NOVELS

ちょいワルナイト



 深夜、雨の音がやけに耳について、目が覚めた。同時に喉の渇きも覚え、なにか飲もうかなとキッチンに向かう。
 こんな時間だし誰もいないだろうと思ったら、楓ちゃんがいた。予想外の遭遇に、気持ちが一気に浮かれたのを自覚する。
「なにしてるの?」
「えぇと……まぁ、いろいろと」
 彼が持つトレイにのってるのは、カットフルーツが入った小鉢と、ヨーグルト。
「なにしてるのかな?」
「……夜食です」
 朝食かおやつなんじゃないかと言いたくなるような組み合わせを前に、楓ちゃんが照れた。まったく……福岡の研修旅行のあと「ダイエットしなきゃ」って半ベソかいてたくせに、懲りないんだから。今、何時だと思ってるのかな。
「その、……ごめんね」
「別に謝らなくても。自己管理さえできてればいいと思うよ」
 事実、健康にさえ問題なければ、この子の顔がちょっとむくんでいようが、僕は気にしない。楓ちゃんもそれをわかってるのか、僕の言葉に、はにかむように笑った。
「可不可はどうしたの?」
「ちょっと喉が渇いてね」
「じゃあ、お茶でも淹れようか?」
「うん、ありがとう」
 そんなやりとりを経て、場所をダイニングへと変えた。椅子に腰掛けるなり、楓ちゃんは「いただきます」と、ひとくちサイズのりんごに取り掛かる。
 ヨーグルトに全部入れるのでも、フルーツに一気にかけるのでもなく、まずはディップしつつ味わって、最後に、ヨーグルトを飲むようにかきこむのが好きらしい。それで、フォークだけでいいってわけか。
 りんご、パイナップル、みかん、ブルーベリー、キウイ……薄暗いなかでも色鮮やかなフルーツたちが、次から次へとヨーグルトの海に飛び込んでは、楓ちゃんの口のなかへと連行されていく。
 そのフルーツのひとつに、自分を当てはめてみた。大好きな子に捕まって、まんまと連行される僕。行き先は夢にまでみたユートピア。大好きな子のなかに包まれて、そのまま溶けちゃうんだろうな。……なんて、思考が淡い桃色になっちゃった。薄暗いところでふたりきりだから、しょうがないよね。
「本当、楓ちゃんってなんでもおいしそうに食べるよね」
「うん? だって、おいしいからね!」
 ノンカフェインのホットティーでくちびるを湿らせる。あたたかい飲みものをお願いしたのは、日頃から朔次郎に体のなかをあたためるよう言われてるから。
「はい、可不可」
 りんごを突き刺したフォークが目の前に差し出される。くれるの? と視線だけで尋ねると、楓ちゃんのほうが首を傾げた。
「ほしかったんでしょ? でも、こんな時間だから、俺たちだけの内緒ね」
 いたずらっ子みたいな笑みにたまらなくなって、フォークを持った手ごと掴み、ひとくちでりんごを頬張る。舌にまとわりつくヨーグルト、歯を立てれば心地いい音を立てる果実、手のひらに伝わる温度……すべてに、心が掻き乱されていく。
 噛み砕いたそれをこくっと飲み込み、伏せてた視線を上げると、楓ちゃんの頬は真っ赤に染まっていた。……なぁんだ、そっか。
「部屋に行っていい、よね?」
 百パーセントOKがもらえると見越した質問に、楓ちゃんの視線が甘く揺らいだ。