プライベート・エステ

ドラマ『恋のかけら』イメージプレイ(ボクサー×美容師ごっこ)

 まだ、環が十七歳で壮五が二十歳だった頃に、MEZZO”の二人がダブル主演することで話題となった『恋のかけら』というドラマがある。彼らの新曲を主題歌とし、楽曲名と同タイトルがドラマにも採用されたのだ。このたび、その『恋のかけら』のスピンオフ作品が劇場版として公開されることとなった。
 このスピンオフ作品は、ボクサー役の環・美容師役の壮五、そして彼らに板挟みとなったヒロインのいずれにも該当しない、環の後輩ボクサーにスポットを当てたものとなっている。ドラマ内で、ヒロインの話に対して適当なアドバイスを繰り広げながらおのれの煮え切らない片想いの愚痴をこぼした友人がいた。彼女は、環の後輩にあたる別のボクサーに憧れており、最終回の放送が終わったあと、視聴者から寄せられる感想の中に「友人の恋はその後どうなったのか」や、ドラマ内では会話でしか登場しなかったそのボクサーについて「どんな人物なのか気になる」というものがあまりにも多かったことから、四年の年月を経て今回の映画化が決定したというわけだ。
 環の後輩ボクサー役を演じる若手俳優の銀幕デビューにもなるということから、この映画での環と壮五の出番は、ドラマ版に比べるとずっと控えめになっている。せいぜい、練習試合のシーンがやや長めにもうけられている程度といったところか。美容師役の壮五に至っては台詞がほんの少ししかない。現在のMEZZO”の知名度を思えば、なんてもったいないという声が聞こえてきそうなものだ。
 しかし、若手俳優の銀幕デビューを成功させるため、ひいては映画の成功のため、トップアイドルの一員となった彼らを脇役で添えてでも集客力をアップさせる必要がある。映画化の話が舞い込んできた際、映画関係者は小鳥遊事務所に頭を下げたらしい。なんでも「あの四葉環と逢坂壮五を脇役扱いしてしまって申し訳ない」とかなんとか。MEZZO”のマネージャーである万理は、若手の大きな仕事を支えることも先輩の仕事だと思っているため、そんなに頭を下げなくてもと恐縮してしまった。

 映画の撮影は順調に進み、劇場版のヒロインに告白することを決めた後輩ボクサーの髪を、壮五演じる美容師が切ってやったシーンも、なんの問題もなく終了した。出演者のスケジュールの都合上、明日は練習試合シーンの撮影が予定されている。環はこのシーンでリングに上がり、試合のあとには控室のシャワーブースで隣のブースにいる後輩ボクサーに喝を入れるといった流れだ。台本でいえば、髪を切りに行く少し前のシーン。
 この映画で彼らの出番はこれだけだが、練習試合後のシャワーシーンはファンサービスと言っていいだろう。今や、抱かれたい男ランキングのトップに君臨した四葉環のシャワーシーンなのだから。監督も、現場をひと足先に去るMEZZO”に向かって「明日は抱かれたい男一位のシャワーシーン期待してるよ!」と声をかけたほどだ。

「抱かれたい男一位つってもな~……がっくんとリュウ兄貴が殿堂入りしてカウントされなくなったからじゃん?」
 ロケ地近くのホテルの部屋に着くなり、環が疲れた声を上げる。
「でも、環くんに魅力があるのは間違いないよ。……僕が言うんだから」
 最後のほうは小さな声となってしまったが、環がそれを聞き逃すはずはなかった。
「……いきなりそういうの、ずりい」
 環が二十一歳となった今も、MEZZO”がホテルに宿泊する際はツインルームだ。成人するまではシングルルームはだめだと言っていた環だが、今は別の理由でシングルルームはだめだと言って憚らない。もっとも、MEZZO”が宿泊する際のホテルを用意するのはマネージャーの万理で、彼はMEZZO”がどういう関係にあるのかを察しているため、特になにかを言われることもなく、今回もツインルームとなっている。
「んっ、……ちょっと、まだコート着たまま」
 非難の声を上げる壮五に構わず、自分よりひとまわり小さい壮五の身体を抱き寄せて、下唇を吸うようにくちづける。コートを着たままだってキスはできるのだ。
「かわいいこと言うからじゃん。……な、そーちゃんの出番撮り終わったし、したい」
 下半身をぐいぐいと押し付けると腕の中の壮五がびくっと身体を跳ねさせた。
「あっ……あ、もう…………」
 スラックス越しに下半身を押し付け合うだけで下着の中が窮屈になってくる。あぁ、気持ちいい。
「な、いいじゃん。俺もうその気だし。そーちゃんも勃ってきた」
「ん、ちょっと待って……」
 必死に身を捩って逃れようとする壮五に、いやよいやよも好きのうちのくせになぁと笑いながら、腕に力を込める。いつもなら、環のおねだりに恥ずかしがりつつも頷いてくれるのだが……。
「~~っ、もう! 待ってってば!」
「うおっ」
 胸を強く押され、弾みで壁に背をぶつけてしまった。デビュー当時に比べれば質のいいホテルに泊まるようになったとはいえ、MEZZO”が宿泊している部屋で彼らが暴れているなんてホテル従業員に知られたらイメージの低下にも繋がりかねない。宿泊先でセックスをする際、ベッドシーツにタオルなどを敷いたり、風呂場で済ませたりするのもそれが理由だ。
「ごめ、……えっと、環くんとするのは、その、やぶさかではないんだけど、せめて明日の準備をしてから……」
「明日の準備?」

 ◇

 今回のホテルは広めで、バスルーム内は洗い場とバスタブが分かれているタイプのものだった。
「一人でできるって……」
「美容師を演じた僕に任せて。……ね?」
 壮五の手に握られているのは剃刀とシェービング剤。明日のシャワーシーンでは臍下のきわどいところまで映るよう撮影されるため、陰毛を少しだけ整えておこうと壮五が言い出した。
「俺、知ってんよ。美容師って、剃る資格ねえの」
 理容師と美容師の違いでもっともわかりやすいところを指摘され、一瞬だけ怯んだものの、壮五は気を取り直してシェービング剤の蓋を開ける。
「いいから。へたに動くと、環くんの大事なところに傷がつくよ」
「びびらせること言うなよ!」
 思わず、股間を手で覆い隠した。互いに身体を洗ったり、バスタブに浸かってキスをしたり、どう考えても甘い雰囲気になっていたはずなのに。
 今夜はこのままここでセックスをするのもいいかもなという期待で勃ち上がっていたペニスも、壮五のそのひとことで萎えてしまった。環のペニスが萎えるとしょんぼりするくせに、今夜の壮五は違う。
「あぁ、手入れをするにあたっては非勃起状態のほうがいいと思うよ。男性器の近くを触るけど、間違っても勃起することのないように、頭の中で素数でも数えてて」
「無茶言うなって……」
 きわどいところを恋人に触られて勃たせないようになんて拷問過ぎる。環はバスルームの天井を見上げ、次いで、手で目許を覆い隠した。日頃信じていない神様に、今だけは手のひらを返して祈りたい。
(どうか、俺のちんこが無事でありますように)
 環の祈りをよそに、壮五はシェービングジェルを環の下腹部に塗り始めた。
「ひっ」
「我慢して。しっかり泡立てて毛を湿らさないと、肌に傷がつくよ」
「は、はい……」
 全剃りするわけではなく、陰毛の上のほうを整えるだけなのに、どうしてこんなにおおごとになっているのだろう。
「……明日、練習試合なんだって?」
「はっ?」
「……いいから、僕に合わせて」
 その言葉で、少し前に壮五が「ボクサーと美容師になりきっていない」と言っていたことを思い出す。一時期、壮五の提案で、仕事で演じた役になりきってセックスをしていたことがあった。先日、懐かしくなってその話題を出したところ、壮五が「ボクサーと美容師はまだだったね」と言い出したのだ。
「ヒロインいんじゃん……」
 いくらイメージプレイとはいえ、恋のライバルであるボクサーと美容師がいちゃつくなんて環には考えられないのだが、壮五によれば「それはそれ、これはこれ」らしい。
 シェービングジェルによってしっとりと湿った陰毛を撫でる壮五の指に感じそうになりながら、環は心の中で「ほんとどうしようもねえやつ」と呟いた。
「さ、用意はできたよ。じゃあ、これから整えていくから、気持ち悪いところがあったら言ってね」
 それは洗髪の時に言う言葉では。股間に顔を寄せた壮五に下腹部を触られるなんて、環にとっては気持ちいいところしかないのだが。勃起してしまわないよう、壮五から視線を逸らし、素数を数えるのは苦手なので、スタッフを怒鳴りつけている映画監督の顔を思い浮かべた。あのおっさん、俺らには優しいけど、スタッフには優しくねえんだよな。
 左手で肌を引っ張っられる感触に次いで、剃刀の刃が当てられた。ゆっくりと肌を滑っていく刃の冷たさに、緊張感が募っていく。
「……ね、気持ち悪いところはないかな」
「ない、ないです……」
 アタッチメントが肌を優しく撫でながら、陰毛をカットしていくのがわかる。
「そ、剃り過ぎんなよ……」
「もちろん。お客様のご希望通りにするのが僕の仕事だからね」
 環にパイパンの趣味はない。シャワーシーンにそなえて陰毛を整えるだけだ。雑誌のグラビアなんかでは、スキニーデニムの前立てを開いて、下着をちらりと見せる格好を求められることが多い。その時に下着のゴムからほんの少しだけ陰毛の生え際が見えている状態が〝抱かれたい男ランキングで一位となった四葉環に求められていること〟なのだ。ほんの少しだけ整えるのに、おおごとにするなんて。しかも、生殺しの状態で。
「明日の練習試合、頑張ってね。僕は仕事だから見に行けないけど」
「えっ? あ、あぁ、うん」
 壮五のシーンは撮り終えているが、撮影現場には顔を出すと言っていた。だからこの言葉は美容師としてのものなのだろう。あくまでもなりきりを続ける姿勢を崩さない壮五に溜息をつきつつ、慌てて話を合わせた。
「俺が負けるわけねえじゃん。あんたが来てくれないのは、ちょっと残念。でも、終わったら会いに来ていい?」
 環の言葉に、壮五が「え」と顔を上げる。勃起してしまわないようにと天井を見上げていたはずの環はいつの間にか壮五のほうを見ていて、照れくさそうに笑っていた。
「……だめ? 俺が勝ったこと、俺の口で、あんたに報告したいんだけど」
「だ、だめじゃ、ない……」
 抱かれたい男ランキングで一位となった男、IDOLiSH7でMEZZO”の四葉環。その肉体美を惜しげもなく晒し、壮五だけを見つめている。その事実に身体がかぁっと熱くなってきた壮五は、剃刀をバスルームの端に置くと、シャワーコックを捻って環の下半身を洗った。
「……そーちゃん?」
「えっと、剃り終わったから。あとは保湿をしっかりしなきゃね」
 目の前に環のペニスがあるという事実に、今になって照れが生じる。もう何度も見ているし、触ったことはもちろん、口で咥えたことだって、後孔に受け入れたことだって、数えきれないほどあるのに。今更ながらにどきまぎとしながら、壮五はシェービングジェルを丁寧に洗い流した。
「……そーちゃんさぁ」
「え? あっ、やだ……」
 ぺたりと座っている壮五の股間に脚を伸ばした環が笑う。
「イメプ持ちかけたくせに、いきなり我に返ってんの? さっきまでおとなしかったそーちゃんのちんこ、勃ってんじゃん」
 足指を使ってぐりぐりと先端をいじると、壮五の手からシャワーヘッドが落ち、バスルームの壁に向かってさぁさぁと湯が当てられた。環はそれをひょいと拾ってシャワーフックに掛けて湯を止める。
「気持ち悪いところはないですかー?」
「あっ、あ……やぁ、……」
 片方の足指だけでは刺激を与えにくいと判断した環は、もう片方の足指でも壮五のペニスを愛撫し始めた。足の裏同士で竿を擦ったり、足の親指と人差し指の間でくびれた部分をきゅうっと締める。
「あんっ……あ、あ、あ……」
 背を仰け反らせて喘ぐ壮五に気をよくし、足指を器用に動かして一気に責め立てる。
「はは、そーちゃんエッロ。足コキで気持ちよくなってんの? なぁ、気持ち悪いところはないかって聞いてんだけど」
「あぅ、あ……ない、ない……っ、気持ちぃ…………」
 環の責めに順応するように腰を動かして「あっ、あっ」と短く喘ぐ。
「気持ちいい? かゆいとこは?」
 美容師の立場が逆転していると思いながらも、環から与えられる快感に抗えない壮五は素直に答えた。
「そこ、ぁっ、その……ぁ、っ……おちんちんが……っ」
「ちんこかゆいの?」
 からかうような声音に、いつもなら不貞腐れる壮五も、今はそんな余裕がないらしく、こくこくと首を縦に振った。
「かゆいっ、かゆいから、もっとごしごししてっ……あぁぁっ、あ、あん、気持ちぃ、ねぇ、出ちゃう、あ、あッ、はぁぁっ……あ、イク、イッちゃうぅ……」
 環が足指の動きを止めても、壮五はがくがくと派手に腰を振り続ける。まるで、環の足裏を使って自慰をしているかのようだ。壮五のいやらしい姿に、我慢し続けていた環のペニスは腹につきそうなほど反り返っていた。
「イクっ、いぁ、あ、イクぅぅぅ…………っ!」
 ひときわ高い声を上げ、勢いよく射精する。びゅるびゅると放たれた精液は壮五の鎖骨あたりまで飛んだ。
「あーあ、せっかく洗いっこしたのに。セーエキでおっぱいどろどろになってんじゃん」
「はぁっ……は…………あつ……」
 バスルームで興奮したせいで逆上せそうになりながら、肩を上下させてはふはふと呼吸を繰り返す。自分の胸許に飛んだ精液を拭い、白濁にまみれた指先を見つめた。
「ん……」
「ちょっ……そーちゃん!」
 そのまま四つん這いになって、濡れた指を後孔に伸ばす。環の制止も聞かず、くちゅくちゅと指を動かし始めた。昨晩は控えたとはいえ、その前の晩にセックスをしたばかりだったからか、完全にやわらかいわけではないものの、さほど痛みはないらしい。
「うぁ、あ……きもちぃ……」
 目の前で見せつけられる後孔を使っての自慰に、環の興奮は最高潮に達していた。だってそんな、自分でするところなんて、昔はよほどのことがなければ見せてもらえなかったのに。
「やっば……あー、……そーちゃん、お願い。舐めて」
 壮五の頭を撫で、こちらを振り向かせる。目の前に突き付けられた凶器を見とめると、うっとりとした表情で口を開いて、環のペニスを咥えた。フェラチオをしながらも、壮五の手は相変わらず自分の後孔を解し続けている。
「っは……そーちゃん器用…………」
 舌先で尿道口をぐりぐりと責められ、顔を顰めてしまった。環の腰が震えたのを察し、今度はカリのところを舐めしゃぶる。環のペニスはカリ高・ガン反り・ズル剥けといった凶悪さで、そのうえ、サイズも大きい。それを壮五は小さな口で、いつも懸命に愛撫しているのだ。
「んむっ、……ぁ、おっきぃ…………♡」
「もー……言うなって……」
 口から出して、今度はアイスキャンディーを舐めるように竿を下から上へ、裏筋をなぞるように舐める。びくびくとくっきり浮き出た裏筋が壮五の舌を刺激し、壮五もまた、快感を得ていた。
「ん、ね……挿れて」
 ぷは……と口を離し、座ったままの環の膝の上に乗り上げた。勃起したペニスに手を添え、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「ぅあ……」
 うねうねとうねる粘膜に包まれ、環はかたく目を閉じる。四年も抱いている壮五の身体はどこもかしこも環好みにつくり変えられていて、気を抜けば、あっという間に持っていかれてしまいそうだ。
「あっ、あ……ふといぃ…………」
「もー……」
 抱かれ慣れたことで壮五にも少し余裕があるのか、わざと後孔に力を入れて、環のペニスをきゅんきゅんと締め付けてくる。
(まじ……搾り取られそう…………)
 根元までずっぽりと咥え込んだところで環の両肩に手をのせ、はぁっ……と熱い息を漏らした。
「ね、気持ち悪いところはない?」
「ないに決まってんじゃん……いっつも気持ちよ過ぎて、ちんこ絶対ばかになる」
 恨めしそうに呟く環に対し、壮五は「ふふ」と笑った。
「そりゃあ、僕のここ……環くんのかたちになってるから……」
 いつだったか、セックスの最中は環にばかり余裕があって悔しいと言っていたことがあった。しかし、どう考えても、今の壮五は余裕たっぷりにしか見えない。腹立たしさをぶつけるように、下からずんと突き上げた。
「あぁっ?」
「余裕ぶってんのも……っ、今のうちだかんなっ」
 腰を抱き、がつがつと突いて揺さ振る。壮五の口からはひっきりなしに短い喘ぎ声が漏れた。
「あっ、あ、あぁ……っ、あ♡」
「っ、はは、そーちゃんさっきから〝あ〟しか言えてねーの。ウケる」
「ふぁ、あぁぁっ!」
 前立腺を抉って奥を突くと、全身を震わせながら甲高い声を上げ、ペニスからはびゅくっと精液が飛び出した。
「ん、なに……イッちゃった?」
「あ、あ……♡」
「かーわいー」
 耳許で囁くと、またしてもびくびくと身体を震わせる。どうやら、環の声に反応して断続的な絶頂を繰り返しているらしい。
「もー、そんなにいっぱいイッたらやばくね?」
「あぅ……」
 がつがつと突くのをやめ、奥まで深く挿入した状態のまま腰をぐりぐりと回すと、それに対しても、壮五は身体を震わせてしまう。甘い刺激だけ与えられている状態で、さきほど射精したばかりのペニスはまだ復活していない。
「これ以上イッたらトんじゃいそー。ちょっと我慢して」
 腰を抱いていた手で背筋を撫でて宥めても、壮五はいやいやとかぶりを振るばかりだ。
「やだじゃねーの。ほら、五秒だけでいいから」
 ごー、よん、……と、実際の秒数よりもゆっくりめにカウントダウンを始める。環のカウントダウンに焦れつつも、壮五の身体は絶頂を我慢しようと本能で耐え始めた。
「あ、あ……」
「さん……」
 早く、早く数え終わってほしい。そう思うのに、それを言葉にする余裕がない。さきほど、環は、壮五が余裕そうに見えると感じたのだが、がくがくと身体を震わせながら必死の形相で環を見つめてくる壮五を見て、唾飲が下がるのを感じた。
「にー…………」
 五・四よりも三の時間が長く、二の時間は更に長い。
「いち………………」
 環に抱き締められた体制のまま、壮五の瞳はうるうると潤み、早くしてくれとねだっている。思い付きで言ったとはいえ、よく我慢できたなと褒めてやりたい。にやりと口角を上げると、環は壮五の耳許で、それこそ、壮五が確実に感じてくれるであろう低く掠れた声で、ひとこと、囁いた。
「――――イッて」
「あっ、あぁぁぁぁ――――――っ!」
 環の許しが引き金となり、壮五はこれまでにないほど激しく身を捩って達した。勃起さえしていない状態で、ペニスからなにも出さずに達したのだ。
「すっげ……」
 後孔の縁がひくひくと環のペニスを刺激してくる。甘く締められた快感に、環は律動を再開させた。いわゆる〝脳イキ〟をしてしまった壮五はトんでしまった状態らしく、奥を突かれながら、意味のなさない言葉を発して感じている。
「あ、ぁ……♡」
「あーあ、そーちゃんトんじゃってんの? エッロ……」
 環の言葉にろくに反応を返せない状態でも、後孔の中はうねうねと蠢いて環のペニスを包み込んで離さない。ペニスを食いちぎられそうな快感に耐えるように、眉間に深く皺を刻み、夢中になって腰を動かす。気持ちいいけれど、半ば意識が飛んでいる壮五のためにも早く終わらせてやらなければならないからだ。
「はーっ、あ、イキそ……」
 このあとのことを考えると、中で出すのはまずいだろう。意識をなくした壮五の介抱には慣れているが、明日に控えた自分の撮影を考えると、中に出したものを掻き出すほどの余力はない。
「あ、あ……出るっ」
 速いピストン運動で一気に高みへと昇り詰め、射精する直前に壮五の身体からペニスを勢いよく抜いた。そのまま手でごしごしと強く擦り、壮五の身体に向かって射精する。
「ん♡ んぁ……」
 腹にかけられた熱い粘液に壮五はうっとりとした表情を見せ、環の精液を指先に絡めて微笑んだ。
「たぁきく、の……、きもちぃ……♡」
 その言葉に頭が沸騰しそうなくらい興奮してしまう。これ以上続けては明日に響くからと頭を振って煩悩を振り払い、シャワーコックに手を伸ばした。
「そーちゃんべったべたなの流すかんな」
 さぁさぁと清廉な音を立てて流れ出すシャワーと、バスルームに充満した淫靡な空気の対比にくらくらしながら、体液を手早く洗い流していく。自分自身にもさっと湯をかけて身を清めると、壮五の身体を抱きかかえてバスルームをあとにした。


    《ひとこと感想》

     



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