村一番の美人は藤の花の妖精
*2021年誕生日企画『アイハケ!~アイドル、派遣します!~』の、一織の誕生日にサポートゲストをした環の衣装×壮五の誕生日の壮五本人の衣装による〝本当に接点はない、完全な捏造〟
荘胡村一番の美人と噂のその人は、まじめで、働き者で、皆からの人気者でした。音頭を取り、歌とともに苗を植える早乙女。彼の美しい歌声のおかげか、米は甘みがあって美味しいと評判で、愛七城の殿様が、食べてみたいと言い出したのです。
荘胡村まで出向く? ――いやいや、荘胡村から持ってこさせよう。ついでに、村一番の美人とやらも見てみたい。
しかし、愛七城から荘胡村までの道は険しく、そう簡単に来られるものではありません。途中で賊にでも遭遇されたら、米も、美人も拝めない。考えた殿様は、愛七城の従者――名を、ヨツヨツ蔵という――を、迎えに行かせることにしました。
◇
村一番の美人といわれる彼には、なにやらとてつもない秘密があるらしい――荘胡村でまことしやかに囁かれている噂です。
まじめで、働き者で、気立てもいい。荘胡村の特産品でもある『ナナツイロ』の米に興味を抱いた愛七城の殿様が米を持ってくるようにと命じた時も、彼は遠い道のりにいやな顔ひとつせず、迎えにきたという愛七城の従者・ヨツヨツ蔵とともにたくさんの米俵を献上しに行ってくれました。その年の収穫の半分近くを献上してしまったのは大きな痛手でしたが、米の味を気に入った殿様が支援をしてくれるようになったおかげで、翌年から荘胡村の者はたいへん豊かな暮らしができるようになりました。
しかし、いいことばかりではありません。村一番の美人である彼が、頻繁に出かけるようになったのです。それも、愛七城の従者とともに。
あたりが薄暗くなったのを確かめ、壮五は市女笠をはずしました。
「ここでいいのかな」
「そう」
ヨツヨツ蔵に預けていた持ち枝を受け取ると、壮五はそれをくるくるとまわします。するとどうでしょう、早乙女の衣装に身を包んでいた体が、みるみるうちに変わっていきます。ぴょこんと生えた黒の猫耳、そこに絡みつく華奢なリボン。そのリボンが結ばれた瞬間、ちりんと音が鳴りました。
「わざわざ変身するの、やっぱり恥ずかしいんだけど……」
藤の花の妖精――それが、壮五の秘密。
「でもさー、それじゃないと百パーセントの力出ねえじゃん」
「うぅ……」
「あのな、俺だっておんなじような格好しなきゃなの、結構恥ずかしいんだぜ」
壮五が藤の花の妖精に返信すると、ヨツヨツ蔵の姿も、忍者から別の姿へと変わるのです。藤の花の妖精としての力を使っている時、壮五は無防備になってしまう。その壮五を守る護衛の証として、彼の髪には藤の花が飾られています。
「ねぇ、ヨツヨツ蔵」
「こら、今は違うだろ」
「……環くん」
ヨツヨツ蔵というのは忍としての名で、本当は四葉環というそうです。
荘胡村は豊かになったものの、愛七城が治める他の村には問題が山積みで、それらを解決するのが二人の仕事です。この時だけは、愛七城の従者と荘胡村の早乙女ではなく、ただの四葉環と逢坂壮五になれる――愛七城の殿様と仲間たち以外には話せないこの仕事を引き受けることにしたのは、それが理由でした。
「じゃあ、今夜も始めようか」
持ち枝を軽く振り、ステップを踏むと、壮五の動きに合わせて鈴が鳴ります。彼が歩いたそばから様々な花が咲き、大地が光を帯び始めました。これが、藤の花の妖精としての、壮五の力です。
今夜の舞を終え、さて今からなら明け方までには荘胡村に帰れそうだなと、変身を解きました。
「帰んの? 送ってく」
「慣れた道だし、夜目も利くから大丈夫だよ」
「俺が送りたいの。格好つけさせろよ」
当たり前のように隣に並んだ環が、壮五の手を握ってきます。
「ちょっと、外だよ」
「こんな真夜中に見るやついねえって」
繋いだところから環の体温や恋情が伝わってきて、壮五の鼓動はとくとくと速さを増していきます。
「だめ。……帰りたくなくなっちゃう」
環はヨツヨツ蔵として、愛七城の従者でいなければならない。壮五は、荘胡村の早乙女として、これからも村に貢献しなければならない。一緒にいられる時間なんて、ほんのわずかなのに、これ以上、好きになりたくない。――夜にとけた壮五の声が今にも泣き出しそうで、環は繋いだ手に力を込めました。
荘胡村一番の美人と噂のその人は、まじめで、働き者で、皆からの人気者でした。音頭を取り、歌とともに苗を植える早乙女。彼の美しい歌声のおかげか、米は甘みがあって美味しいと評判で、愛七城の殿様が、食べてみたいと言い出したのです。
荘胡村まで出向く? ――いやいや、荘胡村から持ってこさせよう。ついでに、村一番の美人とやらも見てみたい。
しかし、愛七城から荘胡村までの道は険しく、そう簡単に来られるものではありません。途中で賊にでも遭遇されたら、米も、美人も拝めない。考えた殿様は、愛七城の従者――名を、ヨツヨツ蔵という――を、迎えに行かせることにしました。
◇
村一番の美人といわれる彼には、なにやらとてつもない秘密があるらしい――荘胡村でまことしやかに囁かれている噂です。
まじめで、働き者で、気立てもいい。荘胡村の特産品でもある『ナナツイロ』の米に興味を抱いた愛七城の殿様が米を持ってくるようにと命じた時も、彼は遠い道のりにいやな顔ひとつせず、迎えにきたという愛七城の従者・ヨツヨツ蔵とともにたくさんの米俵を献上しに行ってくれました。その年の収穫の半分近くを献上してしまったのは大きな痛手でしたが、米の味を気に入った殿様が支援をしてくれるようになったおかげで、翌年から荘胡村の者はたいへん豊かな暮らしができるようになりました。
しかし、いいことばかりではありません。村一番の美人である彼が、頻繁に出かけるようになったのです。それも、愛七城の従者とともに。
あたりが薄暗くなったのを確かめ、壮五は市女笠をはずしました。
「ここでいいのかな」
「そう」
ヨツヨツ蔵に預けていた持ち枝を受け取ると、壮五はそれをくるくるとまわします。するとどうでしょう、早乙女の衣装に身を包んでいた体が、みるみるうちに変わっていきます。ぴょこんと生えた黒の猫耳、そこに絡みつく華奢なリボン。そのリボンが結ばれた瞬間、ちりんと音が鳴りました。
「わざわざ変身するの、やっぱり恥ずかしいんだけど……」
藤の花の妖精――それが、壮五の秘密。
「でもさー、それじゃないと百パーセントの力出ねえじゃん」
「うぅ……」
「あのな、俺だっておんなじような格好しなきゃなの、結構恥ずかしいんだぜ」
壮五が藤の花の妖精に返信すると、ヨツヨツ蔵の姿も、忍者から別の姿へと変わるのです。藤の花の妖精としての力を使っている時、壮五は無防備になってしまう。その壮五を守る護衛の証として、彼の髪には藤の花が飾られています。
「ねぇ、ヨツヨツ蔵」
「こら、今は違うだろ」
「……環くん」
ヨツヨツ蔵というのは忍としての名で、本当は四葉環というそうです。
荘胡村は豊かになったものの、愛七城が治める他の村には問題が山積みで、それらを解決するのが二人の仕事です。この時だけは、愛七城の従者と荘胡村の早乙女ではなく、ただの四葉環と逢坂壮五になれる――愛七城の殿様と仲間たち以外には話せないこの仕事を引き受けることにしたのは、それが理由でした。
「じゃあ、今夜も始めようか」
持ち枝を軽く振り、ステップを踏むと、壮五の動きに合わせて鈴が鳴ります。彼が歩いたそばから様々な花が咲き、大地が光を帯び始めました。これが、藤の花の妖精としての、壮五の力です。
今夜の舞を終え、さて今からなら明け方までには荘胡村に帰れそうだなと、変身を解きました。
「帰んの? 送ってく」
「慣れた道だし、夜目も利くから大丈夫だよ」
「俺が送りたいの。格好つけさせろよ」
当たり前のように隣に並んだ環が、壮五の手を握ってきます。
「ちょっと、外だよ」
「こんな真夜中に見るやついねえって」
繋いだところから環の体温や恋情が伝わってきて、壮五の鼓動はとくとくと速さを増していきます。
「だめ。……帰りたくなくなっちゃう」
環はヨツヨツ蔵として、愛七城の従者でいなければならない。壮五は、荘胡村の早乙女として、これからも村に貢献しなければならない。一緒にいられる時間なんて、ほんのわずかなのに、これ以上、好きになりたくない。――夜にとけた壮五の声が今にも泣き出しそうで、環は繋いだ手に力を込めました。