彼シャツ
寝苦しさから、いつもの自分では考えられないくらい早くに目を覚ましてしまった。正確には、まだ目は閉じていて、意識だけが浮上している状態だから、時刻を見たわけではない。ただ、肌で感じる時間が、まだ明け方だと知らせてくれている。
(いま、なんじ……)
起き上がるのが億劫で、ぱたぱたと右手を動かしてスマートフォンを探す。眠る前に充電しておくよう口酸っぱく言われていた頃があったから、最近の環はきちんと眠る前にスマートフォンを充電して、枕のすぐ近くに置くようにしている。素晴らしい成長だと褒めてほしい。
「……あ?」
かたい無機質な素材が指先に触れることを想定していたのに、このくすぐってくるものはなんだ。いや、非常に心当たりがある。このふわふわとした、やわらかい毛……。ちなみに、きなこはふわふわではなく、もふもふなので、違うやわらかさだ。
覚悟を決めて首を右に傾け、ゆっくりと目を開く。どうか、予想が当たっていませんように。
――しかし、現実とは非情なもので、こういう時ほど、予想が当たってしまうようにできている。
「なんでいんだよ……」
掛け布団の下では両腕をぴしっと身体に沿わせているんじゃないかと思うほどきれいな体勢。眠っている時まできっちりしているなんて、一種の才能だ。環は、自分には絶対にできないなと思う。
こちらからねだった時には「翌朝きみの部屋から僕が出てくるところをみんなに見られたらどうするんだ」なんて言って来てくれないくせに、たまに、環がおとなしく眠っている時にそっと忍び込んで、勝手に添い寝してくる。ついでに時刻を確認したら、なんと、明け方の四時五十分だった。今日は十時に起きればいいから二度寝してしまおう。五時間は二度寝できる。
勝手に添い寝されていることには驚いたが、わざわざ起こすのは忍びない。それに、年上のかわいい恋人に添い寝されて嬉しくないわけがないので、すやすや眠っている壮五のことはこのまま寝かせてやることに決めた。壮五が何時に起きるつもりかは知らないが、日頃から五分前行動を心がけているくらいだから、きちんとアラームを設定していることだろう。環はそう結論付けた。あまりぐだぐだと考えていては二度寝の時間が減ってしまう。可及的速やかに眠らなくてはもったいない。
ただ、せっかく来てくれているのだからと、布団の中で壮五の身体を抱き寄せた。眠る部屋が別々とはいえ、それ以外の時間はほとんど一緒に過ごしていて、洗濯洗剤なんかも同じものを使っているのに、壮五はいつもやわらかくて甘い香りがする。だから、甘いものが好きな環は、壮五を抱き締めて眠るのが好きだ。ほら、今だって、とても優しくてやわらかくて、甘い香りがする。
「……ん?」
いつものぺらぺらな寝間着の手触りじゃない。環はがばりと身体を起こし、勢いよく掛け布団をめくった。ぺらぺらの寝間着ではなく、壮五が着るには明らかにサイズが合っていないシャツだ。見たことがある。というか、これは。
「あんた、なにしてんの……」
見たことがあるもなにも、これは環のお気に入りのシャツだ。撮影で着たもので、壮五が似合う似合うと今までにないくらい褒めるものだから、これを着ると喜んでくれるのかと嬉しくなって、壮五と相談した結果、買い取ったばかりのもの。
そのままじっと壮五の寝顔を観察し、あることに気付いた。
環はゆっくり身を屈め、壮五の耳許に唇を寄せる。いつもより低いトーンで、たっぷりと色を含ませて言った。
「……起きてんだろ」
しばらくの沈黙。スマートフォンに目を遣ると、ホーム画面に表示されているデジタル時計の時刻が、ちょうど一分進む瞬間だった。あぁ、もうすぐ五時じゃん。こうしている間にも、二度寝できる時間が減っていく。
「………………ばれちゃったか」
しらばっくれるつもりだったのか、じっとしていた壮五だったが、次第に唇を震わせ、ついには降参したらしい。
「あったりまえじゃん。んで、なにこれ」
環の質問にすぐには答えず、壮五は身体を起き上がらせた。赤ちゃん電気の中でも、壮五の目付きが、日中に外で見るものと違うことがわかる。あぁ、これ、やばいやつ。
「なに、って……。この前、雑誌で見たんだ。自分のシャツを着ている恋人の姿が、男性目線では非常にときめくものだって。だから試してみようと思って」
襟ぐりも肩のラインも全然違っていて、身長差があるだけではなく、そもそもの骨格がかなり違うということがよくわかる。袖口なんて、壮五が着ると指先しか出ていない。
「……ボタン留めてなさ過ぎ。パンツ見えてっし」
環はふいと目を逸らした。壮五はシャツのボタンを、上から三番目しか留めていない。鎖骨も、鳩尾から下も、まる見えだ。
「これがいいって情報だったから。……それで、どう? だめ、かな…………」
やっぱりはしたないよね、と壮五は眉を八の字に下げた。今更なにを恥じらっているのだろう。
「だめ、とは、言ってない」
残念だ。せっかく、二度寝のチャンスだったのに。すっかり目が冴えてしまったし、このまま眠るなんて、それこそ、据え膳食わぬは男の恥というやつだ。
薄い腹に手を添え、そこからするすると手を上に滑らせる。
「んっ」
「こーんなエッチな格好して。エッチしたいなら寝る前に言えばいいのに」
そうしたら、環だって張りきって壮五を満足させた。指先でかりかりと乳首を引っ掻くと甘い嬌声がこぼれる。
「ひゃ、……っ、あ、だって、夜は眠ったほうが」
確かに、壮五はいつも「夜更かししないようにね」と口酸っぱく言っている。
「だからってこんなに早く起こしてたら一緒じゃん?」
「一緒じゃ、な……ぁ」
壮五は毎朝、環を起こしながら早起きは三文の徳だと説いていた。環としては、三文の徳なんていらないから、ぎりぎりまで寝かせてくれと布団に潜り込んでいたいのだが、こういう徳……いや、得ならば、大歓迎。
五時間の二度寝のうち、一時間か二時間いちゃいちゃしても、三時間は眠ることができる。今日ばかりは明け方に目を覚ました自分をえらいと褒めてやりたいくらいだ。
「じゃあ、早朝エッチしたいそーちゃんのために、俺、頑張るし」
こんな格好で誘ってきて、本当にエッチな恋人だ。すっかりその気になった下半身を壮五の太腿にぐいぐいと押し付けると、待っていたと言わんばかりに、壮五の瞳がとろりと蕩けた。
(いま、なんじ……)
起き上がるのが億劫で、ぱたぱたと右手を動かしてスマートフォンを探す。眠る前に充電しておくよう口酸っぱく言われていた頃があったから、最近の環はきちんと眠る前にスマートフォンを充電して、枕のすぐ近くに置くようにしている。素晴らしい成長だと褒めてほしい。
「……あ?」
かたい無機質な素材が指先に触れることを想定していたのに、このくすぐってくるものはなんだ。いや、非常に心当たりがある。このふわふわとした、やわらかい毛……。ちなみに、きなこはふわふわではなく、もふもふなので、違うやわらかさだ。
覚悟を決めて首を右に傾け、ゆっくりと目を開く。どうか、予想が当たっていませんように。
――しかし、現実とは非情なもので、こういう時ほど、予想が当たってしまうようにできている。
「なんでいんだよ……」
掛け布団の下では両腕をぴしっと身体に沿わせているんじゃないかと思うほどきれいな体勢。眠っている時まできっちりしているなんて、一種の才能だ。環は、自分には絶対にできないなと思う。
こちらからねだった時には「翌朝きみの部屋から僕が出てくるところをみんなに見られたらどうするんだ」なんて言って来てくれないくせに、たまに、環がおとなしく眠っている時にそっと忍び込んで、勝手に添い寝してくる。ついでに時刻を確認したら、なんと、明け方の四時五十分だった。今日は十時に起きればいいから二度寝してしまおう。五時間は二度寝できる。
勝手に添い寝されていることには驚いたが、わざわざ起こすのは忍びない。それに、年上のかわいい恋人に添い寝されて嬉しくないわけがないので、すやすや眠っている壮五のことはこのまま寝かせてやることに決めた。壮五が何時に起きるつもりかは知らないが、日頃から五分前行動を心がけているくらいだから、きちんとアラームを設定していることだろう。環はそう結論付けた。あまりぐだぐだと考えていては二度寝の時間が減ってしまう。可及的速やかに眠らなくてはもったいない。
ただ、せっかく来てくれているのだからと、布団の中で壮五の身体を抱き寄せた。眠る部屋が別々とはいえ、それ以外の時間はほとんど一緒に過ごしていて、洗濯洗剤なんかも同じものを使っているのに、壮五はいつもやわらかくて甘い香りがする。だから、甘いものが好きな環は、壮五を抱き締めて眠るのが好きだ。ほら、今だって、とても優しくてやわらかくて、甘い香りがする。
「……ん?」
いつものぺらぺらな寝間着の手触りじゃない。環はがばりと身体を起こし、勢いよく掛け布団をめくった。ぺらぺらの寝間着ではなく、壮五が着るには明らかにサイズが合っていないシャツだ。見たことがある。というか、これは。
「あんた、なにしてんの……」
見たことがあるもなにも、これは環のお気に入りのシャツだ。撮影で着たもので、壮五が似合う似合うと今までにないくらい褒めるものだから、これを着ると喜んでくれるのかと嬉しくなって、壮五と相談した結果、買い取ったばかりのもの。
そのままじっと壮五の寝顔を観察し、あることに気付いた。
環はゆっくり身を屈め、壮五の耳許に唇を寄せる。いつもより低いトーンで、たっぷりと色を含ませて言った。
「……起きてんだろ」
しばらくの沈黙。スマートフォンに目を遣ると、ホーム画面に表示されているデジタル時計の時刻が、ちょうど一分進む瞬間だった。あぁ、もうすぐ五時じゃん。こうしている間にも、二度寝できる時間が減っていく。
「………………ばれちゃったか」
しらばっくれるつもりだったのか、じっとしていた壮五だったが、次第に唇を震わせ、ついには降参したらしい。
「あったりまえじゃん。んで、なにこれ」
環の質問にすぐには答えず、壮五は身体を起き上がらせた。赤ちゃん電気の中でも、壮五の目付きが、日中に外で見るものと違うことがわかる。あぁ、これ、やばいやつ。
「なに、って……。この前、雑誌で見たんだ。自分のシャツを着ている恋人の姿が、男性目線では非常にときめくものだって。だから試してみようと思って」
襟ぐりも肩のラインも全然違っていて、身長差があるだけではなく、そもそもの骨格がかなり違うということがよくわかる。袖口なんて、壮五が着ると指先しか出ていない。
「……ボタン留めてなさ過ぎ。パンツ見えてっし」
環はふいと目を逸らした。壮五はシャツのボタンを、上から三番目しか留めていない。鎖骨も、鳩尾から下も、まる見えだ。
「これがいいって情報だったから。……それで、どう? だめ、かな…………」
やっぱりはしたないよね、と壮五は眉を八の字に下げた。今更なにを恥じらっているのだろう。
「だめ、とは、言ってない」
残念だ。せっかく、二度寝のチャンスだったのに。すっかり目が冴えてしまったし、このまま眠るなんて、それこそ、据え膳食わぬは男の恥というやつだ。
薄い腹に手を添え、そこからするすると手を上に滑らせる。
「んっ」
「こーんなエッチな格好して。エッチしたいなら寝る前に言えばいいのに」
そうしたら、環だって張りきって壮五を満足させた。指先でかりかりと乳首を引っ掻くと甘い嬌声がこぼれる。
「ひゃ、……っ、あ、だって、夜は眠ったほうが」
確かに、壮五はいつも「夜更かししないようにね」と口酸っぱく言っている。
「だからってこんなに早く起こしてたら一緒じゃん?」
「一緒じゃ、な……ぁ」
壮五は毎朝、環を起こしながら早起きは三文の徳だと説いていた。環としては、三文の徳なんていらないから、ぎりぎりまで寝かせてくれと布団に潜り込んでいたいのだが、こういう徳……いや、得ならば、大歓迎。
五時間の二度寝のうち、一時間か二時間いちゃいちゃしても、三時間は眠ることができる。今日ばかりは明け方に目を覚ました自分をえらいと褒めてやりたいくらいだ。
「じゃあ、早朝エッチしたいそーちゃんのために、俺、頑張るし」
こんな格好で誘ってきて、本当にエッチな恋人だ。すっかりその気になった下半身を壮五の太腿にぐいぐいと押し付けると、待っていたと言わんばかりに、壮五の瞳がとろりと蕩けた。