Ballade

概要

2021.05.28発行 成人向 頒布終了

文庫サイズ 120ページ(約57,000文字)
頒布価格 600円 通販価格は異なります

カバー:ディープマット100kg(ミストグレー)
表紙:色上質最厚口(銀鼠)
本文:書籍用紙65.5kg(グレー)

 壮五に映画出演のオファーがきた。万理曰く『Forever Note』に感銘を受けた監督が脚本を手掛けたもので、壮五の主演と、同楽曲を主題歌にしたいと強く希望されているらしい。
 落ちぶれてヒモと化す描写がある点に躊躇うものの、ひたむきに音楽を愛する姿に強い共感を抱き、主演を引き受けることを決めた壮五。
 しかし、撮影中のあることがきっかけで、主人公に亡き叔父の姿を重ねてしまい――

 原案:みうら様(pixiv)
 解説:ともり様(pixiv)

発行にあたって

 2020年7月に、みうら様の「大企業の社長の次男に生まれ、音楽の道を目指し、家を勘当され無名でありながらも夢を追い続けたミュージシャンの生涯を描いた映画に主演してほしい」という言葉を見かけたのがきっかけで生まれたものです。
 小説で読みたいというみうら様の言葉にあと押しされるように、書かせてほしいと打診し、ありがたいことに承諾をいただきました。
 発行時期を2021年5月にというのも、この時点から決めていました。近年の映画公開は金曜開始が多く、2021年5月28日が、ちょうど、金曜日だったからです。
 監督や共演者の名前を考えるという点で早速つまずき、実際に書こうと取り掛かったのは冬になってからだったと記憶しています。
 映画を題材にしたものなので、映画サイトやフライヤー、前売券デザインの栞をつくりました。※フライヤー・前売券デザインの栞は2021年3月発行の再録本のおまけとして配布
 また、今回の作品は「本編を全文pixivで公開したうえで、本の通販をする」形式としました。これは、作中の映画『バラッド』の公開日である2021年5月28日当日にこの作品を読めるのが書いた本人しかいないのがいやだなぁと思ったからです。
 この本を発行したちょうど1年後、アプリ内で実装された2022年の誕生日カードURで逢坂聡の容姿が判明してしまいました……。

タイトル

 元々「交響曲」「協奏曲」などの言葉が好きで、その中でも特に好きなのが「譚詩曲(ballade)」です。学生時代に触れた、個人的に苦戦した曲に「譚詩」という単語が関わっていたからだと思います。
 作中の映画を『バラッド』としたのは、音楽としてのballadeではなく、balladを指していたためです。主演俳優が「誰かの過去をなぞっているのでは」と思うような物語。その「誰か」は世間的には破滅した男――用語として、バラッドの多くは破局が訪れると知り、このタイトルを選びました。

本の見た目

 作中に何度か登場する「空」と「海」の言葉から、海辺。
 全体的に湿度のある話だと感じたので、カバー・表紙・本文すべて、グレーの紙を使用しました。

解説

 晴れた日の青空みたい。未だミーティングルームに入ったままの状態で、腰掛けてすらいない環の瞳を見て、壮五はこっそりと見惚れる。季節でいうなら、たぶん、初夏。春ほどやわらかくなく、夏みたいにぎらぎらはしていない、ちょうど間の、青空。

【「バラッド」】ーBallade

 相方に恋をしている壮五くんが、四葉環の瞳をたとえるなら?を考えて書きました。

 たとえるなら、夜の海。静かで暗くて、深さがわからない。足を取られたら、まるごと飲み込まれてしまいそう。心が冷えた気がしたのは、恐怖心からだろうか。三十歳を過ぎてそれなりの経験を積んだつもりの万理でこうなのだから、万理より若い壮五は――いくら肝が据わっていても、経験値はけっして高くないし――怯んでしまうのでは。

【海】ーBallade

 これは、大神万理による、工藤蓮の第一印象です。九条鷹匡であったり、小鳥遊音晴であったり――いわゆる「食えない人」と対峙してきた彼でも、ぞっとする男。なにを考えているのかわからない。要所要所に「空」か「海」を出したいと決めていて、次に挙げる「逢坂壮五から見た工藤」を描くために、海を選びました。

 どんな人だったか。濃藍の瞳が、暗い海みたいだと思った。作品にするつもりなんてなかった、壮五の曲が脚本を書くきっかけになったんだと言われた時、もしかして、これは責められているのかもしれないと思った。おまえさえ曲を出さなければ、自分は監督業だけをやっていたのにと、言われたような気がしたからだ。しかし、あの曲が脚本を書くきっかけになったのは、――ありがたい話ではあるが――壮五の知ったことではない。すぐにそう思えたから、暗い海だと思っても、平然としていられた。

【海】ーBallade

 壮五くんも、工藤のことを海にたとえます。アプリのサイドストーリーにある、沖縄の夜を思い出させたかったからです。

 では、雅樹はどうだろう。台本を開き、次のシーンを確かめるふりをして、雅樹の登場シーンを追う。藤崎家の長子。生まれた時から、将来が決められた男。両親に厳しく躾けられ、優秀に育ったようだ。音楽に夢中な弟がいて――
(まるで、……)
 ――壮志みたいだなんて考えに至った瞬間、全身から汗が噴き出る。だって、それじゃあ、貴志は? いや、違う、これは映画なのだから、あの人を重ねてはいけない。

【寒雲】ーBallade

 ここから、壮五くんが自分の演じる役への疑念を深めていく。そのきっかけとして、雅樹の設定を読み直させました。

 叔父・聡は煙草を愛飲していた。頻繁に会っていたわけではないから、どこの、なんという銘柄かまでは知らない。聡が他界したあと現在に至るまで、同じ香りに出会うことはなく、珍しい銘柄か、廃盤になった銘柄なのだろうと思っていた。

【紫煙】ーBallade

 この点が完全な捏造で、逢坂聡は喫煙者だったという設定にしました。聡が非喫煙者だと公式で明言されたら矛盾してしまうので、そういう意味でも、新しいストーリーが追加されてしまうまえに書き上げなければと思った記憶があります。……5部がきても、ラビチャつきのカードが追加されても、そこまで掘り下げられることはないと思いますが。

 彼の恋心が嬉しい。彼の初めてを手に入れたい。でも、音楽以上に大事なものをつくるのは怖いから、恋人にはならない。

【青空】ーBallade

 壮五くんが、環くんを翻弄させ始めた時の感情です。この章の中で何度かこの一文を繰り返し登場させては、続く文章を変えています。

 なにもかも、どうでもよくて、全員、追い返してやった。だって、あいつはもう死んだんだぞ。死んだら、なにも残らない。――電話越しとはいえ、壮志が感情的になったのは、その一度しか知らない。

【「ソウ」】ーBallade

 逢坂壮志が壮五くんにしたことは心理的な虐待で――外野の意見を述べるとすると――許されるものではありません(法の裁きを受けない限り、許す・許さないは第三者が決めるものではないため、こういった言い回しになりました)。
 ですが、逢坂家は彼が一代で築き上げたものではなく(アプリ本編内、要所要所で感じ取れる情報)、恐らく、逢坂壮志も、厳しく育てられたのだろうというのは、想像に難くありません。音楽への夢を捨てきれず、逢坂家の恥と言われながら、死んだ弟――まったく、1ミリも哀しくなかっただろうか? そんなことはないと思います。そんなことないからこそ、自分の息子が音楽に進むのを反対する言葉の中で聡を例に出していると、わたしは解釈しています。

 逢坂壮五の物語は、春ほどやわらかくなく、夏みたいにぎらぎらしていない、ちょうど間の、初夏の日差しを受けた海のような、きらきらした話になるはずだ。

【「ソウ」】ーBallade

 冒頭で「相方に恋をしている壮五くんが、四葉環の瞳をたとえるなら?」を考えて書いた文と同じにしました。MEZZO”はなにかと正反対と言われるけれど、根本的なところは似ていて、繋がっているからです。

おわりに

 すべてを明らかにしなければならないとは考えていませんが「これってどうなったんだろう」と思われるであろう項目について、ここに記しておきます。

壮五くんの記憶にある「叔父のアパートを訪ねた女性」の正体

 生涯独身だったが、一人だけ、愛した女がいたらしい。自分は成功できないとわかって、聡から別れを切り出したそうだ。

【「ソウ」】ーBallade

 最終章にある上記の一文(工藤が、過去に壮志から受けた電話で聡の死を知った日の回想)に出てくる「一人だけ、愛した女」です。
 成功できないとわかって、聡から別れを切り出したものの、納得できなかった彼女は聡のアパートを訪ねた。呼び名が「ソウ」だったのは、逢坂家を飛び出した聡がここにいることや、売れていないとはいえ音楽をやっている男に恋人がいるなんてあまり知られないほうがいいのではという彼女なりの気遣いから、他人が聞いているかもしれないところでだけ、本名を呼ばずにいた――という背景があります。
 ドア越しに「ソウ」と呼ぶ女性がいたことは聡と壮五くんしか知らない。聡に恋人がいたことは本人と音楽仲間しか知らない。でも、その音楽仲間を壮志は追い返したから、詳しいことは知らない。詳しいことを知らない壮志の話でしか工藤も知らない。
 この話に聡の元恋人や音楽仲間が登場しない以上、すべてを詳らかにする必要はないと判断しました。

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