TAMASO-CHALLENGE_30DAYS

DAY1 手をつなぐ

 初めて手を繋いだのはMV撮影。当然ながら仕事を選べる立場にない僕たちは、こういう路線でいくなら仕方ないと受け入れるしかなかった。
 出会った日みたいに静電気が起きるんじゃないかとひやひやする気持ちは、IDOLiSH7のデビューのために我慢しろと宥めたものだ。
 あれから少し経って――具体的には、デビューしたての頃よりは〝断れる仕事〟がほんの少しできたあたりから――今度は別のひやひやに苛まれるようになった。
 緊張で手汗がひどくなってない? どきどきし過ぎて手が熱いのを、体調不良だと誤解されない?
 気になることだらけだけど、全神経を手に集中させているのを悟られるのだけはいやで、僕は今日も必死に澄ました顔をしている。

DAY2 抱きしめる

 お付き合いって、なにをどうしたらいいかわからなくて難しい。だから、ちょっとおしゃべりするのと、うまく言葉にしきれない気持ちをハグに代える時間をつくることにした。

 最近は、眠る前にスマートフォンを充電するくらいの感覚で部屋に行くようになった。本人に言ったら難しい顔で「僕はスマホか?」なんて聞かれたけど、ちゃんとわかって言っているんだろうか。
 一日の終わりに好きな人を抱き締めたら、疲れもなにもかも吹き飛んで、優しい気持ちが自分の中に蓄積されていくだろ。そうなりたくて、こっちが充電される側のつもりで抱き締めていたのに、もしかして、向こうも同じってこと?

DAY3 ゲームをする/映画を見る

 部屋を訪ねたら、彼はゲームの真っ最中。あと三十秒で終わるとの言葉に、少し離れて待つ。
 結構クセになるこの効果音は、彼が自室でゲームをしている時にしか聴けない。移動中は画面に集中しづらいとかでゲームをしないし、楽屋ではいつ誰が来てもすぐ対応できるよう消音で遊ぶ。
 以前はイヤホンを使っていたけれど、スタッフの呼びかけに気付くのが遅れてからは、イヤホンをしなくなった。
 そういえば、リビングでも、他の人がいる時は音を出さなくなったっけ。
 自由なようでいて、人一倍、周りを見ている。僕が好きになった人は、そういう子なんだ。
 彼のいいところを改めて噛み締めていたら、三十秒をとうに過ぎて、ゲームを終わらせた彼の意識がすべてこちらに向いていた。

DAY4 デートに行く

 明日は久しぶりに重なった丸一日のオフ。厳密に言うと、恋人になってから初めて重なったオフ。手を握ったりハグをしたりの、仕事でやるレベルの触れ合いでいっぱいいっぱいとはいえ、いい雰囲気になるかもと期待せずにはいられない。これが、付き合いたてほやほやってやつ。
 どうしても特別な一日にしたくて、いつもなら適当に決める予定も、誰かさんみたいにプレゼン資料をつくってみた。
 といっても、二人でいられるのにデメリットなんてないから、レポート用紙に行きたいところを書いただけの簡単なやつ。悩みまくったわりには、行きたい場所も今までと同じようなところだし。
 でも、書き上がったレポート用紙を見せたら、めっちゃ小さな声で「デートのお誘いありがとう」って言われて、心臓が変な声を上げた。こんなの、期待しちゃうじゃん。

DAY5 キスをする

 部屋に戻ったあともレポート用紙に書かれた内容を噛み締めていたら、なかなか寝付けなかった。眠気に負けてもいいかなと思えたのは明け方近く。
 初めてのデートにもかかわらず、少しだけ寝坊してしまって、身支度の時間がたりなかった。
 寝坊なんて珍しいって言うけれど、誰のせいだと思っているんだろう。こんなに一生懸命に恋をされて、普段のきみみたいな〝おやすみ三秒〟なんてできるわけがない。
 ちょっとした意趣返しのつもりで、デート中、彼にだけ聞こえる声量で甘い言葉を吐きまくった。
 いちいち照れるのがかわいくて、いつかの彼みたいに「ざまあみろ」って言ってやった。僕のことで頭がいっぱいだろ、ざまあみろ。
 それがだめだったらしい。寮に帰るなり部屋に連れ込まれて、唇の感覚がなくなりそうなくらい何度もキスをされた。……初めてだったのに。

閑話休題

 デート中にまで振り回される悔しさが積もり積もったタイミングでの「ざまあみろ」に、完全にキレた。そんなことしなくても、俺の頭の中はとっくにそーちゃんのことでいっぱいなのに。だから、告白したのに。
 恨みがましく「初めてだったのに」なんて言われたから、こっちも初めてだよ、なんならこういう気持ちも初めてだよって言い返して……初デート終えたてなのに言い合いになったのは、お互い負けず嫌いだからだ。似ていても似ていなくても、ケンカをする時はする。
 でも、手を繋いだりハグをしたりというのにも緊張していたこの人に、いきなりこういうことをしたのはよくない。そこはきちんと謝らなきゃ。
 怖いと思った? もう、手を繋ぐのもやめたほうがいい? 背中にいやな汗を滲ませて訊いたら「びっくりしたけれど、それ以上にどきどきして、嬉しかった」だって。

DAY6 衣装交換

 体格のいい恋人が羨ましくて、彼が学校に行っている隙に、部屋に忍び込んだ。畳んだ洗濯物を仕舞うふりをしてクローゼットを開け、自分よりワンサイズ大きなTシャツを拝借する。
 洗濯済みのものなのに、シャツの裏地が肌に触れただけで、彼が肌に触れてくれる想像までしてしまう。
 どんなふうに見えるのかと部屋にある姿見のほうを振り返ろうとして――
「なにしてんの?」
 ――視界の端に今だけは捉えたくないものを捉えてしまった。
 慌てて見なかったふりをしてみたけれど、どう頑張ったっていいわけなんてできっこない。どうしよう。
「えっと……俺、代わりにそーちゃんのシャツ着たほうがいい?」
 そういうことじゃない!

DAY7 コスプレ

 七星学園の学園祭以来、環くんの中で学生ごっこがブームらしい。昨日も「四葉先輩って言って」とねだられた。もしかして、イメージプレイに興味があるんだろうか。そういう方面には疎いと思っていたんだけれど、まだまだ彼への理解がたりなかったのかもしれない。
 興味があるなら、言葉遊びだけじゃなくて、外見も整えたほうがいいに決まっている。この前は失敗したけれど、今度こそは。……そう思って、彼の入浴中に部屋に忍び込み、制服の上着を拝借した。
 袖は長いし、肩幅も合わない。着られている感が拭えない悔しさも一緒に着込んで、聞き慣れた足音が近付いてくるのを待つ。

「なにしてんの?」
 予想と違う冷静な反応に面食らう。こういうの、好きじゃない? 僕の読みが外れたのかな。
「かわいいとは思うけど、なにしてんの?」

DAY8 買い物

 今日の収録のあとは、自分たちで帰ることにした。
 バンちゃんに「迎えはいらない」って言ったら、いつもより念入りに変装するんだよとか、楽しい時期とはいえ周りの目には気を付けてねとか言われたあたり、デートだと思われたみたい。付き合い始めてすぐに事務所に報告したからだろうな。
 大雑把に分類すれば買いものデートだけれど、今日のミッションは、みんなで選んで予約した誕生日ケーキの受け取り。
 大事な大事なMEZZO”のマネージャーの誕生日だから、MEZZO”がいろんなことを仕切らせてもらうことになっている。
 でも、寮で待っているみんなに怒られない程度に、少しだけ遠回りして帰るつもり。

DAY9 友達とみんなで遊ぶ

 メンバーのみんなも、季節限定のハンバーガーを食べたいらしい。この人数でイートインは厳しいものがあるから、今日の夕飯に手づくりすることになった。
 買い出しはこれからなのにもう既に楽しくて、いつもお世話になっている先輩方やライバルたちとのグループチャットに浮かれ半分、自慢半分で投稿してみたら、何人かからリアクションがあった。
 仕事帰りに行くとか、食べに行きたいとか書かれてある。餃子パーティーの時みたいだ。
 このあともくるであろう返信の数を考えたら、たくさん買わないといけない気がしてきた。

 二人で買い出し係を引き受けたのは、スーパーと寮の往復だけでもデートがしたかったからだ。
 帰ったら、バーガーパティと目玉焼きをいくつも焼いて、中秋の名月には一日早い、お月見パーティーだ。

DAY10 獣耳

 スマートフォン内のデータを整理していたら、ある写真を見つけてしまって、思わず、ぎょっとした。メンバーがこっそり撮っていた、撮影の合間の自分たちだ。
 そういえば「出会った頃には考えられなかったような顔が撮れたから見てみろ」と送られてきたんだっけ。あのあとすぐにMEZZO”何十回目かの喧嘩をして、写真を見る余裕がないまま、他の写真でフォルダが埋まっていったんだった。
「懐かしいな……」
 白雪姫でもシンデレラでもない赤ずきんを甘い視線で見つめるのは、王子様なんかじゃない狼人間。見つめられていた自分は気付かなかったけれど、もしかして、この時には、もう、恋をされていたんだろうか。

DAY11 きぐるみを着て

 宅配便で送られてきた箱の荷札。差出人に『岡崎事務所のRe:vale』、箱の中身は――品名欄に『怪獣パーカー』って書いてあって――わかるから、なんだろなゲームは開催なしだ。中には、品名欄どおりのものに、新バージョンができたから、ぜひとも試着してほしいというメモが添えてあった。
 いらずら心が湧いてきて、部屋に駆け込んで素早く着替える。元々、これから部屋に行く約束だったし、びっくりさせてやろう。
 隣室のドアを行儀よくノックする。怪獣ポーズの準備は万端。……あっ、開いた。
「がおー! タマキザウルスが襲いに来たぞー!」
「いいよ」
 えっ? ……え?

DAY12 いちゃいちゃする

 恥ずかしいから知らないふりをしているだけで、好きな人とのそういうことに対する興味は普通にある。
 だから、完全おふざけモードの襲うぞに「いいよ」って返されて、びっくりした。
 いいよって、今? いや、さすがに今はないだろ。だって、あれとかそれとかいるだろ。――言葉に詰まっていたら、あたりまえみたいに部屋に連れ込まれた。
「どうして、あの日以来、キスしてくれないの」
 そーちゃんに詰め寄られた動揺で喉が渇く。
 あのあと、自分のやったことがめちゃくちゃ恥ずかしくなったからだよ。興味はあるけれど、恥ずかしさが勝っているうちは、行動に移すつもりはない。

 でも、その答えじゃだめだったみたい。
 口の周りがべたべたになって立てなくなるまで、解放してもらえなかった。
 この、エロエロバイオレットめ!

DAY13 アイスクリームを食べる

 付き合っていることを事務所に報告した時に。メンバーには自分たちから話すと言ったものの、照れくささが拭えなくて、実はまだ言えていない。
 照れくささと、惚気話への憧れ。好きな人とのことを自慢したい気持ちと、あの人がかわいいことを誰にも教えたくない気持ち。心の中でゆらゆらしていた天秤を傾けたのは、友情っていう錘だった。いつまでも隠していると、なんか心が落ち着かない。そろそろ打ち明けたいって相談したら、あの人も同じ気持ちだった。
 場を和ませられるよう、期間限定うさみみフレンズコラボのアイスを買っておいた。
 どうやって話そうかな、びっくりするだろうな。

閑話休題

 めっちゃ叱られた。メンバー同士で付き合っていることにじゃなくて、隠せているつもりだったことを。私たちを見くびらないでくださいって言われた。
 結構気を付けていたのに、それでもだだ漏れだったなんて、この先、みんなに迷惑をかけてしまうことになったらどうしよう。もちろん、今まで以上に気を付けるけれど。
「外では慎重に。今のところはうまくやれていると思います。あってほしくないですが、もしもの時は」
 皆で守りますだって。こんなに頼りになるやつ、他にいないと思う。気を引き締めなきゃ。
 嬉しくなったから、今度、ゲーセンでろっぷちゃんのぬいぐるみ取ってやろうか? って訊いたら、別にほしくありませんってそっぽ向かれた。

DAY14 性転換

「たとえば僕が女の子だったらどうする?」って訊かれて「はぁ?」って返してしまった。
 性別がどうとか、考えたことがなかった。意識するようになって、誰にも取られたくなくて……二人とも同じことを考えているのがわかったから、今の関係になったんじゃん。
 それなのに、女の子だったらそもそも出会っていないよねなんて言う。答えに窮していると、でも、女の子だったら恋人の時間を増やせたかもねって言葉が続いた。
 もっと恋人っぽくしたいってことか訊いたら、そういうわけじゃなくてただのたとえ話だから気にしないでって別の話に変わった。
 なにが言いたかったのかわからないのが、さみしくて、怖い。

DAY15 いつもと違う服で

 初めから恋をするために出会っていたら、もっと深いところまで触れ合えるのかもしれない。相方から始まったから、キスが限界なのかも。
 感傷的になっていたのか、おかしなことを言ってしまった。困らせたのがわかったから、たとえ話だよと笑って――探るような視線を感じつつ――別の話題で強引に誤魔化した。次のオフに秋物の服を買いに行こう、いつもと違う雰囲気のを着てみたいからお互いに選び合うのはどうかななんて、本当に誤魔化し方がへたくそだ。

 以前はこちらが打ち明けるまで許してくれなかったけれど、今は、待ってくれる。
 ありがたいと感じつつ、喉に手を突っ込んででも言葉を引きずり出してくれたらいいのにと身勝手なことも思う。

DAY16 添い寝

 眠る前におしゃべりをするのも楽しいけれど、一度くらい、そのまま朝まで一緒に過ごしてみたい。恐る恐るお泊り会を提案してみたら、意外にもOKをもらえた。
 期待するような展開なんて起こらないとわかっていても傍にいられるのが嬉しくて、しゃんとした顔ができなくなった自覚がある。お泊まりのお伺いを立てたのが仕事を終えたあとでよかった。

 入浴を済ませてもうあとは寝床を整えるだけになった状態で、三階の空き部屋に来客用の布団を取りに行こうとしたら、環くんに止められた。
 そのまま手を引かれて、向かったのは、僕の部屋。
 窓に近いほうへと僕を横たわらせ、環くんがするりと潜り込んでくる。びっくりしている間に、環くんは「おやすみ」とだけ言って目を閉じてしまった。
 ……こんなの、僕は眠れやしないよ。

DAY17 寝起き・朝の支度

 どきどきして眠れなかったのは初めのうちだけ。人のことを抱き枕代わりにする彼の体温が心地よくて、いつの間にか眠っていた。睡眠時間だけ見ればいつもより一時間ほど短いのに、ものすごく眠れた気がする。
 でも、こんなにくっついているんだから、やっぱり、恋人じゃないとできないことがしたいよ。
「環くん、ね、環くん起きて」
 身を捩って腕の拘束がゆるんだ隙に、耳にキスをしてしまいそうなくらい顔を寄せる。寝顔は見慣れているけれど、こんな起こし方はしたことない。
 恐る恐る、彼の腰に触れた。逃げられる? 怒られる? 怖がられる? でも、添い寝までしておいて期待するなっていうほうが、無理がある。
「起きないと、……」

DAY18 好きな事をする

 お泊まり会でソッコー眠った罰だとかで、そーちゃんにいっぱいくすぐられた。
 でも、俺ってくすぐられても、むずむずするなぁってレベルなんだよな。こういうのは、そーちゃんのほうが弱いと思う。
 一応、覚悟は決めていたつもりなのに、ベッドに入った瞬間に日和って、おやすみ三秒の力を発揮してしまった。そこは、そーちゃんに素直に白状して、ごめんなさいもした。
 そうしたら、なんて言ったと思う? すぐに眠られたのがつまらなかったから、今日は一日、この部屋で好きなことをしようだってさ。ゲームでも読書でも音楽鑑賞でもいいから、引きこもって二人で楽しむんだって。
 正直、そういうことをしたいって迫られるかもって思ったから、びっくり半分、がっかり半分。
 ……がっかりってことは、俺も、そういう心の準備ができつつあるってことなのかな。

DAY19 正装

「あ」と漏れた声が思った以上に響いて、咄嗟に口を覆った。気にしているのがばれないよう視線だけで隣を見遣る。……よかった、まだ眠っているみたい。
 最近忙しくしていたそーちゃんは、やっぱり疲れが溜まりまくっていたみたいで、部屋デートの途中で睡魔とのバトルを始めた。半ば無理矢理ベッドに押し込んだものの、目が醒めた時に一人だとさみしいだろうから、俺はそーちゃんの部屋でテレビをぼんやり眺めたり、スマホをいじったりしている。
 あのCM、この番組で見られるんだ。そーちゃんがきっちりした格好で、ラビッターで「王子様みたい」って騒がれていたっけ。
 そーちゃんは確かに格好いい。でも、寝顔はめっちゃかわいいよ。みんな知らないだろうけれど。

DAY20 一緒に踊る

 事務所内のレッスンルームにあるグランドピアノはそーちゃんのお気に入りのひとつだ。
 そーちゃんがピアノを弾けるのは、小さな頃に教養として習わされていたからなんだって。でも、心の底からもっと音楽を知りたいと思った時には、もう、別の習いごとをさせられていたらしい。
 今はそーちゃんの音楽を止めるやつなんていないよって言ったら「耳を貸さなくなっただけで、止めたがってる人はいるよ」ってさみしそうに笑った。
 俺は、そういうのからもこの人のことを守るって決めている。弱いからじゃなくて、戦ってほしいから、その助っ人だ。
 さみしそうな顔をさせてしまったのが悔しくて、そーちゃんの手を取った。そーちゃんが弾くピアノもあとで聴きたいけれど、まずは俺と一緒に踊って、楽しい気持ちになって。

DAY21 料理/お菓子作り

 今日の夕食当番は大和さん。今夜はおでんらしい。
 こんにゃく、大根、餅巾着、ゆでたまご、ちくわ、はんぺん……七人となると具材をたくさん用意しなければならないから大変だ。部屋でのんびりしていた環くんを呼んで、二人で大和さんを手伝うことにした。
 途中、ナギくんと陸くんのラジオが始まる時間だと気付き、慌ててラジオアプリを起動させる。……〝リアタイ視聴は信者のタスク〟ってね。僕たちはメンバーの個々の仕事も応援する信者だから。
 メンバーの声を聴きながら二人でゆでたまごの殻を剥いていると、大和さんが感慨深げな顔でこちらを見つめてきた。
「MEZZO”くんたち、すっかりいい雰囲気だなぁ」
 環くんはゆでたまごを落とし、僕も手もとが狂って白身ごと剥いてしまった。なんてことを言うんだ、この人は。

DAY22 肩を並べて戦う

 久しぶりに七人全員でのバラエティ番組出演オファーがきた。宣伝を兼ねたチーム対戦式のもので、得点に応じて番組宣伝の時間が多くもらえるものだ。
 クイズ面は一織くんと僕、体力面は三月さんと環くんが点数を稼ぐ――という作戦会議を立てていたのだけれど、今季は〝番組側が指定したメンバーがそのコーナーに挑戦する〟ルールが追加されていて、MEZZO”としての撮れ高を期待されているのか、他の出演者とテニスのダブルスで対決することになった。
 歌やダンスでは息が合う僕たちだけれど、こういうところはまだまだ合わないらしく、結果は惨敗。もっと精進しなくちゃ。

DAY23 言い争い

 いつも部屋に来てくれるから、たまにはこちらから部屋に行こうとしたら、全力で止められた。部屋がぴかぴかじゃないからだめなんだって。
 普段から、それこそお付き合いをする前から、部屋はきれいにしたほうがいいって言ってきたのに。
 でも、夜に恋人の部屋に来てくれるということは、いつかは関係を進展させてもいいって思ってくれているってことだよね。もう少ししたら、また、お泊まり会の提案をしようかな。

閑話休題

 俺がそーちゃんの部屋に行くのは、自分のことを誤魔化しとおせるギリギリのライン。
 子守唄歌ってやるとか、甘やかしてもらうとか、ミッションをつくれるから。
 でも、好きな人を自分の寝床に招くのはだめ。好き勝手なことをしてしまいそうだから。心の準備はできつつあるけれど、まだ、最後の覚悟が決められない。

DAY24 仲直り

 昨日、あのあと喧嘩になって、ヤマさんにめっちゃ叱られた。ちゃんと腹を割って話せ、他のやつには聞こえないほうがいい話に進むだろうからできればよそでやってくれとも言われた。全部ばればれなのが恥ずかし過ぎて無理。
 よそでやれって言われてもなぁ、そーちゃんの部屋で話すしかなくねえか? って考えていたら、そーちゃんがスマホでなんかぽちぽちしたあと「行こう」って、俺のことを拉致した。
 そーちゃんに押し込まれたタクシーの中、脳内で行き先クイズ大会をしたものの、正解だと俺の心がいろいろと困る場所が答えだとわかって、もう、降参するしかなかった。

DAY25 お互いを見つめる

 まったく興味がないわけじゃないのに一向に手を出してくれないのは、恥ずかしいとかじゃなくて、単に、そこまでしたくなるほどの魅力が僕にないからなんじゃないか。恋心の温度に差があるんじゃないか。――傷付くことになってもいいから確かめたい。もし、温度差があったとしても、夢中にさせてみせる。そう決めて、環くんを拉致したんだ。

「教えてとは言ったけど、ここまでとは聞いてない……」
 最後まではできなかったけれど、これでもかというほど触れられて、わけがわからなくなってしまった。
 でも、安心したからかもしれない、少し見つめ合っただけで、昨日まではわかりづらかった気持ちまで伝わってくる気がする。

DAY26 結婚する

 ミスター下岡さんのお弟子さんがご結婚されるということで、共演経験のある僕たちもお祝いパーティーに招待いただいた。カジュアルな雰囲気のレストランを一日貸し切ってのものだ。
 環くんからお酒を飲むなと口酸っぱく言われているから、乾杯の時以外はソフトドリンクで我慢した。芸能界でも若手の僕がノンアルコールなんて顰蹙を買うんじゃないかと思っていたけれど、ミスター下岡さんのおかげもあってそのあたりはうまく回避できたと思う。

 帰り道、環くんが「そーちゃんも、ああいうのしたい? 今日のそーちゃん、すごく楽しそうだった」って聞いてきた。
 たくさんの人から理解を得られたら素敵だとは思うけれど、二人でいられたらそれでいいよ。あぁ、でも、二人きりで結婚式を挙げてもいいかもね。……なんて、声にするのは照れくさくて、気付くか気付かないかくらい小さく頷くので精一杯。

DAY27 どちらかの誕生日に

 来年の春、十八歳になる。自分のやることに自分で責任を取らなければならなくなるけれど、自分のことを自分で決められるってことだ。
 そうだ、十八歳になったらなによりもまず車の運転免許がほしい。買い出しで大きめの荷物があってもへっちゃら、バンちゃんやマネージャーにも楽をさせてやりたい。それから、デートもしたい。車があれば、少なくとも移動中は周りの目を気にせずにおしゃべりできる。
 誕生日当日に免許を取ってデート……は難しいかな。
 時間がつくれるかわからない。そーちゃんの誕生日になら車でデートできるかな。
 まだ先のことなのに、大人になってからできるデートを想像してにやにやしてしまう。

DAY28 馬鹿らしいことをする

 レッスンのあと、久しぶりにカラオケに行った。歌はほぼ毎日歌っているけれど、プライベートで他の人の歌を全力で歌う機会って滅多にない。日常のふとした時に口ずさむ程度だ。
 受付を済ませて指定された部屋に向かう途中、環くんがなにかを思い出したような顔をして、通路の途中にあったドリンクバーの前に立ち止まる。いつも寮で飲んでいるみたいに炭酸飲料かなと思ったら――
「ドリンクバーで、一回は味わっとけよな」
「えっ、えっ……」
 ――オレンジジュースにコーラ、アイスティーと、ひとつのグラスに次々と飲みものを注いで混ぜていく。
「……こういうばかみたいなことをさ、たまにはやったほうがいいんだよ」
 このみっつならまぁまぁ飲めるからと手渡された。正直、飲むのは怖いけれど、たまにはこういうのも悪くないかも。

DAY29 可愛らしい事をする

 学校に行って、仕事を全力でこなして、寮に帰ったら学校の課題もなんとか終わらせて、いすみんとゲームのライフを送り合う。王様プリンも食べなきゃだし、そーちゃんとの時間も大事にしたい。
 どれも大切だけれど、たまに、もう疲れたーってじたばたしたくなる日がある。今日がまさにそれで、せっかくそーちゃんが部屋に来てくれたのに、俺はベッドの上で大の字になったままだ。
「うー……」
 早く復活しなきゃと思っていたら、そーちゃんが王様プリンのぬいぐるみを抱えて俺に跨り、王様プリンの腕で俺の頬や頭を撫で始めた。
「この子も、いつも頑張ってる環くんを撫でてあげたいんだって」
 めっちゃかわいいけど、この体勢は普通にやばいと思う。

DAY30 「ホット」な事をする

「もう少し頑張ってみようか」
 そーちゃんの言葉に、今度は恥ずかしがらないって決めた。この前、ホテルに拉致られた時にも途中までしたし、怖くない。
 だから、そんなに怯えた顔しなくていいよ。今度は大丈夫、さみしい気持ちにさせないから。
 もう、ちゃんと、最後の覚悟も決まったよ。


    《ひとこと感想》

     




    この作品は以下のお題をもとに書いたものです

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