どこまでなら許してくれる?
*月刊かふかえ企画2025年10月号より『デート』を選択
今日のデートは、楓ちゃんの部屋でベッドに寝っ転がってひとつのタブレットを覗き込む、だらだらモード。dazzleでおいしそうなカフェや流行りのあったかアイテムの写真を眺めたり、ニュースサイトの記事を適当に拾ったりしながら、たわいもない話に花を咲かせる。特にこれをしようっていう明確な目的は決めてない。
ついつい、画面を覗き込むふりして楓ちゃんに体を寄せてしまう。肩がくっついてるだけでも嬉しい。
次はなにを見ようかなと鼻唄混じりに画面を触ってた楓ちゃんの指が、止まった。
「なにかあった?」
「いや、三十年ってすごいなーって。俺たちまだ生まれてすらないよ」
画面に映し出されてるのは、雑学コラムの紹介を専門としたアカウントによる『今日は何の日/おさわりマップ公開から三十年』の文字。なんでも、さまざまなキャラクター商品を展開する老舗の会社が発端で、人気キャラクターの〝おさわりマップ〟をSNSで公開したらかなりバズったそうだ。キャラクターの体のパーツごとに線で囲って、ここは撫でられると嬉しいだとか、ここはもっと撫でてほしいみたいな書き込みがなされたもので、その愛らしさと真似しやすさから、キャラクター産業に留まらず、地下アイドルやファンアートを制作する層に広まり、ネットミームにまでなったという説明も添えられてる。
「このキャラもふわふわでかわいいよねぇ。撫でられて喜びそうなのもわかるなぁ」
楓ちゃんのお気に入りは河童だけど、河童以外でも、愛らしい見た目のものに対しては、今みたいに甘い顔をするんだ。そういう顔をしてるキミのほうが、よっぽど愛らしいよ。
「楓ちゃんは?」
「ん〜?」
関連記事に目を通す楓ちゃんに、そっと体を寄せる。ふたりで一緒の画面を覗き込むのもいいけど、そろそろこっちを見てほしいな。
「楓ちゃんは、どこなら嬉しい?」
「えっと……?」
僕が雰囲気を変えたがってることを察してくれたみたい。それでもまだまだ気を抜いてる楓ちゃんの肩を軽く押して、ころんと転がした。簡単に転がっちゃうなんて、本当に気を抜き過ぎ。
「手は……外でデートするときも繋いでるし、大丈夫かな」
楓ちゃんの上に跨って、両手ともの指を絡めた。これじゃあ、身動き取れないね。
「か、可不可」
「だめだった?」
「いい、けど」
僕だけが知っておきたい、僕専用の〝楓ちゃんのおさわりマップ〟作成に付き合ってほしい。
「じゃあ、次は……」
絡めたばかりの指を片方だけ解き、髪を梳く。
「頭?」
「撫でてもいい?」
頷いてくれるのを待ってから、これまでも何十回と触れた頭に、手を滑らせる。ふたりきりのとき――特に、キスをするとき――に、楓ちゃんの頭を撫でるのが、僕のささやかな趣味のひとつなんだ。今はまだくちびるのお許しが出てないから、キスは我慢するけど。
指通りのよさを堪能しながら、そういえば、さっき見た説明だと、どう嬉しいかという書き込みもあったっけと思い出す。
「ね、僕が触ったとき、楓ちゃんはいつもどう思ってるの?」
興味本位で投げかけた質問に、楓ちゃんが目を瞬かせた。うっとりと目を細めてくれてたのを邪魔するようでごめん。でも、前々から訊いてみたかったんだ。
「んー……可不可のこと、好きだなぁって」
教えてくれるとしたら、嬉しいとか心地いいとかかな。ううん、照れて教えてくれない可能性のほうが高いかもと思ってたら、かなりすんなりと、とんでもない言葉が返ってきた。
「……悔しい」
「へっ? なんで?」
なんでもなにも、こっちは楓ちゃんをときめかせたくて毎日必死なのに、楓ちゃんってばたったひとことで僕をどきどきさせるからだよ。先に好きになったほうが負けっていうの、本当だと思う。悔しいから、どんどん確かめちゃおう。それで、楓ちゃんにも、もっとどきどきしてほしい。……どきどきするところまで、確かめたいな。
「なんでも。……次はどこにしようかなぁ」
もう片方の手も解放して、楓ちゃんに乗っかったまま、頭のてっぺんから視線を下へ下へと動かしていく。
照れたり恥ずかしがったりするとわかりやすく染まる耳や頬、ときどきいたずら心が湧いて甘噛みしちゃいたくなる鼻、僕とお付き合いを始めてからお手入れに気を遣うようになったらしいくちびる――どこもかしこも、きれいでかわいくて、触れたくなる。
「あ、あの」
「んー……?」
楓ちゃん観察はまだ終わらないよ。どこからどう確かめるかも、僕専用〝楓ちゃんのおさわりマップ〟作成に必要なことなんだ。まずは頭のなかである程度の予測を立てておきたい。
ゆっくり過ごせる夜は、首筋に顔をうずめただけでかわいい声をあげてくれる。たぶん、楓ちゃんはここも好き。たまに「服で隠れるところにならやってみてもいいよ」って言うんだよね。実行に移したことはないけど。
服で見えないところを見下ろす。たくさん食べた日の夜は触らないでっていやがるお腹。健康といえる範囲なら、僕は気にしないのに。もちろん、自分に置き換えて想像したらいやがる気持ちもわかるよ。好きな子にはいつだって、格好いいと思われたいから。……つまり、楓ちゃんも、僕にそう思われたいと意識してくれてるってことだよね。
「な、なんか、見過ぎじゃない?」
僕の視線の先を察したらしく、楓ちゃんが身を捩ろうとした。まだまだ、逃がしてあげない。――服越しに、鎖骨の真ん中からみぞおちのあたりまで人差し指で線を引くようになぞってから、鼓動を確かめやすい場所に手のひらを軽くのせた。
「……どきどきしてる」
裸で抱き合ってるときも、これに近い速さだ。ううん、あっちはもっと速いかも。僕も僕でそのときは夢中だから、正しく比べるのは難しいや。
「そりゃあ、こんなに見られたら」
嬉しい。まだほとんど触ってないのに、見つめるだけでこんなにどきどきしてくれてるんだ? 困ったな、次からもっと焦らしちゃいそう。
「ここは……結構、好きだよね」
「あっ」
胸のとある箇所、楓ちゃんの弱いところを、服の上から指のはらで押す。あまりいじめ過ぎても叱られるからほどほどに。でも、そういう夜を過ごすときは触ってといわんばかりに見つめてくる。ここは〝いちゃいちゃするときは触って〟かな。
どうしよう、まだまだ確かめたい。――このあいだの夜を思い出しつつ、手のひら全体で、今度はお腹を撫でる。
「可不可、そろそろ……」
楓ちゃんは、おへそも弱い。指先でぐりぐり押すと、いつも大騒ぎするんだ。でも、そこからの楓ちゃんはどんどん積極的になるから、ここも悪くないはず。おさわりマップ的には〝実は好き〟に分類されそう。
「あはは、ごめん。……腕、ちょっと筋肉ついてきたね」
「だよね? 俺も自分で思ってたんだ」
さっきまでの困惑はどこへやら。楓ちゃんは得意げに笑った。腕は〝触って褒めてほしい〟かな。
「走ってられる時間も、トレーニング始めたての頃より長くなってきたよね。僕もだけど」
僕が体力づくりに励んでたら、楓ちゃんも「俺ももうちょっと鍛えたいな」って、付き合ってくれるようになった。地下にあるトレーニングルームを使ったり、外へ走りに出たりと、これもこれでいいデートだなと思ってる。
「うんうん、可不可も体力がちゃんとついてきて……その、……」
「……?」
本当に表情がころころ変わるから、ひとときも見逃せない。今度はどうしたの?
「か、っこよくなったね、って言おうとしたら、急に照れくさくなりました……」
「そう……」
楓ちゃんの頬が染まるのと同時に、僕まで顔が熱くなった。たぶん、同じくらい赤くなってる。熱さも、同じくらいだろうか。確かめたくて、頬同士をぴたっとくっつける。
「え? いきなりなに?」
「んー……熱い」
「……照れたって言ったでしょ。熱いに決まってるよ」
普段から平熱が低めだし、自分で触ったときも僕の肌ってひんやりしてるなと思う。でも、楓ちゃんとくっついたら、自分の肌の冷たさを申し訳なく思うより早く、おそろいの温度になるんだ。これって、僕たちの気持ちがおそろいだからかな。
「ねぇ」
くっつけた頬を少しだけ離して楓ちゃんのほうを見る。視線は、どうしたって、くちびるにいってしまう。
「な、なに」
「そろそろ、ここも触りたいな」
指先でくちびるをなぞる。もっとあちこち確かめたかったけど、キスしたい欲が出てきちゃった。
「……触るだけなら、今、してるよね」
「いじわる言わないで。僕がしたいこと、わかるでしょ?」
楓ちゃんの瞳が揺れた。きっと、この子も同じことを思ってる。ここは……〝触るよりキスがいい〟かな。違う?
「もう! いじわるなのは可不可のほうだよ」
眉を寄せたかと思うと、一気に顔が近付いてきた。あっという間にくちびる同士がくっつく。
「可不可がじろじろ見たり、中途半端に触ったりするから、……」
「から?」
「わかってるくせに」
「えー? 僕、心読むとかできないし、なーんにもわからないなー」
僕の予想どおりの答えが返ってくると踏んでるけど、やっぱり、ここは本人の口から聞きたい。だって〝恥ずかしい〟よりも〝わかってほしい〟が勝ってるんでしょ? そこまで募った気持ちがあるなら、楓ちゃんの言葉で教えてほしいな。
「……ちょっとだけ、しない?」
「するって、なにを?」
ひたすらかわいがりたいのに、ことあるごとに焦らしちゃうの、自分でも悪いところだなとは思ってる。片想いの期間が長かった反動かなぁ。
「だから、キスとか、……もうちょっと先のこととかだよ! あぁもう、恥ずかしい!」
楓ちゃんはそう叫ぶと、思いっきり抱き着いてきた。嬉しいけど、自分が今どうなってるか、そんなに簡単に僕に教えちゃっていいの?
「……楓ちゃん」
「可不可のせいだよ」
「ごめん、いじわるし過ぎたね」
誠心誠意、尽くしてあげる。だから許して? ――くっつかれたまま耳許で囁いたら、楓ちゃんの体が小さく跳ねた。
「……可不可なら、俺、どこ触られても、好きだなーって、なるんだよ。っていうか、もう何回もあちこち触ってるでしょ」
すっごい殺し文句だ。もしかして、煽られてる? そこまで期待してくれてるなら、応えないわけにはいかないよね。
今日のデートは、楓ちゃんの部屋でベッドに寝っ転がってひとつのタブレットを覗き込む、だらだらモード。dazzleでおいしそうなカフェや流行りのあったかアイテムの写真を眺めたり、ニュースサイトの記事を適当に拾ったりしながら、たわいもない話に花を咲かせる。特にこれをしようっていう明確な目的は決めてない。
ついつい、画面を覗き込むふりして楓ちゃんに体を寄せてしまう。肩がくっついてるだけでも嬉しい。
次はなにを見ようかなと鼻唄混じりに画面を触ってた楓ちゃんの指が、止まった。
「なにかあった?」
「いや、三十年ってすごいなーって。俺たちまだ生まれてすらないよ」
画面に映し出されてるのは、雑学コラムの紹介を専門としたアカウントによる『今日は何の日/おさわりマップ公開から三十年』の文字。なんでも、さまざまなキャラクター商品を展開する老舗の会社が発端で、人気キャラクターの〝おさわりマップ〟をSNSで公開したらかなりバズったそうだ。キャラクターの体のパーツごとに線で囲って、ここは撫でられると嬉しいだとか、ここはもっと撫でてほしいみたいな書き込みがなされたもので、その愛らしさと真似しやすさから、キャラクター産業に留まらず、地下アイドルやファンアートを制作する層に広まり、ネットミームにまでなったという説明も添えられてる。
「このキャラもふわふわでかわいいよねぇ。撫でられて喜びそうなのもわかるなぁ」
楓ちゃんのお気に入りは河童だけど、河童以外でも、愛らしい見た目のものに対しては、今みたいに甘い顔をするんだ。そういう顔をしてるキミのほうが、よっぽど愛らしいよ。
「楓ちゃんは?」
「ん〜?」
関連記事に目を通す楓ちゃんに、そっと体を寄せる。ふたりで一緒の画面を覗き込むのもいいけど、そろそろこっちを見てほしいな。
「楓ちゃんは、どこなら嬉しい?」
「えっと……?」
僕が雰囲気を変えたがってることを察してくれたみたい。それでもまだまだ気を抜いてる楓ちゃんの肩を軽く押して、ころんと転がした。簡単に転がっちゃうなんて、本当に気を抜き過ぎ。
「手は……外でデートするときも繋いでるし、大丈夫かな」
楓ちゃんの上に跨って、両手ともの指を絡めた。これじゃあ、身動き取れないね。
「か、可不可」
「だめだった?」
「いい、けど」
僕だけが知っておきたい、僕専用の〝楓ちゃんのおさわりマップ〟作成に付き合ってほしい。
「じゃあ、次は……」
絡めたばかりの指を片方だけ解き、髪を梳く。
「頭?」
「撫でてもいい?」
頷いてくれるのを待ってから、これまでも何十回と触れた頭に、手を滑らせる。ふたりきりのとき――特に、キスをするとき――に、楓ちゃんの頭を撫でるのが、僕のささやかな趣味のひとつなんだ。今はまだくちびるのお許しが出てないから、キスは我慢するけど。
指通りのよさを堪能しながら、そういえば、さっき見た説明だと、どう嬉しいかという書き込みもあったっけと思い出す。
「ね、僕が触ったとき、楓ちゃんはいつもどう思ってるの?」
興味本位で投げかけた質問に、楓ちゃんが目を瞬かせた。うっとりと目を細めてくれてたのを邪魔するようでごめん。でも、前々から訊いてみたかったんだ。
「んー……可不可のこと、好きだなぁって」
教えてくれるとしたら、嬉しいとか心地いいとかかな。ううん、照れて教えてくれない可能性のほうが高いかもと思ってたら、かなりすんなりと、とんでもない言葉が返ってきた。
「……悔しい」
「へっ? なんで?」
なんでもなにも、こっちは楓ちゃんをときめかせたくて毎日必死なのに、楓ちゃんってばたったひとことで僕をどきどきさせるからだよ。先に好きになったほうが負けっていうの、本当だと思う。悔しいから、どんどん確かめちゃおう。それで、楓ちゃんにも、もっとどきどきしてほしい。……どきどきするところまで、確かめたいな。
「なんでも。……次はどこにしようかなぁ」
もう片方の手も解放して、楓ちゃんに乗っかったまま、頭のてっぺんから視線を下へ下へと動かしていく。
照れたり恥ずかしがったりするとわかりやすく染まる耳や頬、ときどきいたずら心が湧いて甘噛みしちゃいたくなる鼻、僕とお付き合いを始めてからお手入れに気を遣うようになったらしいくちびる――どこもかしこも、きれいでかわいくて、触れたくなる。
「あ、あの」
「んー……?」
楓ちゃん観察はまだ終わらないよ。どこからどう確かめるかも、僕専用〝楓ちゃんのおさわりマップ〟作成に必要なことなんだ。まずは頭のなかである程度の予測を立てておきたい。
ゆっくり過ごせる夜は、首筋に顔をうずめただけでかわいい声をあげてくれる。たぶん、楓ちゃんはここも好き。たまに「服で隠れるところにならやってみてもいいよ」って言うんだよね。実行に移したことはないけど。
服で見えないところを見下ろす。たくさん食べた日の夜は触らないでっていやがるお腹。健康といえる範囲なら、僕は気にしないのに。もちろん、自分に置き換えて想像したらいやがる気持ちもわかるよ。好きな子にはいつだって、格好いいと思われたいから。……つまり、楓ちゃんも、僕にそう思われたいと意識してくれてるってことだよね。
「な、なんか、見過ぎじゃない?」
僕の視線の先を察したらしく、楓ちゃんが身を捩ろうとした。まだまだ、逃がしてあげない。――服越しに、鎖骨の真ん中からみぞおちのあたりまで人差し指で線を引くようになぞってから、鼓動を確かめやすい場所に手のひらを軽くのせた。
「……どきどきしてる」
裸で抱き合ってるときも、これに近い速さだ。ううん、あっちはもっと速いかも。僕も僕でそのときは夢中だから、正しく比べるのは難しいや。
「そりゃあ、こんなに見られたら」
嬉しい。まだほとんど触ってないのに、見つめるだけでこんなにどきどきしてくれてるんだ? 困ったな、次からもっと焦らしちゃいそう。
「ここは……結構、好きだよね」
「あっ」
胸のとある箇所、楓ちゃんの弱いところを、服の上から指のはらで押す。あまりいじめ過ぎても叱られるからほどほどに。でも、そういう夜を過ごすときは触ってといわんばかりに見つめてくる。ここは〝いちゃいちゃするときは触って〟かな。
どうしよう、まだまだ確かめたい。――このあいだの夜を思い出しつつ、手のひら全体で、今度はお腹を撫でる。
「可不可、そろそろ……」
楓ちゃんは、おへそも弱い。指先でぐりぐり押すと、いつも大騒ぎするんだ。でも、そこからの楓ちゃんはどんどん積極的になるから、ここも悪くないはず。おさわりマップ的には〝実は好き〟に分類されそう。
「あはは、ごめん。……腕、ちょっと筋肉ついてきたね」
「だよね? 俺も自分で思ってたんだ」
さっきまでの困惑はどこへやら。楓ちゃんは得意げに笑った。腕は〝触って褒めてほしい〟かな。
「走ってられる時間も、トレーニング始めたての頃より長くなってきたよね。僕もだけど」
僕が体力づくりに励んでたら、楓ちゃんも「俺ももうちょっと鍛えたいな」って、付き合ってくれるようになった。地下にあるトレーニングルームを使ったり、外へ走りに出たりと、これもこれでいいデートだなと思ってる。
「うんうん、可不可も体力がちゃんとついてきて……その、……」
「……?」
本当に表情がころころ変わるから、ひとときも見逃せない。今度はどうしたの?
「か、っこよくなったね、って言おうとしたら、急に照れくさくなりました……」
「そう……」
楓ちゃんの頬が染まるのと同時に、僕まで顔が熱くなった。たぶん、同じくらい赤くなってる。熱さも、同じくらいだろうか。確かめたくて、頬同士をぴたっとくっつける。
「え? いきなりなに?」
「んー……熱い」
「……照れたって言ったでしょ。熱いに決まってるよ」
普段から平熱が低めだし、自分で触ったときも僕の肌ってひんやりしてるなと思う。でも、楓ちゃんとくっついたら、自分の肌の冷たさを申し訳なく思うより早く、おそろいの温度になるんだ。これって、僕たちの気持ちがおそろいだからかな。
「ねぇ」
くっつけた頬を少しだけ離して楓ちゃんのほうを見る。視線は、どうしたって、くちびるにいってしまう。
「な、なに」
「そろそろ、ここも触りたいな」
指先でくちびるをなぞる。もっとあちこち確かめたかったけど、キスしたい欲が出てきちゃった。
「……触るだけなら、今、してるよね」
「いじわる言わないで。僕がしたいこと、わかるでしょ?」
楓ちゃんの瞳が揺れた。きっと、この子も同じことを思ってる。ここは……〝触るよりキスがいい〟かな。違う?
「もう! いじわるなのは可不可のほうだよ」
眉を寄せたかと思うと、一気に顔が近付いてきた。あっという間にくちびる同士がくっつく。
「可不可がじろじろ見たり、中途半端に触ったりするから、……」
「から?」
「わかってるくせに」
「えー? 僕、心読むとかできないし、なーんにもわからないなー」
僕の予想どおりの答えが返ってくると踏んでるけど、やっぱり、ここは本人の口から聞きたい。だって〝恥ずかしい〟よりも〝わかってほしい〟が勝ってるんでしょ? そこまで募った気持ちがあるなら、楓ちゃんの言葉で教えてほしいな。
「……ちょっとだけ、しない?」
「するって、なにを?」
ひたすらかわいがりたいのに、ことあるごとに焦らしちゃうの、自分でも悪いところだなとは思ってる。片想いの期間が長かった反動かなぁ。
「だから、キスとか、……もうちょっと先のこととかだよ! あぁもう、恥ずかしい!」
楓ちゃんはそう叫ぶと、思いっきり抱き着いてきた。嬉しいけど、自分が今どうなってるか、そんなに簡単に僕に教えちゃっていいの?
「……楓ちゃん」
「可不可のせいだよ」
「ごめん、いじわるし過ぎたね」
誠心誠意、尽くしてあげる。だから許して? ――くっつかれたまま耳許で囁いたら、楓ちゃんの体が小さく跳ねた。
「……可不可なら、俺、どこ触られても、好きだなーって、なるんだよ。っていうか、もう何回もあちこち触ってるでしょ」
すっごい殺し文句だ。もしかして、煽られてる? そこまで期待してくれてるなら、応えないわけにはいかないよね。