シュガーベイビー、シュガーダディ

概要

2019.05.03発行 成人向 頒布終了

文庫サイズ 180ページ(約86,000文字)
頒布価格 1,000円 通販価格は異なります

カバー:マシュマロ110kg(ホワイト)
表紙:色上質最厚口(コスモス)
本文:書籍用紙62kg(クリーム)
加工:カバーにエンボスPP(レザー)

〝二十歳・男。とりあえず明日飯食わせて。女はだめ。年齢は俺よりふたつかみっつくらい上まで。男でもカラダの関係はNG、キスもなし〟――〝パパ〟を募集している文言に興味を引かれた壮五は、みずから立候補する。
 友人のような気さくな付き合いを楽しむ壮五。しかし、初めて会った日の夜から、環に触れられる夢を見るようになってしまい……? 契約か、恋か。全編書き下ろしの環壮小説。

発行にあたって

 短編集の発行時期をずらしたことで、なにを発行しようかと予定が白紙に戻ったのが2019年3月初め。
 その頃〝ラビットチャットのやりとりがきっかけで関係が発展する、ページデザインも普通の小説とは違ってラビットチャット風のデザインで話を進め、A6変形断裁に角丸加工をした中綴じ本〟を考えていたものの、わたしが書くであろう文字量や、会話文のみで展開を進める書き方が未経験という点を考えると、締切までにそれを完成させることが不可能だと判断し、あえなく断念しました。
 考えている間にラビットチャット風のデザインの骨組みをつくってしまっていたので、消すのはもったいないから、せめてこれをカバーに使えるように、文字のやりとりがきっかけになる話を書こうと思いました。
 同じ寮で暮らしている彼らが文字のやりとりで関係を進めるという話をわたしが書くと、多分、本にするほどの文字量にはならないという直感から、アイドルをしていない世界線で書くことに。アイドルをしていない世界線で、なおかつ、せっかくつくったカバー原稿の骨組みを使うためにも、ラビットチャットのやりとりを必要とするような設定で彼らが出会うには? というところまで考えて、壮五くんが御曹司だったことを思い出し、パパ活にしようかなと思いつきました。
 忘れないうちにさわりだけ書き始めてから、完結まで書ききるために必要なものがわかってくるので調べる。事前に調べないのは、書き始めてからでないとなにが必要かわからないから。話が軌道に乗るまで調べて書いて調べて書いての繰り返し。この本で言えば、パパ活用語、売春に関する法律、個人経営者の夜逃げ事例、雇用保険、(アフィリエイト目的で書かれたであろう)マッチングアプリの紹介文。
 日頃、17歳の環くんに性的なことをさせておいてどの口が言うかって感じなんですが、パパ活問題や売春に関する法律のことを考えると、18歳以上……できれば成人しているほうがいいかなという考えから、彼らには成人済の設定になっていただきました。
 現在の日本の法律では男同士の売春を罰するものはありません。ありませんが、フィクションの二次創作作品という、ある意味特殊な世界であっても、ほんの少しだけ、現実世界でこの行為がどう思われるものなのかを意識できるものにしたいなという思いは常にあります。そのことから、本には下記の注釈を記載しました。

 作品の設定をわかりやすくするため、売春・不貞といった言葉を使用いたしましたが、日本における売春行為・不貞行為は違法とされています。また、作品内で「金銭を受け取ってしまったらそれこそ売春になってしまう」という表現がありますが、現在の日本の法律では男同士の売春を罰するものはありません。あくまでも作品の世界観に合わせた表現であること、当作品がフィクションであることをご理解ください。

タイトル

・シュガーベイビー……パパ活でお小遣いをもらう人
・シュガーダディ……パパ活のパパ
 アイドルをしていない世界線であること、パパ活ネタという、もしかしたら人によっては敬遠したいものかもしれないということから、タイトルでおおよその雰囲気が掴めるものにしました。

本の見た目

 スマートフォン及びそのディスプレイに表示されているラビットチャット風のものは自作です。ゲーム内で見ているものと完全に同じデザインにならないよう、少し変えてあります。
 タイトルは本文原稿を書き終えてから決まったので、あとから配置しました。
 カバーのエンボスPP(レザー)は、壮五くんが一人暮らしをしている家に革張りのソファーがあるという設定があり、ちょうどそれっぽいものがあったので選びました。

解説

西改札を出て目の前にあるエスカレーターで地下一階へ。右には地下鉄の改札、左には地下鉄の切符売り場、真正面には地下鉄の隣駅まで続く地下街がある。地下街は入口で通路が二手に分かれているから、間違えないよう『サウスモール』と書かれた案内板を確認して。通路をまっすぐ進むと、右手側に喫茶店が見えてくる。

-シュガーベイビー、シュガーダディ

 喫茶店で待ち合わせをさせたのは、単にわたしが喫茶店大好きだからです。わたしは非喫煙者ですが、嫌煙家ではない。分煙すらされていない喫茶店でジュースとバタートーストを注文するのが好きです。

グラスとおしぼりを置いて一礼した店員に「ミックスジュース」と注文を告げ、待ち合わせ相手の向かい側に腰掛けた。

-シュガーベイビー、シュガーダディ

 喫茶店で環くんがミックスジュースを飲んでいるのは、わたしの価値観で〝喫茶店でジュースを率先して注文する人は、どこか子どもな部分がある〟というものがあるからです。
 喫茶店の顔ともいえる飲みものはコーヒーです。一番オーソドックスなコーヒーなら、ソフトドリンクよりも安価であることが多い。この時点の環くんは、雇い主が夜逃げし、住んでいるアパートから退去を迫られ、金銭的に困窮している状態です。自腹なら、環くんも、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲んでいたでしょうが、今回はパパとなる壮五くんと初めて会う日。食事代を負担してくれるとなれば、わざわざ苦いコーヒーを注文しなくてもいい。数十円~百円の差ですが、値段を気にせず好きなものを注文できます。きっと、彼は冷たい飲みものを欲することでしょう。
 オレンジジュース、コーラ、ジンジャーエール……たいていの喫茶店にあるだろうソフトドリンクから、甘くて子どもっぽさが感じられるものをということで、ここはミックスジュースを選びました。

事務所のドアを開けてとぼとぼと出ていく依頼人の忘れものに気付き、慌てて追いかけ(中略)環の言葉に思うところがあったようで、忘れものを届けてくれた礼だと言って、その男は近くの喫茶店で飲みものを奢ってくれた。男はブラックコーヒーを注文し、環はクリームソーダを頼んだ。さくらんぼののった、子どもの象徴みたいな飲みもの。

-シュガーベイビー、シュガーダディ

 壮五くんと惹かれ合ったものの、彼からパパ活契約を打ち切られることになった環くんの回想シーン。過去に、仕事の依頼人から恋愛観を語られ、当時、恋愛経験のなかった環くんにはそれが理解できず、理想論で言い返したというもの。ここでも喫茶店が出てきます。
 この時は、二十歳の環くんよりももう一歳若い。そのうえ、話の冒頭でパパ活をして壮五くんと出会った時のように、二十歳だからと格好つけなくていい。妹を探しながらも、まだ十九歳という大人と子どもの境界線を楽しんでいたであろう時期ですから、もっと子どもっぽい飲みものにしようと思いました。
 奢ってくれた依頼人は、婚約者の過去の恋愛事情を調査してほしいと依頼した、色恋の酸いも甘いも知ってしまった大人で、ブラックコーヒーを飲んでいます。環くんは色恋を知らない、どこか夢を見ている子ども。メニューにあるソフトドリンクで、子どもっぽくて、一番夢があるもの。わたしはクリームソーダだと思いました。さくらんぼとバニラアイスがのっていて、しゅわしゅわとした炭酸の泡に、着色料たっぷりのメロン味。おもちゃのような見た目は、子どもの象徴のようなもの。
 でも、いつまでもその時のような子どもではいけない。それが、ここの章タイトルです。

唇を尖らせてストローを吸う。ブラックコーヒーを頼んだ壮五に対し、環はアイスストレートティーを注文した。ガムシロップとミルクの小瓶は、出番がないまま、テーブルの上に鎮座している。甘いものが好きなら、入れればいいのに。

-シュガーベイビー、シュガーダディ

 壮五くんと再会し、彼に呼びつけられたホテルのロビーラウンジでは、アイスストレートティーを飲んでいます。ガムシロップもミルクも使わない、いわば、ブラックティー。ちなみにこの時の壮五くんはブラックコーヒーを飲んでいます。
 環くんがガムシロップもミルクも入れなかったのは、壮五くんに尋ねられて答えた通り「甘いだけじゃだめかなって」思ったから。
 壮五くん曰く、環くんはコーラフロートは炭酸の気持ちよさとバニラアイスが同時に楽しめて贅沢だと語っていた。甘いコーラに甘いバニラアイスという、やっぱり子どもっぽい飲みものを好んでいた環くんが、ジュースではなく、ガムシロップもミルクも入れずにアイスティーを飲んでいる。環くんが大人になろうと決めたという心理を表すため、これを飲ませました。
 壮五くんが飲んでいたコーヒーに、環くんが目の前で砂糖とミルクを勝手に入れ、飲むように言ったのは、大人ぶらないでという、環くんの願いの表れです。

おわりに

 大人になろうとした環くんと、大人ぶらないで少しだけ子どもになった壮五くんが同じ目線になったところで、二人はやっと互いの本心をぶつけ合うというスタートラインに立てた。
 多少言葉を荒らげての言い合いを経て、自分は年上なのだからと大人ぶっていた壮五くんは本音を晒す覚悟を決め、無邪気だった環くんは壮五くんの本心を言い当てることで、恋愛を知る。そういう話です。

error: