが、プライベートとはいえ道端で大あくびなんて。……いや、アイドルでなくても、手で口許を隠すことなくあくびをするなんてはしたない、と一織は溜息をついた。
信号が青になり、眺めていたスマートフォンを制服のポケットへと滑り込ませる。
「いおりん、あれだろ。エゴサ」
「……まぁ、反応は気になりますから」
この男、あくびをしているだけかと思ったら気付いていたのか。一織はちらりと隣を歩く環を見上げる。
「そんで? いおりん的には?」
反応としては、おおむね良好といっていい。Re:valeが担当する主題歌に対するコメントはもちろん多かったが、登場人物紹介へのコメントが予想以上に多かった。
「こちらの予想通りですよ。ただ、意外だったのは九条さんや七瀬さん、主題歌を担当されるRe:valeのお二人よりも、逢坂さんですね」
「そーちゃん?」
相方の名前が出たことで眠気が薄れたのか、環はぱちぱちと目を瞬かせる。
「えぇ。まるで眠っているような……というか役柄上も、そして映像でもそのままですけど、逢坂さんの寝顔が美しいというコメントが非常に多く見受けられました」
「そーちゃんの寝顔……」
環の脳裏に、撮影後に見せてもらった映像の中のベガと、つい先日、仕事のあとに自分の肩にもたれかかってうたた寝をしていた壮五の寝顔が立て続けに浮かんだ。なるほど、確かにきれいな顔だ。そこまで考えて、環の心がちくりと痛む。
「……なんか、やだ」
「なにがですか」
「わかんねえ。なんか、そーちゃんの寝顔、みんなも見たんだって思ったら、なんか、むかつく」
唇を尖らせて、明らかに拗ねた様子。それを見て、一織は、この男にはSNSでベガへの評価を見せないほうがいいなと判断した。美しいと称賛する声が圧倒的に多い中、キスをして目覚めさせたいだの、隣で眠りたいだの、……一織の口からは言えないような欲を孕んだコメントも多数見受けられたからだ。自分たちは未成年、教育上よろしくないことはシャットアウトするに限る。エゴサーチでそれらの言葉も評価の一部として見た自分を棚上げにして、一織は一人でうんうんと頷いた。それにしても、この男……。
(わからない、なんかむかつく……ですか)
初心な環が苦手とする話題。苦手という点では一織も人のことは言えないのだが、ベガに対するコメントで、なぜ環が心をもやもやとさせているかなんて、普段の二人を見ていればわかる。
「……四葉さん、他者の感情に対しては鋭いほうなのに、自分のこととなるとまったくだめなんですね」
「っはぁ? なにそれ、なんでいきなりばかにされてんの俺」
上げて落とすなんて最悪! 環がぎゃあぎゃあと一織に噛み付く。
「自分で考えてください。……逢坂さんのこと、どう思ってるか」
その言葉に、環はぴたりと腕を止める。あと少し、一織の発言が遅かったら、一織は胸倉を掴まれていたところだ。
「そーちゃんのこと?」
どう思っているんだろう。そう尋ねると、それを考えれば、このむかむかした正体がわかるはずだと一織が言う。
(きれいな顔してて、薄っぺらくて蝶みたいで、ガミガミうるせえけど、俺のこと見ててくれるって言ってくれて、……)
壮五のことをひとつ多く知るたび、心の距離まで近くなったような気がして、嬉しくなる。指折り数えながら、一織に説明した。
「……四葉さんが逢坂さんをどう思われているのかくらいわかりますから。いちいち私に説明しなくていいです」
「は? 俺もわかんねえのに、いおりんわかんの?」
「そうですね、パーフェクト高校生と言われた私ですから」
メンバーとはいえ、人の恋の話を聞いてあげられるほど、一織は大人ではない。これ以上、恋に悩む男の言葉ばかり聞いていたら、自分まで胸焼けしてしまいそうだ。雑だと自覚しつつ、一織は適当に話を切り上げた。
壮五についてたっぷり考えた環は、寮に着いて出迎えた壮五を見るなり、なぜか壮五がかわいく見えて、耳まで真っ赤に染めることとなる。
本日午後、IDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeの三グループが出演する映画『星巡りの観測者』のプロモーション動画が公開された。ファンの反応を見るため、一織は動画公開直後からSNS内の検索をおこなっている。
今は学校からの帰り道。隣を歩く環は午後の授業で「食後で眠い」と言って居眠りをしていたくせに、まだ眠気が残っているのか、信号待ちの間も大きなあくびをしているありさまだ。曲がりなりにも世間を賑わせているアイドルが、プライベートとはいえ道端で大あくびなんて。……いや、アイドルでなくても、手で口許を隠すことなくあくびをするなんてはしたない、と一織は溜息をついた。
信号が青になり、眺めていたスマートフォンを制服のポケットへと滑り込ませる。
「いおりん、あれだろ。エゴサ」
「……まぁ、反応は気になりますから」
この男、あくびをしているだけかと思ったら気付いていたのか。一織はちらりと隣を歩く環を見上げる。
「そんで? いおりん的には?」
反応としては、おおむね良好といっていい。Re:valeが担当する主題歌に対するコメントはもちろん多かったが、登場人物紹介へのコメントが予想以上に多かった。
「こちらの予想通りですよ。ただ、意外だったのは九条さんや七瀬さん、主題歌を担当されるRe:valeのお二人よりも、逢坂さんですね」
「そーちゃん?」
相方の名前が出たことで眠気が薄れたのか、環はぱちぱちと目を瞬かせる。
「えぇ。まるで眠っているような……というか役柄上も、そして映像でもそのままですけど、逢坂さんの寝顔が美しいというコメントが非常に多く見受けられました」
「そーちゃんの寝顔……」
環の脳裏に、撮影後に見せてもらった映像の中のベガと、つい先日、仕事のあとに自分の肩にもたれかかってうたた寝をしていた壮五の寝顔が立て続けに浮かんだ。なるほど、確かにきれいな顔だ。そこまで考えて、環の心がちくりと痛む。
「……なんか、やだ」
「なにがですか」
「わかんねえ。なんか、そーちゃんの寝顔、みんなも見たんだって思ったら、なんか、むかつく」
唇を尖らせて、明らかに拗ねた様子。それを見て、一織は、この男にはSNSでベガへの評価を見せないほうがいいなと判断した。美しいと称賛する声が圧倒的に多い中、キスをして目覚めさせたいだの、隣で眠りたいだの、……一織の口からは言えないような欲を孕んだコメントも多数見受けられたからだ。自分たちは未成年、教育上よろしくないことはシャットアウトするに限る。エゴサーチでそれらの言葉も評価の一部として見た自分を棚上げにして、一織は一人でうんうんと頷いた。それにしても、この男……。
(わからない、なんかむかつく……ですか)
初心な環が苦手とする話題。苦手という点では一織も人のことは言えないのだが、ベガに対するコメントで、なぜ環が心をもやもやとさせているかなんて、普段の二人を見ていればわかる。
「……四葉さん、他者の感情に対しては鋭いほうなのに、自分のこととなるとまったくだめなんですね」
「っはぁ? なにそれ、なんでいきなりばかにされてんの俺」
上げて落とすなんて最悪! 環がぎゃあぎゃあと一織に噛み付く。
「自分で考えてください。……逢坂さんのこと、どう思ってるか」
その言葉に、環はぴたりと腕を止める。あと少し、一織の発言が遅かったら、一織は胸倉を掴まれていたところだ。
「そーちゃんのこと?」
どう思っているんだろう。そう尋ねると、それを考えれば、このむかむかした正体がわかるはずだと一織が言う。
(きれいな顔してて、薄っぺらくて蝶みたいで、ガミガミうるせえけど、俺のこと見ててくれるって言ってくれて、……)
壮五のことをひとつ多く知るたび、心の距離まで近くなったような気がして、嬉しくなる。指折り数えながら、一織に説明した。
「……四葉さんが逢坂さんをどう思われているのかくらいわかりますから。いちいち私に説明しなくていいです」
「は? 俺もわかんねえのに、いおりんわかんの?」
「そうですね、パーフェクト高校生と言われた私ですから」
メンバーとはいえ、人の恋の話を聞いてあげられるほど、一織は大人ではない。これ以上、恋に悩む男の言葉ばかり聞いていたら、自分まで胸焼けしてしまいそうだ。雑だと自覚しつつ、一織は適当に話を切り上げた。
壮五についてたっぷり考えた環は、寮に着いて出迎えた壮五を見るなり、なぜか壮五がかわいく見えて、耳まで真っ赤に染めることとなる。