友愛迷宮

概要

2019.12.01発行 成人向 頒布終了

文庫サイズ 100ページ(約45,000文字)
頒布価格 500円 通販価格は異なります

カバー:マシュマロ110kg(ホワイト)
表紙:色上質最厚口(コスモス)
本文:書籍用紙65.5kg(グレー)
加工:カバーにトワイライトPP

 二人が出会って三年。一向に気持ちを自覚してくれない環に焦れた壮五は、自分の恋心は打ち明けずに、これは友愛という〝愛〟を含んでいるからできることだと言い聞かせ、彼の気持ち初めてを奪った。
 しかし、理性を失った行為で壮五を傷つけたのではと怯える環を見て、壮五は自分がとんでもない過ちを犯したと後悔する。
 罪悪感と気まずさから環を避け続けること三ヶ月、追い詰められた壮五が出した答えとは。

発行にあたって

 ゲーム本編での壮五くんの「友愛」発言をきっかけに〝友愛を拗らせて身体の関係が先にできあがる環壮〟というのを書いてみたいと考え、それはもう、うんうん唸り続けました。
 これまでに書いた環壮で〝無自覚なのに触り合いをする〟とか〝キスから始まって自覚する〟といったものはありましたが、いわゆるセフレ状態のようなものは(読みはするけれど)書いたことがなかったので……そういう関係に発展するだけの理由付けができないうちは自分では書かないでおこうと思っていたんです。
 ラブコメっぽく書くのか、それとも、真面目な感じで進めるのか。当初は添い寝する間柄になってそこから最後までしてしまう……というラブコメっぽいものを考えていたはずなのですが、予測される文字量的にずっと使いたいと思っている本文用紙が使える数少ない機会だったので、その紙に合いそうなものを書こうと方向転換をしたようです。正直、方向転換したあたりのことはあまり覚えていません。

タイトル

 なんとなく気恥ずかしくて、タイトルに〝友愛〟という言葉は使わないでおきたかった。話の方向性を決めた時の予定では〝薄明〟という言葉を使うつもりでいたのですが、発音があまりいい響きではなかったので(薄命)、結局〝友愛〟を使ってしまいました。
 最近のタイトルがカタカナを使用したものばかりだったので、カタカナは避けようと考え、とりあえず漢字四文字にしようということだけ決めて本文を書き進めることに。
 本文をひと通り書き終えたあとも、章タイトルとともにぎりぎりまで考えていたのですが、なんとなく、ぐるぐると迷路に迷い込んだみたいな話の流れだったなと思い返して、このタイトルになりました。

本の見た目

 本文を書き進めながらタイトル以外の部分を先につくっていました。
 本文中に出てくる好きな文章から鍵を彷彿とさせたくて、タイトルの周囲がなんとなくそれっぽいような感じになるよう並べました。鍵の出っ張り部分に相当する文字をすべて横にしてしまうとREUNIONロゴに似てしまうので、それは回避しようと最後に微修正しました。
 夏から始まり翌年の冬で終わる話なのに上から冬→秋→夏の順に文字を配置したのは、鍵を挿し込んだ時に先端から鍵穴に入っていくからという理由です。最後まで挿し込まないと解錠できない。そして上から見て冬→秋……つまり、秋と冬の間が少し開いているのは秋と同年の冬ではなく、翌年の冬だからです。この配置にすることを決めてから、章タイトルを英訳した時にそれくらいの間隔が開くようにと考えました。この時もまだ章タイトルは決まっていなかった。
 使用しているトワイライトPPですが、原稿中、これを使うかどうか悩んだ理由があります。恐らく、トワイライトと聞くと多くの人が〝黄昏〟と訳すでしょう。間違いではありません。でも、わたしは〝薄明〟の意味で採用したかった。当初のタイトル案で〝薄明〟が候補に含まれていたのはこれが理由です。結局は前述の理由からタイトル候補より外してしまったので、カバー原稿に章タイトルの英訳を入れ、本文の章タイトルを日本語にすることで、気付いた人だけがわかってくれたらいいなと思うようにしました。あとはトワイライトPP、ずっと使いたかったんです。トワイライトPPを使った人のツイートを探して、いいなぁいいなぁと憧れていました。
 本文用紙の書籍用紙グレー。これが以前から使いたいと思っていた紙です。いつも使う紙よりやや厚みがあるので(女性向け漫画同人誌本文によく使われる各種コミック紙くらい)、いくらやわらかくてめくりやすいとはいえ、ページ数があまりかさまないものに使いたいとずっと思っていました。ツイッターでこの本文用紙を文庫サイズで使った人のツイートを片っ端から見て、わたしの本文レイアウトなら150ページくらいが限度かなと夢想したこともあります。
 色合いから、ラブコメではなく少し面倒くさい話・シリアスな話・大正パロなどの過去時代ものに向いているだろうと感じており、これまでの既刊がラブコメに比重がかかっていたこともあって、なかなか使う機会に恵まれなかったので、今回はページ数・内容ともに絶好の機会だと使用することにしました。
 近年、どの印刷所でも製紙会社での廃盤などから紙の取り扱いが終了または代替用紙への変更を余儀なくされることが増えています。なので、使いたいと思っていたのだから、この機会に使ってしまおう! と思ったのもあります。

解説

 空は朝から機嫌が悪く、強い雨と風が窓を叩き続けている。厚い雲に覆われて終ぞ姿を見せることのなかった太陽が地平線の向こう側へ姿を消したあとも、空が機嫌を直すことはなかった。それどころか、ますます虫の居所が悪いと言わんばかりに、閃光を放ち、唸り声を上げるまでになっている。

【夏、雷雨】-友愛迷宮

 季節の境目が曖昧になりつつある日本ですが、元々、雷雨は夏の風物詩とも言われているものです。一年中あるものだけれど、特に、夏に発生しやすい。
 窓を強く叩く雨風と、遠くで鳴る雷。閃光を放ってから唸っているので近くに落ちている雷ではない。遠雷も、夏の言葉です。
 当初はタイトルに遠雷を入れようとしたものの、直木賞&本屋大賞W受賞の作品の表紙が脳裏に浮かんでなかなか離れなくなったのでやめました。

 恋を教えるのは怖いから、自分で恋に気付いてほしい。淡い期待を胸に、環の前で、それとなく彼の胸の奥に燻る熱を煽ったこともある。きみが一番大事だ、きみがいてくれてよかった、きみは僕の人生をもっとも変えた人だ……他の人が聞けば顔を赤らめるか、お熱いねと囃し立てるであろう言葉を、環にだけ捧げた。

【夏、雷雨】-友愛迷宮

 3部16章1話・3部17章2話・2018年誕生日カード(壮五)のラビチャで見たような、そしてそれを読んでいるこちらがウワ~となった言葉たち。
 もちろんゲーム本編の壮五くんはそれどころではなく真剣に言っているんですが、環壮目線ではウワ~な言葉たちだなぁと、原稿のために読み返して頭を抱えました。

 鱗雲が広がる空の下、昼過ぎからおこなわれたロケは夜までかかったものの、予定より三十分ほど早く終了した。

【秋、鱗雲】-友愛迷宮

 なぜ鱗雲……という感じかもしれません。正直、秋の空を思わせる章タイトルを決めるのが一番苦労したと思います。
 絶対ではありませんが、一般的に、鱗雲は雨の予兆と言われています。今は晴れているけれど、完全に晴れているわけではない。ぽこぽことした雲が広がっていて、天気が崩れる予感がする。それはそのまま、この章での彼らの様子を表したかったものです。

「俺のこと、怖いって思う? ……あん時、俺、怖くなった。そーちゃんに乱暴したって思って、クソ親父みたいって。俺、やっぱりあいつみたいに」
「それはない!」

【秋、鱗雲】-友愛迷宮

 一章【夏、雷雨】で、環くんの過去のトラウマを捏造するだけでなく、情事の直後にフラッシュバックさせるということをしたので、慎重にならなければと思いました。作品としての描写のために登場人物を傷つけてしまったのだから、それを癒す描写もどこかでしなければという思いで、このやりとりを入れました。

 どうしてこんなことをするの。ひどいことをした自分は、今更、恋心を打ち明けるなんて許されない。罰として恋心に蓋をし、鍵をかけた。錘をつけて海の底に沈めてしまわなければならないのに、未練が邪魔をして、未だに錘がつけられないでいる。そんな時に指先に優しくくちづけられたら、鍵が壊れて、閉じたはずの蓋も開いてしまう。

【秋、鱗雲】-友愛迷宮

 これが、カバー原稿に鍵のようなものを出したいと思ったきっかけの文章です。

 薄明が差し込む眠りの世界で、壮五は裸足のまま、ゆっくりとリビングに向かった。

【冬、薄明】-友愛迷宮

 本編94ページ中、一番書きたかったシーンです。裸足のまま、部屋の灯りもつけずにぺたぺたとリビングに向かう様子。一章・二章と、夜に関係性が変わる二人を書きましたが、これだけ、朝です。そこに意味を持たせたかった。
 冬の朝は本当に空気が澄んでいて、背筋がぴんと伸びる。背筋を伸ばすと、気持ちも少し上向きになる気がします。そのタイミングで、この作品における彼らの関係を、彼らが望んでいるものになるよう踏み出してほしい。そう思いました。

 閃光の数秒後、遠くのほうで唸り声がした。
「うぅぅ……」
 ……遠くだけではなく、間近でも唸り声が。情事の余韻に浸るこの時間に似つかわしくない。もうすぐ二十二歳になるというのに、彼は相変わらず雷が苦手なようだ。

【春、春雷】-友愛迷宮・おまけSS

 もうすぐ二十二歳になる環くん。つまり、春の訪れを知らせる雷――春雷です。
 二人の関係性は変わったけれど、雷で始まったから、雷で終わる。
 この作品全体を通しての裏テーマは〝空模様〟でした。

おわりに

 本文をひと通り書き終えた三週間後に4部16章・17章の配信及び『Forever Note』のリリースがあり、原稿にものすごく影響が出ました。
 わたしが思っていた以上に、4部のMEZZO”の絆が強くなっていた。なので、少しだけ、本文に手を加えています。それによって「きみを巻き込むよ」なんて言っていたくせに感が出て、より一層、拗れ感が強くなったなと思いました。

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