mhrv新エリア『出られない部屋』
mahorovaにできた新しいエリアに行ってみようという可不可からのお誘いに一も二もなく頷いた。なんでも、深層心理に向き合えるエリアなのだとか。
アクセスするたびにプライベートスペースがつくられ、ログアウトとともに自動消去される仕組みらしい。せっかくだから、アバターじゃなくてフルダイブで遊んでみようということになった。
「なんて言うか……白だね」
可不可の言うとおり、スペースに入った途端、目の前に広がったのは、白、白、白。天井も壁も床も、ぜーんぶ、真っ白。平衡感覚が狂いそうなくらい、白しかない世界。白って二百色あるんじゃなかったっけ。少しは別の色がほしかったかな。
「あ、ソファーがあるよ」
可不可の言葉に、目を瞬かせる。白のなかに白が溶け込んでて見えてなかった。
白しかない世界に突っ立ってるのも変な感じだし、ひとまず座ろう。そうっと腰掛けたソファーは、見た目よりふかふかだった。
これで深層心理に向き合うって、どういうこと? ――他になにかないかなと部屋を見渡した瞬間、天井から破裂音が聞こえて、反射的に可不可にしがみつく。
「びっ……くりしたぁ……あ、ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」
当然だけど可不可の顔が近過ぎて、ちょっと頬が熱くなった。
「あ、なにか降ってきた。……銀テープ?」
アイドルのライブじゃあるまいし。っていうか、この部屋、白以外のものもあったんだなぁと思いながらも、とりあえず、自分の頭にのった銀テープを手に取った。
「ん?」
そこには、当然、ライブ名称やアイドルのレプリカサインなんてものはなく――
「キスしないと出られない部屋……」
「はぁっ!?」
――この部屋の説明? らしき文言が書いてあった。俺が文字の意味を理解するより早く、隣で可不可が素っ頓狂な声を上げる。
「どどどどうしよう、可不可」
キスそのものはお付き合いしてるからできなくはないけど、したことないし……っていうか、これってmahorovaの規約違反じゃない!? ――俺の疑問に応えるかのように、銀テープがもう一本降ってきた。
「……〝利用規約のぎりぎりを攻めてるから大丈夫〟……なんでこのタイミングでこれが降ってくるの? 俺の心読まれてる!?」
俺の言葉に、可不可が部屋中を見渡す。俺もそれに倣ったけど、カメラらしきものは見当たらない。謎過ぎる。
「……どうする?」
可不可の指先が、俺の頬に触れた。
「どうするって……」
「そろそろ進んでもいい頃かなとは思ってるよ。でも、楓ちゃんがいやなら」
「いやじゃない! 俺だって、その、つ、付き合って一ヵ月、だし、興味は、あるし」
いっそのこと、強引に奪ってくれたらいいのにって思ってた。でも、普段は強引なくせに、こういうときだけは俺を待ってくれるところ、すごく好きなんだ。だから、俺からキスしていいよって姿勢を見せなくちゃ。
「ど、どうぞ」
照れくささで目を瞑って、ちょっとだけくちびるを突き出す。
「……じゃあ、す、するからね」
可不可が近付いてくる気配がした。心臓がうるさい。
「……」
やわらかい感触がしたあと、電子音とともに、ドアが開いた。
アクセスするたびにプライベートスペースがつくられ、ログアウトとともに自動消去される仕組みらしい。せっかくだから、アバターじゃなくてフルダイブで遊んでみようということになった。
「なんて言うか……白だね」
可不可の言うとおり、スペースに入った途端、目の前に広がったのは、白、白、白。天井も壁も床も、ぜーんぶ、真っ白。平衡感覚が狂いそうなくらい、白しかない世界。白って二百色あるんじゃなかったっけ。少しは別の色がほしかったかな。
「あ、ソファーがあるよ」
可不可の言葉に、目を瞬かせる。白のなかに白が溶け込んでて見えてなかった。
白しかない世界に突っ立ってるのも変な感じだし、ひとまず座ろう。そうっと腰掛けたソファーは、見た目よりふかふかだった。
これで深層心理に向き合うって、どういうこと? ――他になにかないかなと部屋を見渡した瞬間、天井から破裂音が聞こえて、反射的に可不可にしがみつく。
「びっ……くりしたぁ……あ、ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」
当然だけど可不可の顔が近過ぎて、ちょっと頬が熱くなった。
「あ、なにか降ってきた。……銀テープ?」
アイドルのライブじゃあるまいし。っていうか、この部屋、白以外のものもあったんだなぁと思いながらも、とりあえず、自分の頭にのった銀テープを手に取った。
「ん?」
そこには、当然、ライブ名称やアイドルのレプリカサインなんてものはなく――
「キスしないと出られない部屋……」
「はぁっ!?」
――この部屋の説明? らしき文言が書いてあった。俺が文字の意味を理解するより早く、隣で可不可が素っ頓狂な声を上げる。
「どどどどうしよう、可不可」
キスそのものはお付き合いしてるからできなくはないけど、したことないし……っていうか、これってmahorovaの規約違反じゃない!? ――俺の疑問に応えるかのように、銀テープがもう一本降ってきた。
「……〝利用規約のぎりぎりを攻めてるから大丈夫〟……なんでこのタイミングでこれが降ってくるの? 俺の心読まれてる!?」
俺の言葉に、可不可が部屋中を見渡す。俺もそれに倣ったけど、カメラらしきものは見当たらない。謎過ぎる。
「……どうする?」
可不可の指先が、俺の頬に触れた。
「どうするって……」
「そろそろ進んでもいい頃かなとは思ってるよ。でも、楓ちゃんがいやなら」
「いやじゃない! 俺だって、その、つ、付き合って一ヵ月、だし、興味は、あるし」
いっそのこと、強引に奪ってくれたらいいのにって思ってた。でも、普段は強引なくせに、こういうときだけは俺を待ってくれるところ、すごく好きなんだ。だから、俺からキスしていいよって姿勢を見せなくちゃ。
「ど、どうぞ」
照れくささで目を瞑って、ちょっとだけくちびるを突き出す。
「……じゃあ、す、するからね」
可不可が近付いてくる気配がした。心臓がうるさい。
「……」
やわらかい感触がしたあと、電子音とともに、ドアが開いた。