ふわとろ抱っこタイム
*月刊かふかえ企画2025年9月号より『抱っこ』を選択
休日の午後、ふたりきりになれるところで贅沢なまったりタイム。贅沢っていっても、お金をかけたって意味じゃない。大好きな恋人とふたりきりで過ごせるだけで、僕にとってはこれ以上ない贅沢だ。
「はぁ……癒やされる……」
眺望のいいホテルのデイユースプラン、そのルームサービスでふわとろオムライスとデザートのチョコケーキをぺろりとたいらげた楓ちゃんは、窓際のソファーで溶けてる最中。ひとをだめにするソファーじゃない、普通にしっかりしたソファーで溶けられるなんて、この子は癒やす側だけじゃなくて癒やされる側としても才能があるみたい。
とはいえ、僕も僕で、向かい合わせにしたソファーに身を委ねて、楓ちゃんを見て癒やされてるところ。最近、すごく忙しかったから。
「まだお昼食べただけだよ」
「わかってるけど、ゆっくり食べたのも久しぶりで……」
「それはごめん。仕事を回し過ぎたね」
楓ちゃんが慌てて身を起こして「そういうわけじゃなくて」って言い出した。
「俺が好きでやってることだし、むしろ可不可は俺に無理させないように気を遣ってくれてるでしょ」
「そりゃあ、社員の勤務状況を把握するのは当然だからね」
謎解きを絡めた新しいツアーを打ち出したら、予想以上にバズった。用意してた日程分はすぐに定員が埋まったものだから、オプションを一部差し替えての代替案を急いで考えたり、追加日程分の受付をしたりと、事務仕事が濁流のように押し寄せて……朔次郎ですら、問い合わせ対応の多さで額に汗を滲ませてたくらいだ。昼食と夕食はオフィス内で軽くつまみながら仕事に向き合い、朝食は口に押し込んでオフィスに向かう日々。ご飯くらいゆっくり味わいたいとこぼしてた楓ちゃんを連れ出せたのが、業務量のピークが落ち着いた今日ってわけ。どうせならふたりきりでのんびり過ごせるところに行って、楓ちゃんをふわとろに蕩けさせちゃおう作戦。
「お腹落ち着いた?」
「ん? んー……食べ過ぎた、かも」
楓ちゃんが視線を逸らす。さりげなくお腹に手を当てたのは、しっかり食べた自分の体と、このあとの展開を結びつけて、心のなかで溜息でもついてるってところかな。
別に、気にしないのに。――って言ったら「可不可はそうでも俺が気にする」って返ってきそうだ。僕は本当に気にしないんだけど、楓ちゃんが気にするのは、それだけ、僕を恋人扱いしてくれてる証拠のような気がして、まぁ、悪くない。
「じゃあ、ふたりでごろごろするのは、今日はおあずけかな」
「うーん……」
ちょっと。なに、その〝それはそれで残念〟みたいな反応。普通に期待するし、なんなら、いつもより頑張っちゃおうかなって気分になるんだけど。
ソファーから立ち上がり、楓ちゃんに歩み寄る。作戦ではベッドで全身あちこちキスをしてふわとろにするつもりだったけど――
「え、なに、どうしたの?」
楓ちゃんの膝の上に腰掛けて、ぎゅうっと抱き着く。
「充電。ほら、楓ちゃんも腕回して」
――僕のことを抱っこしてもらって、楓ちゃんをふわとろにしてあげよう。腕に触れたら「えぇ……」なんて言いつつも、僕を抱き締め返してくれた。
「こうしてくっついてたら、もっと癒やされない?」
苦しくない程度に、抱き着いた腕に力を込める。
外は雲ひとつない青空、まさしく観光日和。以前に比べたら観光客も増えてきたから、きっと、あちこちで食べ歩きをしたり、写真を撮ったりしてるひとたちがいる。僕たちはというと、広くて静かな部屋でくっついてるだけ。面積の無駄遣い真っ最中。
「うん……なんだか、ふわーってする……」
あ、楓ちゃんがいい感じにふわとろになってきたみたい。
ハグによってリラックス効果が得られることは、大昔に立証されてる。心を分け合った相手となら効果は絶大。おそろいの気持ちな僕たちにぴったりなセラピーだよね。
「僕も、すっごく癒やされてる……」
こっそり息を吸う。お付き合いを始めてから香りが変わったこと、本人はなにも言ってこないけど、もちろん気付いてるよ。たぶん、僕が愛用してる香水と香りが混ざっても違和感がないように、似た香りのものを使うことにしたんだよね。たくさん、くっつくようになったから。
「……ちょっと、まだシャワー浴びてないのに」
あ、ばれちゃったか。それはそれで好都合といわんばかりに、楓ちゃんの首筋に顔をうずめる。
痕が残らない程度に吸ったら、案の定、甘い声が上がった。
ところで「まだ浴びてないのに」ってことは、このあと浴びる予定になってるってことだよね。それも、帰ってからじゃなくて、ここで。
休日の午後、ふたりきりになれるところで贅沢なまったりタイム。贅沢っていっても、お金をかけたって意味じゃない。大好きな恋人とふたりきりで過ごせるだけで、僕にとってはこれ以上ない贅沢だ。
「はぁ……癒やされる……」
眺望のいいホテルのデイユースプラン、そのルームサービスでふわとろオムライスとデザートのチョコケーキをぺろりとたいらげた楓ちゃんは、窓際のソファーで溶けてる最中。ひとをだめにするソファーじゃない、普通にしっかりしたソファーで溶けられるなんて、この子は癒やす側だけじゃなくて癒やされる側としても才能があるみたい。
とはいえ、僕も僕で、向かい合わせにしたソファーに身を委ねて、楓ちゃんを見て癒やされてるところ。最近、すごく忙しかったから。
「まだお昼食べただけだよ」
「わかってるけど、ゆっくり食べたのも久しぶりで……」
「それはごめん。仕事を回し過ぎたね」
楓ちゃんが慌てて身を起こして「そういうわけじゃなくて」って言い出した。
「俺が好きでやってることだし、むしろ可不可は俺に無理させないように気を遣ってくれてるでしょ」
「そりゃあ、社員の勤務状況を把握するのは当然だからね」
謎解きを絡めた新しいツアーを打ち出したら、予想以上にバズった。用意してた日程分はすぐに定員が埋まったものだから、オプションを一部差し替えての代替案を急いで考えたり、追加日程分の受付をしたりと、事務仕事が濁流のように押し寄せて……朔次郎ですら、問い合わせ対応の多さで額に汗を滲ませてたくらいだ。昼食と夕食はオフィス内で軽くつまみながら仕事に向き合い、朝食は口に押し込んでオフィスに向かう日々。ご飯くらいゆっくり味わいたいとこぼしてた楓ちゃんを連れ出せたのが、業務量のピークが落ち着いた今日ってわけ。どうせならふたりきりでのんびり過ごせるところに行って、楓ちゃんをふわとろに蕩けさせちゃおう作戦。
「お腹落ち着いた?」
「ん? んー……食べ過ぎた、かも」
楓ちゃんが視線を逸らす。さりげなくお腹に手を当てたのは、しっかり食べた自分の体と、このあとの展開を結びつけて、心のなかで溜息でもついてるってところかな。
別に、気にしないのに。――って言ったら「可不可はそうでも俺が気にする」って返ってきそうだ。僕は本当に気にしないんだけど、楓ちゃんが気にするのは、それだけ、僕を恋人扱いしてくれてる証拠のような気がして、まぁ、悪くない。
「じゃあ、ふたりでごろごろするのは、今日はおあずけかな」
「うーん……」
ちょっと。なに、その〝それはそれで残念〟みたいな反応。普通に期待するし、なんなら、いつもより頑張っちゃおうかなって気分になるんだけど。
ソファーから立ち上がり、楓ちゃんに歩み寄る。作戦ではベッドで全身あちこちキスをしてふわとろにするつもりだったけど――
「え、なに、どうしたの?」
楓ちゃんの膝の上に腰掛けて、ぎゅうっと抱き着く。
「充電。ほら、楓ちゃんも腕回して」
――僕のことを抱っこしてもらって、楓ちゃんをふわとろにしてあげよう。腕に触れたら「えぇ……」なんて言いつつも、僕を抱き締め返してくれた。
「こうしてくっついてたら、もっと癒やされない?」
苦しくない程度に、抱き着いた腕に力を込める。
外は雲ひとつない青空、まさしく観光日和。以前に比べたら観光客も増えてきたから、きっと、あちこちで食べ歩きをしたり、写真を撮ったりしてるひとたちがいる。僕たちはというと、広くて静かな部屋でくっついてるだけ。面積の無駄遣い真っ最中。
「うん……なんだか、ふわーってする……」
あ、楓ちゃんがいい感じにふわとろになってきたみたい。
ハグによってリラックス効果が得られることは、大昔に立証されてる。心を分け合った相手となら効果は絶大。おそろいの気持ちな僕たちにぴったりなセラピーだよね。
「僕も、すっごく癒やされてる……」
こっそり息を吸う。お付き合いを始めてから香りが変わったこと、本人はなにも言ってこないけど、もちろん気付いてるよ。たぶん、僕が愛用してる香水と香りが混ざっても違和感がないように、似た香りのものを使うことにしたんだよね。たくさん、くっつくようになったから。
「……ちょっと、まだシャワー浴びてないのに」
あ、ばれちゃったか。それはそれで好都合といわんばかりに、楓ちゃんの首筋に顔をうずめる。
痕が残らない程度に吸ったら、案の定、甘い声が上がった。
ところで「まだ浴びてないのに」ってことは、このあと浴びる予定になってるってことだよね。それも、帰ってからじゃなくて、ここで。